やりすぎです
そうして濡れた荷物を片付けているボク達をよそに、川辺に座り込み、川をぼーっと眺めている人がいます。こちらに背を向けた彼女は、ボク達の会話に混ざる事もなく、ただただ川を見つめています。
「今回のは、相当ショックが大きかったみたいだねぇ」
そんな、哀愁漂うレンさんの背中を見ていたら、アンリちゃんが明るい口調でそう言いました。
レンさんは、馬車の中でユウリちゃんに襲われた事がショックで、様子がおかしくなっています。抵抗できないのを良い事に、やられ放題だったからね。それを黙認したボクにも責任はあり、今思うと止めるべきだったかなと思います。でも、後悔しても、もう遅いです。
「それに、ぎゅーちゃんも、かなり凹んでるよ。今後に影響があるんじゃない?」
更に、小さなぎゅーちゃんも、レンさんに抱かれ、こちらも川をボーっと眺めています。
ぎゅーちゃんは、お家として使っていた置物が、滝つぼに落下してしまって、ショックを受けています。あの置物が落ちてしまったのは、置物よりもボク達を優先してくれたからであり、落ち込むぎゅーちゃんを見ていると、感謝すると同時に、罪悪感も感じざるを得ません。
「あ、アンリちゃん。二人をどうにかして、慰めて来てよ。アンリちゃんなら、いつもの明るい口調で話しかけてあげれば、きっと元気が出ると思うんだ」
「ぬふ。そうかな?元気、出してくれるかな?」
「うん。だから、お願い」
「よし、任されたよ!ちょっと行ってくるね!」
アンリちゃんは、元気よく返事をし、空を飛んで2人の下へと向かっていきました。そして、気さくに何やら話しかけて、会話を始めます。
「……レンさん、大丈夫かな。私だったら、ユウリさんにあんな事をされたら、恥ずかしくて、この箱の中にでも閉じこもって、出てこられなくなってしまうかもしれない……」
馬車の中から運び出した木箱の中には、確かに人一人分くらいが入れる大きさはあります。でも、そんな箱の中にディゼが入ってたら、それは捨て犬のようで、可愛さが倍増だよ。もちろん、そんな捨て犬はボクが拾って連れ帰り、責任を持って飼います。
「もう。大げさですよ、ディゼさん。レンさんって、変な所で純粋だから、何がしてよくて、何がダメなのか、よく分からないんですよね。でも、確かに言える事は、動けずに泣き叫ぶだけのレンさんと、それに構わず貪らせていただくシチュエーションは、控えめに言って最高でした。久々に、深い所まで入って、満足できたなって感じです」
「……」
身体をくねらせ、顔を赤くしてそう言うユウリちゃんは、可愛いです。
でも、引きます。ボクとイリスとディゼは、全く反省の色を見せないユウリちゃんに対して、精一杯の非難の目を向けました。
「な、なんですか、皆さん。もしかして皆さんも、同じことをして欲しいんですか?」
「はぁ……貴女は、少し反省をしなさい。恋する乙女にとって、意中の者以外にあのような行いをされれば、ショックを受けても不思議ではありません。いくら私たちの関係性が特殊だからと言って、あれはやりすぎです」
ユウリちゃんに抱かれているイリスは、あきれ顔でそう言いました。その目はユウリちゃんを見ておらず、虚空を眺めています。でも、言っている事はイリスにしては珍しくまともで、レンさんの気持ちを汲み取ってあげているなと思います。
「そうだな。イリスさんの言う通り、アレは少し、やり過ぎだったと、私も思う」
ディゼも、イリスの珍しくまともな発言に、賛同の意を表しました。
「二人して、なんなんですかっ。レンさんと私は、あれくらいしても良い仲ですよ!同じ人を愛している者同士、心と心は通じ合っているんですから、身体も通じ合わなければいけないでしょう!」
「どういう理屈ですか……いいから、謝って来なさい。私の欲望で貴女の身体を汚してしまって、ごめんなさいって、言ってきなさい。そうすれば、レンはきっと許してくれますよ」
「汚してませんよ!?汚すって言うのは、もっとこう……!」
「ユウリさん。いいから、イリスさんの言う通り、謝るべきだ」
「うう、ディゼさんまで……お姉さまは、私の味方ですよね……?」
甘えるようにボクを見てくるユウリちゃんから、ボクは目を背けました。ここでユウリちゃんの目を見たら、可愛くて甘い事を言ってしまいそうなので、何も言わず、見ない事が最良の選択だと、判断したんです。
ボクも、イリスの言う通り、今回はやり過ぎただと思うからね。ここは、冷たいかもしれないけど、ユウリちゃんの味方はできません。
「お、お姉さま?こちらをちゃんと見て、答えてください。じゃないと、私泣いちゃいますよ?」
「の……ノー!」
ボクは、誘惑を振り払い、叫びながらロガフィさんに抱き着きました。
「お、お姉さまに、拒否された……私の愛するお姉さまに、拒否……」
「それが嫌なら、早く謝って来なさ──」
「レンさんごめんなさい、謝ります!謝罪するので、許してください、元気出してください!じゃないと私、泣いちゃいます!泣くどころか、もう生きて行けなくなってしまいます!」
ユウリちゃんは、そう叫びながらレンさんの下へと駆けていきました。レンさんは、突然抱き着いて来たユウリちゃんに戸惑っているみたいだけど、その頭に手を乗せて、どうやら許してくれたみたいです。
そこへ、ユウリちゃんとは入れ替わりに、アンリちゃんが戻ってきました。
「ボクが話しかけても、二人とも無視だよ。今度は、ボクがショックだよ。慰めてくれる?」
項垂れているアンリちゃんは、ショックを受けた様子で、目には涙を浮かべていました。
「ご、ご苦労様。イリス、こっちにきて」
「……?」
首を傾げるイリスは、何も聞かずにこちらに歩いてきてくれました。そんなイリスを抱っこすると、ボクはイリスの手を掴み、その手でアンリちゃんの頭を撫でます。
「よしよし。ありがとう、アンリちゃん」
「元気出たぁ!」
アンリちゃんは、疑似的なボクのなでなでで、元気が出た様子です。それを見て、安心しました。アンリちゃんは、家のムードメーカーだからね。明るいアンリちゃんでいてもらわないと、困ります。




