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女神の嫉妬


 目の前の、粘液まみれの幼女が、ぎゅーちゃん?あの、黒くて丸い球体の、触手の魔物が、こんなに可愛らしい人の姿に変身してしまったという事?

 いや、決して元のぎゅーちゃんが可愛くないという意味ではなく、あのぎゅーちゃんが、こんな姿に変わってしまった事に対して驚いているだけで、他意はありません。


「ぎゅーちゃんて、どういう事!?まさかとは思うけど、この女の子が実はぎゅーちゃんでしたとか、そんな事を言い出さないよね!?」

「ぼ、ボクも信じられないけど、どうやらそうみたい……」

「……」


 アンリちゃんは、目が飛び出しそうなくらい見開いて、驚いています。更に、開いた口がふさがらないを、実際にやってのけ、ボクに向けていた視線を、ゆっくりとぎゅーちゃんへと向けました。


「本当に、ぎゅーちゃんなんだよね……?」

「……」


 ステータスを見ても、ボクはそれを、にわかには信じる事ができません。今一度尋ねると、女の子になったぎゅーちゃんが、ボクに向かって手を差し伸べて来ました。

 すると、差し伸べた手の、人差し指が、黒い触手へと姿を変えて、そしてボクに向かって伸びて来ます。その先端は、小さな口となっていて、それがボクに向かって開き、そして一言だけ、喋りました。


「ぎゅー!」


 それは、間違いなくぎゅーちゃんの声でした。

 ボクが、あまりにも疑うものだから、証拠を見せてくれたんだね。そしてその証拠は、間違いなくぎゅーちゃんだという事を、証明してくれました。


「ぎゅーちゃんだぁ!」

「ぎゅーちゃん!」


 ボクは、死んでしまったと思ったぎゅーちゃんを、腕に抱きしめました。アンリちゃんも、その確証を得て、ボクごとぎゅーちゃんの身体をすり抜けたりして、周囲を飛び回ります。


「良かった……良かったよ、ぎゅーちゃん……死んじゃったと思って、本当に悲しかったんだからね?」

「ネモさんの言う通りだよぉ!突然爆発して、一体何があったの!?何がどうしたら、アレからコレになれるわけ!?ボクにも是非、そのコツを教えてください!」


 女の子になるのに憧れているアンリちゃんにとって、それは確かに、知りたい所だろうね。だけど、そんなのにコツとかはないと思います。ぎゅーちゃんは、そもそも魔物で、アンリちゃんは人だからね。いや、でも死んじゃってるから、人ではないのかな……とにかく、アンリちゃんは可愛いから、今のままでいいと思うよ。


「──お姉さま!」


 そこへ、離れていてと伝えていたはずの、ユウリちゃんが駆けつけて来ました。そのユウリちゃんを先導するかのように、イリスがボクの方へと猛然とダッシュして来て、そして背中に抱き着いてきました。前は、ぎゅーちゃんを抱いてるからね。代わりに、空いている背中に抱き着いたみたいです。

 ボクは、ぎゅーちゃんと、イリス。2人の幼女に、はさまれてしまいました。


「ご、ごめんなさい。遠目に見ていたんですが、その女の子を抱いているお姉さまを見て、イリスが私を振り切って……」

「い、いいよ。もう、大丈夫……だと思う」


 辺りの霧は、ぎゅーちゃんがいなくなったことで晴れ、匂いも先程よりは弱まっている。とはいえ、その匂いの原液となる液体を、ボクが抱きしめている女の子のぎゅーちゃんが、その裸体にべったりつけているんだけどね。

 できれば、まだ離れておくべきなんだとは思うけど、来てしまったものは、仕方がないです。


「そうですか……良かったです。それで、こちらのどろどろの粘液まみれの女の子は、誰ですか?凄く、えっちなんですけど、もしかして私を誘っていますか?」

「ち、違うからね」


 ユウリちゃんは、女の子になったぎゅーちゃんを間近に見て、早速涎を垂らして、今にも襲い掛かりそうです。でも、さすがに初対面の女の子に、いきなりそんな事はしません。

 大好きな女の子に嫌われるような事を、ユウリちゃんはしないからね。ついさっきしたような気がするけど、基本的にはしないよ。


「ネモは、私のです!離れてください!」

「……」


 イリスは横から顔を出し、頬を膨らませて、前側にいるぎゅーちゃんを睨みつけて言いました。

 それに対して、ぎゅーちゃんは笑顔でイリスに答えるだけです。ぎゅーちゃんからしてみれば、イリスが何故怒っているのか、全く分からないよね。ボクがぎゅーちゃんを抱く場面なんて、過去にいくらでもあったから。それを見て、イリスが文句を言った事なんて、一度もありません。


「どうやら、嫉妬しているみたいですね。自分と同じ年頃の女の子を、お姉さまが抱き上げたのを見て、頬を膨らませていましたから。今だって、その子に対して敵意剥き出しですよ」

「むー!」


 ぎゅーちゃんは、笑顔のままだけど、イリスは違います。思いきり睨みつけて、今にも噛みつかんとするばかりの勢いを見せています。

 嫉妬してくれるイリス、可愛いな。それに、嬉しいな。嬉しくて、また、頬が緩んでしまいます。


「……諸々気になる事はありますが、説明してください。ぎゅーちゃんが、爆発したように見えましたが、ぎゅーちゃんはどこへ……」


 ユウリちゃんは、心配げに辺りを見渡すけど、ぎゅーちゃんだった灰は風で散り散りとなり、姿を見る事はできません。そこから連想されるのは、ボクも先ほど思った、ぎゅーちゃんの死だ。遠目に、爆発したぎゅーちゃんを見ていたユウリちゃんは、どこか覚悟した様子です。


「安心して!ぎゅーちゃんは、ここにいるよ。この女の子が、ぎゅーちゃん。ね、ぎゅーちゃん」

「ぎゅー!」


 ぎゅーちゃんの頭上で、ぎゅーちゃんを指さすアンリちゃんに対して、ぎゅーちゃんは再び、指で作った触手の口で、元気よく、そうだと返事をしました。


「へ?ぎゅ、ぎゅーちゃん?この、女の子が?」

「う、うん。アンリちゃんの言う通り、間違いないよ」

「……」


 ユウリちゃんは、ボクの返事に、ぎゅーちゃんを凝視してやや呆然とした後に、ニヤリと笑いました。


「──ダメだからね」

「な、何がですか!?」


 何かよからぬ事を考えているユウリちゃんに対して、何かを言う前に、釘を刺しておきました。ユウリちゃんが、こういう時に何を考えているかくらい、見当はつくからね。釘を刺され、慌てているのが、よからぬことを考えていた証拠です。


「ぎゅーちゃん、なんですか……?」


 イリスも、今の話を聞いて、ボクの正面に抱き着いている女の子が、ぎゅーちゃんだと気づいたみたいです。


「ぎゅー!」


 再び、ぎゅーちゃんが指の触手でイリスに元気よく答えると、次の瞬間、ボクの背中に抱き着いていたイリスの手から、力が抜けました。力の抜けたイリスは、そのまま地面に倒れてしまい、あまりに突然の事に、対応する事ができませんでした。


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