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「さぁ、皆さん!たくさん食べてくださいね!」


 目の前には、ユウリちゃんが用意してくれたご飯があります。野宿とは思えないような、豪華な食事がそこにはありました。

 焚火でやいた魚や、炊き立てのご飯。野菜のスープに、ハムの炒め物。どれも美味しそうで、良い匂いです。


「うっ……」


 しかし、そんな美味しそうな食事を前にして、未だに体調の悪い3人は、口を押さえてとても失礼な反応を見せました。


「い、いただきます」

「……いただきます」


 そんな3人をよそに、ボクとロガフィさんは、お魚を口に運びます。棒に刺さった魚は、焼きたてでとてもおいしいです。聞けば、そこの川で取れた魚で、身が豊富で柔らかく、食べ応えがあります。うっすら塩味も利いていて、ご飯ともとても合っている。これだけで、ご飯3杯行けてしまいそうです。


「はい、イリス。あーん」


 ユウリちゃんの膝に乗せられているイリスは、ユウリちゃんが口に運んでくれる飯を、口を閉じて拒否します。

「勘弁してください、ユウリ。本当に、気持ちが悪くて吐きそうなんです」

「……せっかく、皆さんのために作ったのに。はむ」


 ユウリちゃんは、食べてくれないイリスに、ちょっといじけた素振りをみせ、代わりに自分の口に運びました。

 食べてくれないのは、イリスだけではない。皆で木箱に座り、焚火を囲んでいるのに、気分が悪そうにしているレンさんとディゼも、ご飯に全く手をつけていません。

 しかし、そんなユウリちゃんの反応を見たディゼが、いてもたってもいられなくなり、お魚を口に運びました。明らかに、無理をして食べています。顔は青ざめて、全く美味しそうじゃありません。あと、耳が垂れ下がり、尻尾もふにゃふにゃです。


「……」


 それを見て、レンさんも、スープに口をつけました。こちらも、ディゼと同じような感じです。全く美味しそうじゃありません。

 それでも、体力をつけるため、少しは食べた方がいいので、ボクは心の中で応援しながら、見守ります。


「それにしても、どうしてユウリさんは平気なんだろね?」


 アンリちゃんが、焚火の中で火にあぶられながら、そう言いました。幽霊だから平気なんだろうけど、見た目が悪すぎます。


「な、何してるの、アンリちゃん。危ないから、出て」

「はーい……で、どうして?」


 ボクの言う事をおとなしく聞いてくれたアンリちゃんは、地面に寝転がりました。片手で首をおさえて、身体を炎に向けて聞いてきます。炎までは近すぎて、絶対に熱いです。良い子は真似したらいけない距離で、そうしています。

 まぁ炎の中ではないから、これくらいは見逃しておこう。


「どうしてと聞かれましても……良い匂いではありましたよね。それに、私だってちょっとだけクラっとしましたよ。効いていなかった訳ではありません。感覚的に言えば……そうですねぇ。昔、お酒をしこたま飲んだ時と同じ感覚でしたね。私、お酒にはめっぽう強いんです。ぎゅーちゃんの毒が、一種の酩酊状態を引き起こすのだとすると、だから私には効かなかったんじゃないでしょうか」


 さすがは、幸運の加護を授かっているユウリちゃんだ。偶然、お酒に強くて、ぎゅーちゃんの毒がお酒と同じ作用を引き起こす物だったおかげで、助かったんだね。


「お酒ねぇ。でも、見たかったなぁ。ユウリさんが、レンさんとかディゼさん。イリスさんみたいに、頭がパァになる所」

「……」


 アンリちゃんに言われて、頭が一時、パァになってしまった3人が、固まりました。再び思い出してしまい、恥ずかしそうにしています。特にディゼは、また顔を手で覆って、食事どころではなくなってしまいました。


「まぁまぁ。皆さん、とても可愛かったですよ。特にイリスなんて……おっと、コレは秘密にしておきましょう」

「そこまで言うなら、言いなさい!私は、どうなっていたんですか!」

「か、可愛かったよ」

「っ……!」


 ボクがそう言うと、イリスはユウリちゃんが口に運び、食べようとしたお魚にかぶりつきました。その勢いは、お肉を食べる時と同じです。食欲がないと言う割に、豪快な食べ方だ。でも、お魚をそんな食べ方したら……。


「ぐむ!?ほ、骨が……骨が刺さりました……!」


 そうなるよね。


「……!」


 すると、そんなイリスを見たぎゅーちゃんが、立ち上がりました。それまで、ボクが腰かけている木箱を背に、おとなしく座っていたぎゅーちゃんは、急いでイリスに駆け寄ると、その口の中に指を突っ込むという行動に出た。

 突然の事に、ボクは呆然とそんな様子を眺めます。


「むご!?ごっ、お、おぇ」


 えずきなら抵抗するイリスに構わず、ぎゅーちゃんは突っ込んだ指で何かをしています。ややあって、その指をイリスの口から引き抜きました。その指は、イリスの涎まみれとなり、炎に照らされてテカっています。同時に、イリスの口から溢れた涎が、地面に垂れました。


「はぁ、はぁ……な、何を──!」

「……」


 ぎゅーちゃんの指先には、小さな骨がつままれていました。どうやら、触手に変化させた指で、骨をとってあげたみたいだね。

 優しい。けど、やってほしくはないです。


「あ……ありがとうございます」


 イリスは、文句を言おうとしたけど、笑顔で骨を見せてくるぎゅーちゃんに対して、怒る気力が失せたみたいです。引きつった顔でお礼を言って、ユウリちゃんがそんなイリスの頭を撫でました。

 一方で、イリスにお礼を言われたぎゅーちゃんは、尚も笑顔で、イリスの喉から取り出した骨を、自分の口に運びました。美味しそうに咀嚼し、飲み込むと、ボクが座る木箱に戻って来て、また座ります。

 人の姿になったぎゅーちゃんには、これからして良い事と、してはいけない事を、教える必要がありそうだなと、思いました。


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