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力を授ける


 イリスは彼女を呼び止めると、振り返った精霊の女の人を指さしました。先程は、精霊の女の人は、その指先から強力な魔法を放ったわけだけど、イリスは大した魔法が使えないので、安心してください。


「貴女の目的は、故郷を襲った魔族を倒す事ですね?」

「──」


 言葉は聞こえないけど、恐らく精霊の女の人は、そうだと答えた。それに対してイリスは満足げに胸を張り、こう言い放ちます。


「だったら、貴女の力を私に貸しなさい!私たちの目的は、貴女の故郷を襲った魔族を、倒す事です。同じ目的を持つ者同士、手を組む。悪くない申し出のはずです」

「──」

「その通り、その魔族はロガフィの兄であり、魔王。私が選んだ勇者ネモが、その魔王を倒す旅をしている途中だったのです。ここで貴女と出会えたのは、運命。貴女の力を、私に授けなさいと、運命は言っているのです!」

「──」

「何?だったら、力を貸すべきは私ではなく、勇者?貴女程度の力を、ネモは欲しません。だったら私の力となり、ネモを支える手伝いをしなさい」


 イリスの言う事は、合っていると言えば、合っている。ボクは彼女の力が別に欲しくないし、力を貸してくれると言われても、ボクはいりません。だったら、一緒に旅をしていて、足手まといで、弱いイリスが強くなってくれた方が、自由に動けて助けになります。


「……イリスさん、凄く弱いから、それをずっと気にしてたんだよ。ネモさんの足手まといになってる、ってね」


 アンリちゃんが、ボクの耳元で、イリスに聞こえないように小さく呟きました。アンリちゃんにしては、珍しく気がきいた行動です。いつもだったら、大きな声で、本人の目の前でバラしちゃうような子だからね。

 それだけ、その事をイリスは気にしながら、付いて来ているんだ。だからイリスは、先ほどボクが言った言葉に怒って来たんだ。ボクが、そんなイリスの気持ちを全く察してあげられなくて、勝手な想いをぶつけてしまったから……。


「……お、お願いします!イリスに、力を貸してあげてください!」


 ボクは、精霊の女の人に向かい、頭を下げました。本来なら、イリスも頭を下げるべきなんだろうけど、イリスは頭を下げる事を知りません。だから代わりに、ボクが頭を下げて、お願いします。

 イリスがこのまま弱いと、今回のような事があった時に、次は助からない可能性だってある。それを思えば、力を貸してもらえるのなら、心配事が、少しは心配ではなくなります。だからボクは、必死にお願いをしました。


「──」

「……いいでしょう。魔王を倒す勇者のため、その従者である、女神の力を失い、ただのエルフの娘になったイリスティリアに、我が力を授ける?なんか色々余計ですね!」


 どうやら彼女は、イリスの正体を見破っているようです。そう言うと、ゆったりとした歩みで、イリスに近寄ります。そして、イリスの正面で止まると、イリスに向かって、再生したばかりの手を差し伸べました。


「──」

「……貴女の名は……セレン。セレンと名付けます。私の力となり、その身を預けなさい」


 イリスは、彼女の名前を呼び、そして差し伸べられた手を握りました。次の瞬間に、イリスと精霊の女性……セレンの身体が光り輝き、セレンの姿が消えました。それから光が収まると、そこにはイリスしかいません。セレンは、イリスの力としてその身体に宿り、姿を消したみたいです。

 セレンが消えた前と後とで、イリス自身には変化はありません。いつもの幼女のままで、泥だらけです。


「……ふ」

「イリス?」

「ふひ。ふぁーっはっはっは!精霊の力を手に入れました!それも、精霊の王の力を!これで私に歯向かえる者は、もういません!私をバカにしてきた者達を、一瞬にして、容赦なく叩きのめし、後悔させる事ができる!今まで私をバカにしてきた、アイツや、アイツやアイツをボコボコにしてやる……!」


 興奮したイリスが、突然高笑いをして、そう言い放ちました。

 えーと……セレンは、魔王を倒すために力を貸したのであって、そんなくだらない目的のために、貸した訳ではないと思うんだけど……。もしかして、ボクは間違ったお願いをしてしまったのではないかと、今更になって不安になってきました。


「イリス!」


 そこへ、ユウリちゃんが駆け付けて来ました。ユウリちゃんのその姿も、泥を全身に浴びた姿で、慌てて駆けて来た様子が見られます。その後方にはディゼもいて、一緒に来たようです。こちらも、泥で汚れています。

 その慌てようと、イリスの名前を叫んで駆けつけてくるあたり、馬車を飛び降りたイリスを心配してきたのだと分かります。


「落ち着きなさい。この通り、私は無事で──」

「このばかぁ!」


 乾いた音が、大きく響きました。イリスの下に、一直線に駆け付けたユウリちゃんが、イリスの頬を叩いたことによって響いた音です。


「っ……!」


 強力な平手打ちをくらったイリスは、叩かれた頬を押さえて、呆然としています。ユウリちゃんが、そんな行動に出た理由は、ボクと同じだ。イリスが無事な姿を見て、安心してその目から涙が溢れそうになりながらも、ぐっとこらえてイリスを睨みつけている。

 ただ、その平手打ちがあまりにも痛そうで、ボクは慌てふためきます。ユウリちゃんの気持ちは分るけど、もう既にボクが代わりに叩いているし、それは止めてあげて欲しかったです。


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