常套手段
ロガフィさんを、レンさんから庇いつつ、ボクは警戒を続けます。
レンさんは、一見清楚可愛いお嬢様だけど、やっぱり変態です。そんなレンさんが、ボクは大好きだけど、ロガフィさんまで毒牙にかけさせる訳にはいきません。
「ふふ。でも、ネモ様の下着、しっかりと見させていただきました。あんなに扇情的な下着を身に着けて、しかもそんな短いスカートを履いて、ネモ様はえっちな娘ですね」
「っ……!」
それを指摘されると、ボクは顔を赤くして、照れるしかありません。
女の子の下着は、基本的にユウリちゃんが用意してくれて、ボクはどんな下着があるのか、あまり知らないんです。だから、普段から身に着ける物も、なんだか面積が少ないなと思いつつ、おとなしくつけていたけど、やっぱりちょっと変なのかな。
今つけている物は、明らかに変だけど、普段の物も分からなくなってきました。
「でも、大丈夫。そんなえっちなネモ様も、とても素敵ですから。だから、自信をもって、堂々としてください」
「そ、そう言われても……」
恥ずかしいものは、恥ずかしい。
というか、こんな下着を用意したのはボクではなく、レンさんです。好きで着ている訳では、けっしてありません。
「大丈夫です!ネモ様は、最強にして、最高ですから!」
目を輝かせるレンさんが、ボクの手を両手で握り、そう訴えかけて来ました。そう言われると、そんな気がしてきて、恥ずかしさも少しは飛んで行った気がします。
「──泥、落ちましたけど、さすがに少し冷たかったですね。で、何をしているんですか、レンさん」
そこへ、水浴びから戻って来たユウリちゃんが、手を握り合うボクとレンさんを見て、睨みつけて来ました。
濡れた髪を、タオルで拭きながら睨みつけてくるユウリちゃんの服装は、脚のラインがくっきりと出る細めのパンツに、半袖のシャツを着こみ、その上から丈の長い前の開いたパーカーを着こんでいました。いつもより、ちょっと大人っぽく見えつつも、どこか子供っぽく、ユウリちゃんの魅力を引き出していると思います。
「ネモ様は、最高ですというお話をしていただけです」
「そんなの、言うまでもありませんね。お姉さまは、最高です」
そういうユウリちゃんが、ボクから見れば最高です。どんな服も似合って、カッコよくて、可愛くて、凄いなぁと思います。
「そして、その服!とてもよくお似合いです!ロガフィさんもお揃いで、なんですか!高校生ですか!?同級生なんですか!?スカートめくってもいいですか!?」
「だ、ダメだよ」
でも、服が変わってもセクハラはしようとしてきます。ボクは、伸ばされたユウリちゃんの手を避けて、ロガフィさんも庇いました。
レンさん以上に、ボク以外の女の子に対しても興味が強いユウリちゃんは、ロガフィさんに手を出す事に、一切の躊躇がありません。ロガフィさんは、あまり抵抗できるタイプではないので、ボクがしっかりと守ってあげないとね。
「ちなみに、ネモ様が身に着けているパンツは、あの、紐のような物です。上は、透けてるやつです。とても、素晴らしい光景でした」
「み、見たんですか!?一体、どうやって!レンさんばかり、ずるいです!私も、お姉さまのえっちな下着姿、見たいです!」
「だ、ダメ!絶対に、ダメ!」
抗議してくるユウリちゃんに対し、ボクは断固たる態度をとりました。
ユウリちゃんにまで、あんな裸より恥ずかしい下着姿を見られたら、ボクは気絶しちゃいます。
「そ、そんなぁ……でも、その制服、本当に可愛いですね。二人並んでいると、まるで同級生の女の子がいちゃいちゃしているみたいで、とても癒されます。だから、スカートめくってパンツ見せてください」
「み、見せません」
自然な流れの中で、そういうお願いをしてくるのは、ユウリちゃんの常套手段だ。それにイリスはまんまと騙されて、ユウリちゃんと1日くっつく権利を与えてしまった。
「あ、あれ。イリスは、どうしたの?」
「イリスなら、そこにいますよ。ほら、恥ずかしがっていないで、出てきてください」
ユウリちゃんが目を向けた先に、岩陰に隠れて、顔だけ出しているイリスがいました。
「べ、別に恥ずかしがっている訳ではありません……!」
そう言いながらも、顔を赤くしたイリスは、ユウリちゃんに反論しながらその姿を現しました。
イリスも、服を着替えていました。姿を現したイリスは、茶色っぽい長袖のワンピース姿で、腰には薄く透けている布を垂らしていて、それもスカートの形をしています。寝巻きで使用しているワンピースとは違い、露出は少なく、生地も厚くて、普段着として着ていても問題のない姿です。少し見方を変えればドレスのようにも見えるし、いつもより格段に大人っぽく見えます。
オマケに髪型を変えていて、いつものツインテール姿ではなく、編み込んで後ろで1つにされた髪が、まるで魚の骨の形に見えるような物になっています。
「わぁー。す、凄く似合ってるよ、イリス!」
ボクは、いつもの子供っぽい魔法少女風の姿から見違えたイリスに、目を見張りました。
「いつもの子供っぽいのもいいですけど、たまにはこういうのもいいですよね」
「う、うん。凄く、可愛い!」
「ふ、ふん。そうでしょうね。私は、女神。美しくて、当然です。本当は、もっと大人っぽいドレスの方がいいと思うんですが……そうですか。可愛いですか」
そう言って、小さく笑うイリスに、ユウリちゃんがはぁはぁしながら飛びつきました。また、くっつきタイムが始まったらしい。イリスに息を荒げて興奮した様子のユウリちゃんは、事情を知らない人が見たら、通報されてしまってもおかしくありません。
でもそれよりも、イリスに抱き着いた、ユウリちゃんの後ろ。今、イリスが出て来た岩陰から飛び出ている、イヌ耳に気づいてそちらが気になりました。




