原因
ボクは、変わり果ててしまったイリスを胸に抱き、その頭を撫でます。ボクの顔に胸を埋めるイリスは、笑顔が眩しくてたまりません。それに、撫でてあげると凄く嬉しそうにして、ボクは幸せでどうにかなってしまいそうです。
そんなイリスを、後ろから抱きしめたユウリちゃんが、イリスの後頭部に胸を押し当て、挟み撃ちにしています。
ユウリちゃんも、とても幸せそうにしていて、ボクをイリスごと抱きしめて、笑顔が絶えません。2人の天使の笑顔が目の前にあり、ボクは本当に幸せで幸せで、見る事はできないけど、自分の顔が緩み切っているのを感じます。感じていても、それを修復する事は不可能です。
「ネモ、柔らかくて、良い匂い」
「そ、そうかな?イリスも、凄く良い匂いだよ」
「えへへー」
嬉しそうに笑うイリスが、これまた素晴らしい笑顔で、ボクはときめきが止まりません。胸がきゅんきゅんしっぱなしで、痛いくらいです。
ボクは事ここに至って、メイヤさんの、イリスに対する気持ちが、理解できてしまいました。イリスは、最高だよ。今まで、散々メイヤさんの事を、幼女好きの変態だとバカにしていたけど、その気持ちを理解してしまった今は、そんな事思いません。
……でも、冷静に考えると、こんなイリスに対して、あんな事や、こんな事をしようとしたんだよね。気持ちは分かるけど、そんなのは絶対に許される事ではない。
「イリスは、ボクが守るからね!」
「……ありがとー。私も、ネモを守りますよ。そして、ずっと、ずーっと一緒です」
再び、ボクの胸に顔を埋め、ぎゅっと抱きしめてくるイリスに対して、ボクもぎゅっと抱き返しました。
「イリス、一体どうしてしまったんでしょう。姿形は完全にイリスなのに、これではまるで、別人です。いえ、私も今のイリスは、とても可愛いと思いますし、正直言って襲いたいですよ?色々な悪戯をして、私好みに育てたいです。でも、原因が分からないと、ちょっと不安になってしまいますね」
「ユウリも、しゅき」
首を限界近くまで逸らし、ユウリちゃんの顔を見上げたイリスが、背中から抱き着いているユウリちゃんに対し、そう言いました。
いつも通りの口調なんだけど、好きという部分だけが舌足らずになるところが、また可愛いです。
「私も、大好きです!なんなんですか、この生き物は!本当にイリスですか!?もういいので、ベッドに行きましょう!三人で一緒に、性的な意味で寝ましょう!」
「ぜ、絶対にダメだよ!」
息を荒くして、本当にイリスを襲いかねないユウリちゃんは、危険だ。変態の毒牙にかからないよう、ボクが守ってあげないといけません。
「もう、落ち着いてよ、二人とも!今はそれより、どうしてみんなが変わっちゃったか、だよ!」
アンリちゃんに言われ、ボクは我に返りました。先程もユウリちゃんが言った通り、ボクもさすがに、イリスのこの変わりようには不安を覚えます。あまりにイリスが可愛いので、なかなか思考が追いつかずにいたけど、その原因を探る必要があります。
それに、イリスだけじゃない。未だにロガフィさんにくっついているレンさんや、ロガフィさんにちゅっちゅしているディゼの変わり方も、異様だ。
「た、確かに、イリスは可愛いけど、こんなに変わっちゃった原因は、なんだろう?」
「……?」
イリスを見ると、ボクの胸に顔を埋めた状態で首を傾げ、上目遣いに見て来ました。可愛すぎて、また話がそれてしまいそうなのを、ボクはぐっと堪えます。
「匂い」
そして再び、ボクの問いかけに答えるように、ロガフィさんが呟きました。頬にちゅっちゅしてくるディゼの顔を、片手で掴んで一時的にやめせています。ディゼが可愛そうに見えるけど、仕方ないです。
それよりも、ロガフィさんが言っているのは、この甘い匂いの事だよね。
「確かに、先ほどからなんだか甘い匂いがしますね。凄く、良い香りです。一体どこから……あ」
ユウリちゃんが鼻をならしながら、周囲を見渡すと、ボクの後方を見て視線を止めました。
「あー……」
アンリちゃんも、そちらを見るとなにやら呻っています。
ボクも振り返ってそちらを見ると、そこにいたのは、大きな姿に戻った、ぎゅーちゃんでした。黒く蠢く球体が、こちらに背を向けています。その球体の下半分が、まるで溶けてしまったかのように、地面に広がっている。その周囲には、溶けたようになっている部分から溢れ出ている煙により、もやがかかっています。
「……そうか」
どこかで嗅いだことがある匂いだと思ったら、この甘い匂いは、初めてぎゅーちゃんと会った時に、ぎゅーちゃんが出していた匂いだ。その時、この匂いを発する液体を、強制的に飲まされた事を思い出します。凄く美味しかったけど、アレはたぶん、毒だった。
その毒を、ぎゅーちゃんが周囲にガスとしてバラまいている。それを吸って、皆の様子がおかしくなってしまった。ガスの効果は分らないけど、そう考えると納得がいきます。




