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お母様みたい


 ボクが、首から下げるネックレスが、1つ増えました。ボクの首には現在、2つのネックレスがさがっています。

 1つは、先ほどエーファちゃんから貰った、楓の葉の形をしたネックレスです。とてもキレイな金色をしていて、デザインも可愛く、気に入りました。

 もう1つは、百合の花をモチーフにした、銅色のネックレス。こちらは、ギルド、キャロットファミリーの一員という証である、ネックレスです。同じデザインの物を、イリスは腕輪として。ユウリちゃんは、指輪という形で身につけていています。


「可愛いネックレスですね」

「う、うん。こういうの、貰った事ないから、凄く嬉しいな」


 隣に座るユウリちゃんに、エーファちゃんから貰ったネックレスを見せながら、ボクはそう答えます。

 男だった時は、アクセサリなんて貰っても、それをつけるようなタイプではなかった。そもそも人との関わりもあまりなかったから、くれる人もいなかったからね。唯一貰った事のある物といえば、勇者になった時にイリスティリア様がくれた、白い剣くらいだ。ただ、それをプレゼントと言っていいかどうかは、微妙な所です。


「……皆さん、凄く別れを惜しんでくれましたね。私、私……今更になって、涙が溢れてきましたぁ」

「わっ」


 レンさんが、突然涙を流し、泣き出しました。大粒の涙が、レンさんの頬を伝い、床へと垂れていきます。

 突然のレンさんの号泣に、ボクは驚きました。慌てて、とりあえずレンさんの手を握って、レンさんはそんなボクの手を、強く握り返してきました。


「大丈夫ですか、レンさん……?」


 ユウリちゃんが、ボクの隣から、ボクを挟んで反対側に座っているレンさんの隣に、席を移動します。ユウリちゃんは、レンさんの頭を抱き寄せて、頭をなでなでしながら、赤子をあやすように、優しく耳元に語り掛けます。


「よしよし……お別れが、悲しかったんですね」

「うぅ。はい。お父様や、学園の皆さんに、メルテとネルともお別れして、更にはエーファさんやロステムさん達ともお別れをして、なんだか急に……!」


 そう言いながら、レンさんはユウリちゃんに自分から抱き着き、ボクの手を握る手を、ボクの手ごと引き寄せて、その胸に持って抱きしめます。ボクは、強制的にレンさんの大きな胸に手を触れてしまう形となる訳だけど、やらしい事は考えません。とりあえず、レンさんの好きにさせてあげる事にして、その胸に挟まれておきます。

 レンさんは、ボクから見れば、強くて優しい大人の女の人だけど、それはボクの勝手な幻想だ。いつもニコやかに笑い、ボク達を優しく見守ってくれているレンさんだけど、レンさんはお嬢様で、本来ならば旅なんてすべき身分の人じゃない。でも、ボク達についてきてくれた。それは、好きだと公言してくれている、ボクと別れたくない一心であり、もしかしたら、ボクが無理やり連れて来てしまう形になってしまったのではないかと、今頃になって心配になってきました。


「レンさん!」


 そんなレンさんの様子に気づいたディゼが、運転席から馬車の屋根を伝い、背後の昇降口から飛び降りて入ってきました。

 突然泣き出したレンさんが心配になって、いてもたってもいられなくなったようだ。ディゼは、レンさんの前に膝をついて座り込み、心配そうにレンさんの顔を覗き込みます。


「レン」


 更には、ロガフィさんもディゼとくっついて、レンさんの前に座り込み、心配そうにしています。

 ちなみにロガフィさんが抱いていたイリスは、イスに横たわって寝かせられて、気持ちよさそうに眠っています。まだ、起きる様子はないね。


「み、皆さん、ありがとうございます。ご心配をかけてすみませんが、そんなに大事ではありませんよ。私は、ネモ様のお傍にいられて、しかも皆さんにこんなに心配していただいて、幸せで、元気です。ただ、急に涙腺に響いたと言いますか……お別れの連続で、少し寂しくなってしまったみたいです」

「……あまり、無理はしないでください。辛いときは泣いていいですし、時には誰かに甘える事も、必要です」

「はい。……なんだかユウリさん、お母様みたいですね」

「なんでしたら、そう呼んでもいいですよ?おっぱい、吸いますか?」

「……やめておきます」


 冗談ぽくそう言うけど、ユウリちゃんは決して、レンさんに手は出しません。ユウリちゃんに抱かれて、安心感を抱いて身を預けているレンさんに、そんな事はしない。

 その時でした。急に、外から大きな音が聞こえて来ました。絶え間なく続くその音の正体は、開いている昇降口から外を見て、すぐに分かりました。雨が降り出して、それが地面に叩きつけられて、大きな音をたてています。

 出発して間もなく、日が昇って見上げた空は晴れていたのに、いきなりの土砂降りです。


「ディゼさん。とりあえず、幕を下ろして、水が入らないようにしてください」

「分かった」

「ロガフィさんも、手伝ってあげてください」

「……」


 ユウリちゃんの指示を受けた2人は、すぐに動き出し、幕を下ろしました。それにより、出入り口だった昇降口からは、雨が入ってこなくて済みます。


「あんなに晴れてたのに、いきなりだね。レンさんの涙が、雨を引き寄せたのかな」


 アンリちゃんが、そう言って馬車の天井に頭だけすり抜けて出して、空を眺めています。

 確かに、あんなに晴れていたのに、いきなりの雨とか、何かが原因だとしか思えないよね。その原因とは、アンリちゃんの言う通り、レンさんの涙のせいかもしれない。

 ボクとユウリちゃんは、自然とレンさんに、疑いの眼差しを向けました。


「私のせいですか!?」


 もちろん、冗談です。


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