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女神の逆襲


 意味ありげに笑い、手を構えたイリスから、魔力が発せられます。どうやら、何かの魔法を使うつもりのようで、その手はユウリちゃんに向けられました。


「私は寛大なので、頬を叩かれた事は恨んでいませんので、貴女をどうこうするつもりはありません。ただ、私の力を示すための礎となっていただくだけです。そして私の頬を叩いたことに加え、過去に頭を叩いたことも、バカにした態度をとって来た事も反省しなさい!」


 完全に、恨んでいる。対象がユウリちゃんなのも、今までユウリちゃんに対して、頭が上がらなかったイラだちもあるのかな。ユウリちゃんに睨まれたら、すぐに身体を震わせて引っ込むのが常だったからね。

 それでも、少しは偉そうな態度も落ち着いたかなと、最近は思っていたけど、それはただ、強い人になびいていただけなんだね。力を手に入れた途端に、そんな事を言い出すとか、カッコ悪すぎです。


「くらいなさい、ユウリ!」


 イリスが、ユウリちゃんに向かって魔法を放ちました。ユウリちゃんは、ただその場に立ち尽くすだけで、身構える事もしません。

 これから、どうなるのか分かっているのか、ただイリスに呆れて何もできなかったのか、分からないけど、イリスの魔法はユウリちゃんにとって、全く脅威とはなりませんでした。


「……?」


 イリスの手から放たれた水の魔法は、糸のように細い物で、すぐ目の前にいるユウリちゃんにすら届かず、地面に落ちていきます。


「あ、あれ?おかしいじゃないですか、こんなの……!私は、精霊の王の力を手に入れた女神ですよ!?ユウリくらい、簡単に吹っ飛ばせる魔法が使えるはずですよね!?」

「いや、私に聞かれても分からない……」


 イリスはディゼに向かって怒鳴って聞くけど、ディゼは首を横に振り、イリスの問いに対する答えは持っていないようです。


「い、一体どうして……!え?何?私のマナが少なすぎる?だから、思うように力を貸すことができないから、これで限界?ふざけるな!それをなんとかするのが、貴女の役目でしょう!」


 独り言のように怒るイリスだけど、たぶん精霊のセレンと、何か言い合っているのかな。

 でも、そんな事より、目の前の事に集中すべきだと、ボクは思います。だって、イリスの目の前には、イリスのしょぼい魔法のターゲットとなったユウリちゃんが、鬼のような形相でイリスを睨みつけているから。

 そんなユウリちゃんを見て、イリスを抱きしめていたロガフィさんは、退避してボクの隣にやってきました。更に、怒るユウリちゃんが怖いのか、腕に抱き着いてきます。可愛いです。


「ふーん。イリス、貴女って強い力を手に入れたら、そんな事をしようとする悪い子なんですね」

「い、いえ……コレは、違うんですよ、ユウリ。少し、落ち着いて話し合いましょう?あ、あいたたた。怪我が、痛いです。もしかしたら、骨が折れているかもしれません。怪我の具合を、診ていただけませんか?」


 今まで平気だったのに、わざとらしすぎるよ、イリス。そんな、怪我を訴えるイリスに対して、ユウリちゃんは全くなびきません。先ほどは、あんなにイリスの怪我を心配していたのに、そんな気も失せてしまったようです。その原因は、完全にイリスにあります。


「ひぃ!?」


 イリスが逃げられないよう、ユウリちゃんはイリスの肩を掴みました。そして、その顔を至近距離で睨みつけます。


「っ……!」


 これからイリスを襲う悲劇を予想したのか、ディゼは目を閉じて、その光景から逃げました。

 でも、そこからの展開は、ボク達の思っていたような展開にはなりませんでした。

 ユウリちゃんは膝をつき、イリスを抱きしめると、愛おし気にその頭を撫でます。


「……へ?ゆ、ユウリ?」

「私はこれでも、貴女の事は大切に思っています。お姉さまと同じくらい、貴女の事を大切に思っていますし、失いたくはありません。ずっと、一緒にいたいと思う人の中の、一人です。その意味が、分かりますか?」

「い、いきなり、何を言いだすんですか!」


 ユウリちゃんの、予想外の告白に、イリスは分かりやすく慌てふためきました。顔を赤くして、手を振るけど、でも抱擁されているので、逃げられません。


「でも、貴女が私の事を、魔法で打ちのめしたいと思うくらい嫌っているのなら、今後は改めます」

「そ、それは……!違います!嫌ってなどは、いません!私はただ、力を示したかっただけで……そうすれば、足手まといではないと思ってもらえると……ユウリは生意気だし、たまにスケベで引かされる事もありますが……でも、ユウリの事を……き、嫌っている訳ではありません」


 それを聞いたユウリちゃんは、ニヤリと笑いました。最初から、イリスが本気でそんな事を思っているなんて、思っていなかったはずだ。普段は本心を隠して、生意気な事ばかりを言うイリスだけど、皆を大切に思ってくれている事は、分かっていた。

 イリスは、ユウリちゃんにまんまと嵌められて、その本心を引き出されてしまいました。


「そうですか……よかったです。とても、安心しました。では、それを証明してもらえますか?」

「ええ、勿論。でも、どうすれば……」

「今から一日、ずっと一緒にいましょう。お風呂もトイレも一緒で、ご飯はあーんして食べさせ合い、夜寝る時も勿論一緒です。それを成したとき、イリスの私が嫌いではないと言う言葉を、信じます」

「ええ、いいでしょう。それくらい、受け入れま……す?」


 イリスは、そう答えてしまいました。最後の最後で違和感に気づいたようだけど、ユウリちゃんの今にも泣きだしてしまいそうな震える声に騙され、これで約束は成立してしまいました。


「やほーい!今から一日、この幼女は私の物です!なんでもしたい放題の、お人形さんです!何をしようかな。あんなことや、こんなことをしちゃいましょうか。え?そんな事までも?」


 ユウリちゃんは、イリスの脇に手を入れて持ち上げ、嬉しそうにくるくると舞いました。こんなにテンションの高いユウリちゃんを見るのは久々で、見ているこちらまで嬉しくなってしまいます。

 一方で、取り返しのつかない約束をしてしまったイリスは、絶望に顔を染めています。でも、それもこれも、ユウリちゃんに向けて魔法を放とうとした、イリスが悪いんだよ。少しは反省してもらうためにも、一日ユウリちゃんと過ごし、しっかりと調教してもらうのがいいと思います。


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