生きてた頃を思い出して
「ええと、コレは……」
「ぎゅー」
戦いを終え、ぎゅーちゃんとレンさんとも合流したボク達を見て、レンさんは戸惑っています。
いつもは、ロガフィさんがいるポジションに、今はユウリちゃんがいます。ユウリちゃんはイリスを大切そうに抱きしめて、離しません。たまに、息をはぁはぁと荒げて、舌をイリスの頬に伸ばすけど、ボクの視線に気づくと自重して、引っ込めます。そんな事を、もう何度も繰り返していて、いつかはやってしまいそうです。
一方で、イリスを取られたロガフィさんは、代わりにディゼの腕に抱き着きながら、片手で尻尾を撫でています。
「ひっ……」
優しく撫でいるので、ディゼはたまに小さく声を出す程度で済んでいます。遠慮なしに触ったら、ディゼは変な声を出してしまうので、気を使っているのかな。尻尾、耳もだけど、凄く敏感だからね。
ただ、ロガフィさんに抱き着かれた時点で、顔を真っ赤にしていて、とても恥ずかしそう。それでもロガフィさんから逃れないのは、イリスを取られて落ち着かなそうなロガフィさんに、気を使っているからです。
お互いに気を使って、優しく微笑ましい光景です。
「い、色々あったんだ。とりあえず、もう戦いは終わったから、詳しくはイリスに任せるよ」
どうせ、ボクが説明したって、何も伝わりはしない。だからボクは、説明を放棄しました。
「それがいいですね。イリスさん、お願いします」
レンさんは、そんなボクの提案を全く否定せず、ユウリちゃんに抱き着かれて拘束されているイリスに、言いました。
まったく否定されないと、それはそれで寂しいな。いや、本当にそうだから、仕方ないんだけどね。分かっているけど、でも、ね……。
「……襲ってきたのは、水の精霊の王です。彼女はネモとロガフィが撃退して、私に力を貸す事を約束してくれて、今は私の中にいます」
ユウリちゃんに抱かれているイリスは、暗い表情で語り始めます。その口調には、元気がありません。自分を抱いているユウリちゃんに対しての懸念と、せっかく精霊の力を借りる事ができたのに、発揮できる力がしょぼすぎる事を思い、気が重そうです。
ユウリちゃんも、メイヤさん程ではないけど、常にイリスに対してちょっかいを出していた。普段はそれほどではないんだけど、イリスが寝ぼけている時はやりたい放題で、その目は完全に、獲物を見る目です。ボクも一緒になって、けっこう色々やっているので人の事は言えないけど、ユウリちゃんに関してはもっと酷いんだよ。とてもじゃないけど、本人の前では言えない事を、イリスが寝ぼけているのを良い事に、堂々とやっています。
イリスはそんな悪戯を知る由もなく、変態と一緒に1日過ごす約束をしてしまった。
ただ、ユウリちゃんも先ほど言った通り、イリスの事を大切に思っているはずだから、きっと大丈夫。変な事もされるかもしれないけど、嫌われるような事だけはしないと思います。そう思いたいです。
「精霊が!?どうして、私たちを……」
「精霊の故郷が、魔族に襲われ、壊滅したようです。その襲って来た者と似た魔力を持つロガフィに惹かれ、私たちを敵と誤認して襲って来たと言った所です」
「……精霊の、故郷。ロガフィさんと、似た魔力。つまり……ロガフィさんの、お兄さん。魔王が、精霊の故郷を襲い、壊滅させたという事になりますよね?」
「その通りです。恐らくですが、魔王はこれから、もっと大規模な攻撃を仕掛けるつもりなんでしょうね。精霊の故郷を先に潰したのは、人間側に生まれるかもしれない勇者が、精霊の力を借りる事ができないようにするための、対策でしょう」
大規模な、攻撃……それを聞いて、先日のディンガランへの攻撃を思い出します。
もし、あんな攻撃を再びされたら、次は分からない。先日以上に死者が出るかもしれないし、もしかしたら負けて占拠され、聖女様やメイヤさんの身が……それだけじゃない。一般の人たちも捕まり、酷い目に合わされてしまう可能性がある。
勇者だった時の世界の、魔族に占拠された地域は、酷い有様だった。そうなった時、聖女様やメイヤさんが合うのは、その世界で見た光景と同じものになるはずです。
そう考えると、興奮します。けど、現実でそれを見るのは、ちょっと……いや、でも見てみたい……けど、ダメです。そんなのは、絶対ダメです。
「ですが、その精霊は生き延び、そして今は、イリスさんに力を貸してくれる事になった、という事ですよね?」
「……はい」
イリスは、レンさんから目を背けて答えました。あのしょぼい魔法の事もあるから、あまり口には出したくないみたいです。
「凄いじゃないですか!精霊の力を借りられるだなんて、凄い事ですよ!イリスさんもこれで、私たちの大戦力になりますね!いえ、むしろ魔王を倒す事も可能なのではないでしょうか!」
「……」
目を輝かせるレンさんとは対照的に、イリスの表情がどんどん暗くなっていきます。居心地が悪そうに目を逸らし、ユウリちゃんに身体を預けるようにして力が抜けていく。
「でへへ」
それを、ユウリちゃんは嬉しそうに支え、先程平手打ちを繰り出したイリスの頬を撫でながら、気持ち悪い笑みを浮かべています。
事情を知らないレンさんは、そんなリアクションに首を傾げます。
教えてあげたのは、ボク達の上で空中を浮遊している、アンリちゃんでした。
「あははは!でも、イリスさん自身が弱すぎて、精霊さんの力を借りてもしょっぼい水しか出なくて、おしっこみたいだった!ボク、生きてた頃を思い出して、笑っちゃったよ!」
「ははは……」
イリスは、一切気を使わないアンリちゃんの言葉に、暗い表情のまま笑いました。軽い下ネタをいれられて、逆に笑えないよ。でも、イリスは死んだ目で、笑いました。
こんな元気のない目の、魔法少女風の服を着た幼女、ボクは嫌だよ。
「そ、それは……ざ、残念ですね。でも、そういう事もありますよ。元気を出して行きましょう!」
「……」
レンさんの励ましに、イリスは無反応です。どうやら相当ショックだったみたいで、ちょっと可愛そうになってきました。




