何も変わっていない
そこにいたのは、銀髪の女の子でした。
輝くような銀髪の女の子で、ロガフィさんと似ているけど、こちらは本当に、銀色って感じの髪色です。クナイさんのものと似た、黒いドレスに身を纏っているけど、こちらはスカートを短めにして、黒いタイツを履いています。ちょっとだけ、セクシーです。
ただ、幼女は幼女なので、胸はなく、背伸びしてる感じがして、微笑ましさを感じさせます。
「……それはつまり、私の依頼は、受けられないと言う事かしら」
そんな、姿を変えたメギドさんの姿に、アスラは驚く事もなく、普通に話を続けます。
ボクとアスラを遮っていた、メギドさんの尻尾はなくなったので、お互いの姿は見えるようになっています。そうなったらそうなったで、なんかちょっと気まずくて、居心地が悪いです。
「受けられぬ。貴殿には、正義がない。せめて、何が目的なのか、手の内を教えてくれれば、協力する事もできるかもしれぬが……」
先ほどまでは、おじいさんのような声で喋っていたメギドさんの声は、幼女に相応しい、高くてか細い声に変わっています。
声だけあのままだったらどうしようかと、心配になっていたけど、そんな心配はいりませんでした。
「……」
「では、協力するのは、無理だ。それで、どうする。わしの提案を受けるか?それとも、受けぬか?」
「──いいわ。私の力を授かった魔王が、もしその子に倒されたら、私は手を引く。貴女達には今後一切手を出さないし、後の事は全て、ラスタナに任せる」
そんな簡単な事を、アスラはあっけなく受け入れてしまいました。
「ただし、もし魔王が勝った場合は、分かってるわよね?死ぬより酷い目に合ってもらうわよ。もちろん、貴女達全員ね。ううん、それだけじゃ物足りない。貴女とかかわった人々全員、同じ目に合ってもらう」
「っ……!」
それは、リーファちゃんや、レイラさんにアジェットさん等、この世界に最初から住んでいた人たちも、対象となる事になる。他にも、知り合った女の子はたくさんいる。ボク達だけならまだしも、ただボク達と知り合っただけの人たちまで、賭けに巻き込むわけにはいかない。
「勇者よ、それで良いか?」
「……い、いえ……ボクは、やりません」
勝手に、人を賭けるような事は、できない。メギドさんには悪いけど、この勝負は受けられません。
「そうよね。弱虫で、引きこもりの勇者が、そんな勝負受ける訳がないわよね。本当に、どうしようもないクズの勇者……でも、チャンスをあげる。貴女が望むのなら、元の世界に帰してあげる。元の、ゲームやアニメに漫画のある世界よ」
「え……?」
一瞬、アスラのそんな提案に、ボクは惹かれてしまいました。丁度、ゲームの続きとかが気になってたところで、そこにそんな提案をされたら、戸惑っちゃいます。
だけど、頭に浮かんだ皆の顔が、すぐにボクを引き止めました。
むしろ、この世界に送り込んでおいて、平気でそんな事を提案してくるアスラに、怒りがわいてきました。
「そんなの……勝手にこの世界に送り込んでおいて、今更そんな事言われたって、ボクは受け入れません」
「いいの?こんなチャンス、もうないわよ?」
「いりません。貴女は、ボクを弱虫だとか、クズとか言ったけど、本当に弱虫でクズなのは、貴女のほうです。自分では戦わず、竜に力を貸して戦わせるだけ。竜に断られると、次は魔王にまで力を貸して……貴女は本当に卑怯で、年増で、露出狂のおばさんです!」
「……」
言い切ったボクは、言い切ってから、後半余計な事を言っていた事に気づきました。恐る恐る顔を上げると、やっぱり怒ったアスラがそこにいて、ボクを物凄い形相で睨みつけていました。
あまりの形相に、ボクは一歩退きます。
「ははは!」
「ひんっ!」
退いたボクのお尻を、幼女になったメギドさんが、笑いながら強めに叩きつけて来ました。乾いた音が響いて、お尻がヒリヒリします。
「アスラ様よ。この、異世界の勇者の言う事も、尤もである。女神様にこうも物を言える者を、わしは弱虫とは思わんぞ」
「そうね。あまりにも不作法で、無礼な態度。前から何も変わっていない。……いいわ。その賭け、やりましょう」
「で、でも……」
ボクは、他の人を巻き込んだ賭けはしない。だから断ったので、それを受ける訳にはいきません。
「もし貴女が負けた場合、貴女は私の物になる。それで、許してあげる」
ボクが負けた場合の条件が、変わりました。その条件なら、他の人を巻き込まないので、受けても良い気がします。
「……い、いいですよ。それなら、受けます」
「自分が、どんな目に合うかとか、考えないの?」
「別に、ボクはどうなっても構いません。皆に何もないのなら、それでいいんです。でもそれ以前に、ボクは負ける気はありません。勝って、この世界で、自由に楽しく暮らすだけです」
「……いいわ。貴女が泣いて、叫んで、許しを乞う。そんな姿を見る時を、楽しみに待ってるから」
そういうと、アスラは背中に生えた翼をはためかせ、宙に浮きました。その頭上に出現した光の渦に、吸い込まれるようにして入ってき、その姿をあっという間に消してしまいました。
アスラが消え、静かになると、ボクはアスラに、どんな事をされるのか、凄く不安になってきて、頭を抱えます。黒い革の服を着たアスラに、鞭打たれて馬車を引く自分の姿とかを想像して、凄く不安です。それだけじゃない。首輪をつけられて、犬小屋で飼われたりするかもしれません。
性格の悪いアスラの事だから、そうなったらきっと、ボクには一切の自由が与えられないはずです。




