わくわくしました
沈み行く馬車を、皆で協力して川辺にあげ、どうにか水没は免れました。主に頑張ってくれたのはぎゅーちゃんで、本当に助かったよ。
でも、せっかく着替えた服が、また濡れてしまいました。全員濡れて、乾いていた元の服に着替える事になってしまいました。
アジェットさんとユウリちゃんが用意した着替えは、可愛いけどちょっと過激な部分もあり、旅には向かないね。でも、短い間だったけど、とても良い目の保養になりました。特に、下着姿のレンさんとか、それにダイブしたユウリちゃんや、大人っぽい格好のイリスとか、ディゼの可憐な服とか、ロガフィさんの短いスカートとか、ボクは一生忘れないよ。
「……軽く、死ぬかと思いましたよ」
そう呟いたのは、イリスです。川辺の石ころの上に、濡れてしまった木箱を置いて、その上に座っています。
いつもの魔法少女風の、ふわりと広がった白いワンピース型の服を身に着けたイリスは、子供っぽく戻っています。リボンとか、レースとかがつけられたそれは、可愛いくてとても似合っているけど、ちょっと前までの大人っぽい姿と比べると、ギャップがあります。でも、こっちの姿のイリスも、ボクは好きです。
しょぼい魔法しか使えないし、目がよく死んでるし、生意気で態度は悪いし、短気ですぐに怒るし、体力はないけど、魔法少女なイリスが、見ていて一番落ち着きます。
「まぁまぁ。私は、けっこう楽しかったですよ?」
ユウリちゃんは、そんな事を呟くイリスに、馬車から運び出して来た新たな箱を、イリスの近くに置いてから、イリスに抱き着いて言いました。
ユウリちゃんもいつもの格好になっていて、丈の短いズボンで、惜しげもなく露出させた太ももや、上着の下で大胆に露出させた肩とか、凄く可愛くて、セクシーだ。
着替え終わったボク達は、馬車の中の散らかった荷物を整理をしている所です。食料や、ランプの油などが入ったツボが、一部割れてしまったり、水に浸かってしまった物もあるけど、大半は無事です。
それもこれも、荷物を固定してくれたぎゅーちゃんのおかげであり、本当に、一緒に来てくれてよかったなと思います。
「暑っ苦しいですので、離れてください」
「約束なので、それはできません。イリスは、まだまだ私の物で、触り放題の状況にありますからね」
「……」
げっそりとした表情のイリスは、ユウリちゃんに抱き着かれ、さらにげっそりとしています。たった今、死にそうだったという思いをしたイリスだけど、大変な1日はまだまだ終わりません。
「しかし、本当に凄い体験だった……。私は、それなりの修羅場をくぐってきているつもりだが、滝を馬車で超えた事など、一度もない。こうして陸で無事にいられるのが、不思議な気分だ」
ディゼも、ユウリちゃんと同じように、着替え終わってます。袖のない服で、おへそを出した、スカートの姿だ。スカートの下にはスパッツを履いているけど、恥ずかしがり屋のディゼにしては、若干露出が高い。動きやすそうではあるけどね。とはいえ、いつもはコレにマントも羽織っているので、若干は露出が下がります。
そのディゼも、馬車から荷物を運び出して来た所で、それを石ころの上に置きました。
「……私は、楽しかった」
「ぼ、ボクも、ちょっとだけ楽しかった!」
呟いたロガフィさんに、ボクは同意します。
乗った事はないけど、まるでジェットコースターのようで、面白かったです。運ばれている時は、心が躍るような気分で、高揚した気持ちになったのを、覚えています。つまり、わくわくしました。
ロガフィさんも、同じ気持ちだったという事が嬉しくて、ボクはロガフィさんに駆け寄ります。そして、その手を取りました。
「えへへ」
「……」
ボクが笑いかけると、ロガフィさんは僅かに頬を赤くして、反応はそれだけでした。だけど、手を握るボクの手を、強く握り返してきて、それを返事としてくれます。
「ボクも、それには賛成だよ。なんたって、もう死んでるからね!死ぬことがない身だから、馬車に乗って滝を駆け上がるとか、わくわくしないはずがない、貴重な体験だった!もう一回やりたい!」
「い、いや、それは……」
手を繋ぐ、ボクとロガフィさんの周りを飛び回るアンリちゃんが、そんな事を言ってきて、それには賛同しかねます。現実的な事を言ってしまえば、荷物が持たなそうだし、馬車が壊れるのも困ります。あと、次はイリスが、本当に死んじゃいそう。
「私は、したい」
「え、ええー……」
でも、ロガフィさんは目を輝かせ、ボクの手を両手で握ると、引き寄せてそう言ってきました。
「……じゃ、じゃあ、今度また、イリスに頼んでしてもらおうか」
「誰がするもんですか!あんな死ぬような思い、二度とごめんですよ、したければ貴女達だけで行きなさい!濁流にでも放り込んでやれば、疑似的にできるでしょう、だからそうしなさい!私を巻き込むな!」
ロガフィさんに対してそう答えたボクに、イリスが凄い勢いで怒鳴って来ました。どうやら、イリスに頼むのはもう無理そうです。
「あはは!イリスさん、ちっちゃいなぁ!肝っ玉とか、器とか、身体とか、色んな意味で!」
「黙りなさい、アンリ……!とにかく、あんなのはもう二度とやりません。いいですか、セレンもよく聞きなさい。ああいうのは、今後はもうナシです!……私が、力の制御ができないのが悪い、ですってぇ?そんなの知りませんよ!そこは貴女がなんとかしなさい!」
イリスは、自らの身体の中にいる、セレンにも言い聞かせるように言って、また独り言のように話しています。セレンの言い分としては、イリスが力の制御もできないのが、悪いという事らしい。どうやら、セレンの予想以上に、イリスは不器用みたいです。




