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浴衣


 目を回し、倒れたのはイリスだけではありません。ロガフィさんに絡んでいた、レンさんとディゼも、合流すると、目を回して倒れていました。地面に寝そべる2人の頭を、木陰でロガフィさんが膝にのせてあげて、看病してくれていました。

 そんなロガフィさんの頬は、赤い虫刺されのような痕ができていて、それをしたのはディゼだと、すぐに分かります。


「……」

「ぬぅ……」

「ネモ様ぁ……」


 ロガフィさんは、自分の膝の上に頭を乗せている2人の頭を、優しく撫でてあげています。それが心地いいのか、2人は身をよじり、寝言を呟いています。

 その隣に座り、ボクの膝の上には、イリスの頭を乗せてあげています。仰向けに眠ったイリスは、顔を赤くし、身体は熱を帯びているかのように、熱いです。

 起きる気配はなく、ちょっと苦し気で、心配だ。ボクも、そんなイリスの頬を撫でてあげると、嬉しそうに顔を擦り、少し笑顔になりました。可愛い反応をしてくれて、ボクも笑顔になります。


「お姉さま、ぎゅーちゃんの身体、洗い終わりましたー」

「お、お疲れ様ー」


 そこへ、ユウリちゃんも戻って来ました。

 ユウリちゃんには、粘液まみれのぎゅーちゃんの身体を洗ってあげるように頼んでおいたので、水辺の方からやってきました。

 裸で粘液まみれの女の子をユウリちゃんに預けるとか、ちょっと危険だったかもしれないけど、イリスを放っておく訳にもいかないので、仕方なくそうしたんです。一応、何もしないように念を押しておいたし、たぶん平気だったと思いたいな。


「じゃーん!どうですか、ぎゅーちゃんの服!」

「わぁ……」


 ぎゅーちゃんが身に着けているのは、浴衣でした。おかっぱ黒髪幼女に、浴衣姿はとてもよく似合います。黒地に、水玉の浴衣で、しかも下駄まで履いていて、本格的だ。

 きんちゃく袋まで持っているけど、それらをデザインしたのは、当然ユウリちゃんなんだろうなと思います。それを、アジェットさんが作った、と。

 アジェットさんが、ディンガランから旅立つボク達にくれた服は、本当にバラエティに富んでいる。本当は、普通の服を貰えればそれで済むと思うんだけど、こういう服を用意してくれて、目の保養になります。


「ぎゅーちゃん、似合ってるよ!」

「……」


 ボクは褒めたけど、本人はちょっと、不満そうだ。くるくると回転したり、お尻を突き出したり、裾をめくったり、着慣れない服に、戸惑っている様子がよく見えます。


「服を着慣れていないのか、落ち着かないみたいです。最初は、着せるのにちょっと苦労しました。凄んだら、おとなしく言う事を聞いてくれたので、やっぱりぎゅーちゃんですね」


 ユウリちゃんは、自分の服をめくるぎゅーちゃんを抱きしめてやめさせながら、そう言いました。


「……」


 暗く沈み込んだ表情のぎゅーちゃんが、怖かったと物語っています。

 でも、ユウリちゃんの言う通り、それで言う事を聞いてくれるのなら、まさしくぎゅーちゃんだ。もしかしたら、何かが成り代わっているだけだったりしないかという懸念も、なくなります。ぎゅーちゃんは、女の子を浚ってなんかいないし、死んでもいなければ、何かが変装している訳でもない。

 ボクは、信じてたよ。ぎゅーちゃんが、人に危害を加えるような事をする訳がないし、簡単に死ぬはずもない、とね。でも、安心しました。


「それで、皆さんはまだ、寝たままですか……」

「う、うん」


 ボクと、ロガフィさんの膝の上で寝ている3人を見て、ユウリちゃんが心配そうにしています。ボクも、勿論心配だ。

 なんとかしてあげたいけど、どうする事もできません。アルテラさんがいれば、診てもらえたんだろうけど、ここはもう、今日出立したばかりのあの村からは、だいぶ離れた地となっています。


「みんな、ぎゅーちゃんのガスのせいでこうなっちゃったんだよ!どうして、ガスを放出したの!」


 アンリちゃんが、ぎゅーちゃんの前に腰を折って立ち、顔を近づけ、その眉間にはシワをよせて言いました。腰に手を当てて、お姉さんっぽく、しかりつけています。実際には、お兄さんだけどね。


「……!」


 幼女のぎゅーちゃんは、それに対して、ジェスチャーで何かを伝えようとしています。

 川を指さし、顔を手で覆い、胸を指さし、大きく手を広げ、それから首を傾げて、肩をすくめました。


「ふむふむ、なるほどなるほど。なんっにも分からないや!あはは!」


 相槌をうち、頷いておきながら、アンリちゃんはそう言い放ち、笑いました。

 ボクも、そのジェスチャーでは全く分かりませんでした。声を聞けばちょっとは分かるんだけど、幼女のぎゅーちゃんは、どうやら喋る事ができないみたいです。指で触手を作れば、それで話せるみたいなんだけどね。


「……強い力を持つ魔物は、時としてその姿を変える事がある。変化させた身体は、人の姿を持った者が多い。ぎゅーちゃんも、その領域に達したのかもしれない」


 ロガフィさんが、レンさんとディゼの頭を撫でながら、呟くように言って、ボクは竜の姿を思い出しました。竜のディレアトが人の姿に変身できたように、ぎゅーちゃんも同じ事ができるようになったのかもしれません。ステータスで見たぎゅーちゃんのレベルは、初めて会った時よりも上がっていたし、レベルの上昇が変身をもたらしたのだとすれば、ロガフィさんの言った通りという事になる。

 それに、ぎゅーちゃんのステータスを見た時に表示された、状態異常、変化の事もあるからね。


「毒の匂いを放ってしまったのは、ぎゅーちゃんがまだ、上手く変身できないから。変身する過程で、無意識に放ってしまった匂いが、辺りを包み込んでしまった。元々、モルモルガーダーは普段から匂いを放ち、近づいて来た獲物を毒で動けないようにして、それを襲う事が多い魔物。変身という初めての経験に対して、抑えていたものを溢れ出してしまった。でも、毒の強さはだいぶ抑えられている。それは、ぎゅーちゃんが私たちに危害を加えないよう、配慮した結果。毒はきっと、すぐに抜ける。だから、怒らないであげてほしい」


 元魔王なだけあって、ロガフィさんは、魔物に詳しいみたいだ。ぎゅーちゃんの生態も知っているみたいで、勉強になります。


「う、うん。怒らないよ。ぎゅーちゃんが無事で、良かった」

「私も、ぎゅーちゃんが無事だったのは、本当によかったと思います。ですが、今日はもうこれ以上旅を続けるのは、無理そうですね」


 ユウリちゃんの言う通りで、眠っているレンさんとディゼとイリスは、起きる気配がありません。今日は、このままここで、野宿になりそうです。


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