どんなイリスでも
ボクの膝の上で呻ったイリスが、ゆっくり目を開き、そしてボクの顔を見つめて来ました。その顔はやはり赤く、どこか熱っぽいままです。
「……ネモ?」
「おはよう、イリス」
「一体、何が……」
イリスは自力で起き上がると、頭を押さえて気分が悪そうにしながら、周囲を見渡します。
周囲には、同じく気分が悪そうにしている、レンさんとディゼがいます。2人とも、ロガフィさんに背中をさすってもらいながら、地面に突っ伏して気持ち悪そうにしている所です。
「お、おはようございます、イリスさん。寝ざめは、どうですか?」
「……最悪です。頭が痛くて、気持ち悪い。見た所、貴女もそのようですね、レン。それから、ディゼルトも」
イリスも、先に起きた2人と、同じ症状を訴えました。
「ああ、最悪だ。すまないが、しばらくは何もできそうにない」
「い、いいよ。ゆっくり、休んでね」
ボクの返事を聞くと、ディゼは地面にうつ伏せで倒れこみました。それからうつ伏せが厳しい事に気づいたのか、すぐに仰向けに寝直し、天を仰ぎます。
「それで、一体何が。確か、川辺に打ち上げられて、そこで濡れた物資を集めていたはずですよね。そこからの記憶が、一切ないんですが……」
「お、覚えてないんだ……」
「覚えていないのなら、覚えていない方がいいです。思い出してしまったら、ショックが大きすぎて、恥ずかしくて火が出そうになってしまいますからね。イリスさんだけでも、そんな思いをしなくて済むのなら、その方がいいと思います」
「え?なんですか?逆に、気になるんですが。一体、何があったと言うんですか?」
そう訴えるイリスに、レンさんは吐き気を催し、答える事はありませんでした。イリスも同時に吐き気を催し、口を押えて突っ伏します。
ボクも、人ごみに酔った時は、気持ち悪くなって実際に吐いた事もあるので、気持ちは分かるよ。本当に、辛いよね。
気持ちは分かるので、そんなイリスの背中は、ボクがさすってあげます。
「うぷっ。二日酔いみたいな気分ですね……」
イリスも、ディゼと同じ感想を述べました。イリスも、二日酔いとかした事あるんだね。それは、この姿になる前の話だろうけど、今の姿のイリスが二日酔いとか言うと、違和感しかありません。
「あ」
「……」
そこへやってきた、浴衣姿のぎゅーちゃんが、イリスの前に座り込みました。心配そうに、気持ち悪そうなイリスを見ています。
「……モルモルガーダー。なんですか、その姿は」
顔をあげ、ぎゅーちゃんに気付いたイリスが、ぎゅーちゃんの名前を呼びました。
イリスは、ぎゅーちゃんの事を知らないはずだ。ぎゅーちゃんが女の子になった事は、聞いていたけど、その時の記憶はないはずだからね。
それなのに、何でぎゅーちゃんだと分かったんだろう。
「わ、分かるの?」
「ええ、まぁ……気配が同じなので」
「え?ぎゅーちゃんさん?この、女の子が?ど、どういう事ですか?」
「い、色々あって、ぎゅーちゃんは、女の子になったんだ」
「一体、何があったら魔物が女の子になるんですか……?凄く気になるんですが、気持ち悪いです。私も、もうダメです。少し、寝かせてもらいますね」
ぎゅーちゃんの姿より、気持ち悪さの勝ったレンさんは、ディゼの隣に横になってしまいました。起き上がる元気は、2人ともなさそうです。
「……」
「なんですか……?」
ぎゅーちゃんが、申し訳なさそうにイリスの頭を撫でて、イリスはぎゅーちゃんを睨みつけました。幼女な姿のぎゅーちゃんに、子供扱いされているみたいで、それが気に入らないようです。
イリスは、こうなってしまった原因が、ぎゅーちゃんだという事までは、知らないからね。ぎゅーちゃんが、謝罪の意味を込めて撫でているとは、思っていない。
それにしても、イリスに関しては、元に戻ってしまって、ちょっと残念だな。いや、今のイリスも嫌いではないけど、あのイリスが可愛すぎたので、もうちょっとだけ、あのイリスのままでいて欲しかったなと思います。
「私を子供扱いするのは、やめてください」
「あ、謝ってるんだと思う」
「謝る?何を?」
「ぎゅーちゃんが、この姿に変身する過程で、毒ガスをまいちゃったんだ。それを吸って、皆がおかしくなっちゃって、今こうして気持ち悪いのは、その後遺症のせいだと思う」
「へぇー。そうだったんですかぁ。貴女のせいだったんですね、モルモルガーダー……!」
「……!」
イリスに、恨みの籠もった目で睨まれて、ぎゅーちゃんは怯えます。それでも、謝罪の意をこめたなでなでは、やめません。許してもらおうと、必死のようです。
「イリス」
「あーもう……分かってますよ。別に、怒っていないので、謝罪はいりません。それより、お水をもってきてください。喉が渇いて、死にそうです。三人分、お願いしますよ」
イリスの要求を聞いたぎゅーちゃんは、すぐに立ち上がり、駆けていきました。
さりげなく、レンさんとディゼの分まで頼んで、なんやかんや言って、優しいよね。やっぱりイリスは、こうでないといけません。
「……」
そのイリスが、ボクの膝の上に頭を乗せてきました。気持ち悪くて寝転がり、枕を求めて戻って来たようです。
顔を赤く染めているのは、恥ずかしいからなのか、それとも気分が悪いからなのかは、分かりません。でも、ボクは黙って、そんなイリスを受け入れます。イリスはやっぱり、どんなイリスでも可愛いな。




