表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
357/492

現行犯です


 力づくで開かせた、ぎゅーちゃんの口の中にあった物。アンリちゃんが見て驚いたそれは、女の子でした。小さな女の子が、素っ裸でぎゅーちゃんの涎による粘液まみれになりながら、そこで寝ていました。


「……」


 ボクは、それを見て頭を抱えました。

 ぎゅーちゃんが、そんな事をする訳がない。する訳がないんだけど、実際口の中に女の子を捕えていたと言う事実が、目の前にあります。現行犯です。


「だ、誰かな……?」


 アンリちゃんも、口の中を覗きこみ、女の子を見て聞いてきます。


「わ、分からない……」


 おかっぱの黒髪幼女は、イリスと同じくらいの年頃に見えます。身体はまだまだ発達しておらず、細く頼りないです。見た事は、ありません。だからと言って許される事ではないので、ボクは頭を抱えずにはいられません。


「ぎゅーちゃん……」

「あ、あはは。誘拐、かな?」

「わ、笑いごとじゃないよ!もし本当にそうなら、お家に返してあげないと!というか、ぎゅーちゃんの匂いまみれで、この子大丈夫なのかな……?」


 ぎゅーちゃんの口の中は、更に強い甘い匂いで満たされていました。あまりに強烈な匂いで、毒に耐性のあるボクまで、一瞬くらっとしてしまうくらいです。そんな中に、イリスと同じくらいの年頃の女の子が入れられていたんだから、心配にならずにはいられません。むしろ、死んでしまっているのではないかと思います。


「あ」


 ボクの心配をよそに、女の子が目を開きました。いきなり目を開いた女の子は、呑気にもあくびをしながら起き上がると、身体を伸ばし、とても寛いだ様子を見せて来ます。

 その様子から、どうやら意外にも、身体の方は平気なようすです。


「……」


 それから、女の子が覗き込んでいるボクを見て、ニコリと笑いかけ、手を伸ばしてきました。

 ボクが、自然とその伸ばされた手を取ると、その瞬間、ぎゅーちゃんの身体がはじけて、吹き飛んでしまいました。吹き飛んだと言っても、肉片を辺りに飛び散らかしたりした訳ではなく、灰となって、周囲に飛び散ってしまったんです。


「……」

「……」


 突然、跡形もなく消えてしまったぎゅーちゃんに、ボクとアンリちゃんは呆然としました。

 後に残ったのは、ぎゅーちゃんの口の中にいた、粘液まみれの女の子だけです。


「ぎ……ぎゃああぁぁぁぁ!ぎゅーちゃんが死んだあああぁぁああぁぁぁぁあぁぁ!」


 ややあって、その事実を頭で理解したアンリちゃんが、思いきり叫びました。


「そんな……ぎゅーちゃんが……」


 ボクも、その事をようやく理解して、深い悲しみに襲われました。

 初めて出会った時は、敵同士だった。でも、仲直りして、ボクを背中に乗せてくれた。再会してからも、ボク達を色々な場面で助けてくれて、いつしかいて当たり前の存在となっていた。そんなぎゅーちゃんが、突然、何の前触れもなく、目の前で消えてしまったんだ。お別れを言う事なく、本当に突然消えてしまったなんて、信じたくはありません。


「……」


 悲しみ暮れるボクの頬に、おかっぱの女の子が手を伸ばして、触れて来ました。粘液の、べっとりとした感触があって、それを頬につけられてしまいました。でも、そのべっとりとした粘液も、今となってはぎゅーちゃんが残した大切な物な気がして、拭く気にはなれません。


「ぎゅーちゃん……!」


 その名を呼ぶと、おかっぱの女の子が、ボクに向かって首を傾げて来ました。


「うわああぁぁぁん!ぎゅーちゃんがあああぁぁぁ!ぎゅーちゃああああぁあぁぁん!」


 泣き叫び、地面に突っ伏すアンリちゃんを見ても、同じように首を傾げます。

 そして、口をぱくぱくとさせ、何かを喋ろうとする仕草を見せるけど、声が出ていません。何度も口を動かして声を出そうとするけど、やっぱり同じです。

 もしかしたら、ぎゅーちゃんの口の中にいた事により、やっぱり何か影響があったのかもしれない。


「……!」


 心配になるボクをよそに、女の子はボクから離れ、そしてぎゅーちゃんが元居た場所で、飛び跳ねました。素っ裸で、どろどろの粘液まみれのその身体を、ボクに向かってアピールするような仕草です。

 イリスと同じような体つきの女の子に、興奮はしません。でもさすがに、幼女が粘液まみれというのは、問題があります。


「と、とりあえず、服を……」

「……!」


 跳ねるのをやめさせようと、手を伸ばしたけど、女の子はそんなボクの手を避けるように、距離を取りました。そして、尚もぴょんぴょんと跳ねて、ボクに向かってアピールを続けます。

 この子は、一体何をしたいんだろう。今度は、ボクが首を傾げる番です。女の子を見て、首を傾げます。

 とりあえず、この子の名前を見させてもらおう。そうすれば、何かが分かるかもしれないからね。そう思い、ボクは女の子のステータスが面を開きました。


 名前:モルモルガーダー(ぎゅーちゃん)

 Lv :85

 職業:ペット

 種族:魔物


 へぇー。モルモルガーダーで、ぎゅーちゃんっていう名前なんだ。まるで、ぎゅーちゃんみたいだね。


「……え」


 ボクは、自分の目を疑いました。もしかして、ステータス画面が壊れたのかと思い、アンリちゃんを見て確かめてみるけど、ちゃんと機能しています。

 改めて、女の子を見てみると、やっぱりそこにはぎゅーちゃんと同じステータス画面が表示されます。つまり、何かというと、信じられないけど、もしかして……。


「き、君は、ぎゅーちゃんなの……?」

「……」


 ボクの問いかけに、女の子は更に元気よく飛び跳ね、そして笑顔になりました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ