怪しいです
交易都市、ディンガランには、美味しいものが溢れています。大きな通りは決まって美味しそうな匂いで包まれていて、腹ペコな人たちを誘惑しています。
と、言う訳で、ボク達は誘惑されて、食べ歩きの真っ最中。
「んー、おいひぃ」
ボク達は、西地区のヘンケルさんとかという、貴族のお屋敷に向かっている所だ。
人通りの多い道を、3人で仲良くホットドッグを頬張りながら、ゆったりと歩いている。
「ああ……お姉さまが、大きなソーセージを美味しそうに頬張って……私、ちょっと悔しいですっ!」
「ボクの食べるところばかり見てないで、ちゃんと食べなよ……?」
隣を歩くユウリちゃんは、ボクの方をじっとみていて、自分のホットドッグにはほとんど口を付けていない。それでも、通行人にぶつからないから、不思議です。
「庶民の味ですね。パンはぱさぱさで、肉も安い。おかわり」
文句を言う割りに、イリスは既に、食べ終わっていた。更には、おかわりまで要求している。口ではああ言ってるけど、気に入ったようだ。
「ありません。1つ食べれば、十分ですので、我慢してください」
「ちっ……なら、貴女のをよこしなさい。一口も食べていないという事は、食欲がないのでしょう?食べてあげます」
「食べますよ。はむ。ん……ちゅ、ちゅぱ」
そう言ってホットドッグに口をつけるユウリちゃんだけど、食べてはいない。ソーセージを舐めたり、口の中に出し入れをしたりしながら、ボクの方を色っぽい目で見つめている。
人の往来のど真ん中で、この行為はまずいです。
ボクは、ユウリちゃんの頭を軽く叩いて、やめさせた。
「ごめんなさい、お姉さま。軽い、冗談です」
それからユウリちゃんは、普通に食べ初めて、安心する。
「それにしても、メイヤさんも転生者とか……けっこう、そういう人っているのかな?」
「まぁ、いても不思議ではありませんね。転生や転移は、珍しい物でもないですし」
さすが、元女神様なだけあって、イリスはその辺の事情に詳しいみたい。
けど、その頬にはホットドックのパンの食べカスがついていて、本当にただの子供みたい。
「でも、凄いですね。たった一人で、ギルドマスターにまで上り詰めて……私はネモお姉さまに助けて貰えなければ、今頃奴隷として男なんかに犯されていた可能性が高いです」
ユウリちゃんはそう言いながら、イリスの頬をハンカチで拭ってあげる。
イリスは特に抵抗せずに、されるがまま。当たり前のように、受け入れている。
「転生時に、何か特殊な能力を授かったのかもしれません。あの変質者も言っていたけど、この世界に転生や転移したメスは、陵辱される運命上にいるので、その運命から脱出するだけの、何かを授かっていると見て、間違いありません。ただ、彼女は私達を信用していないようでしたから、その何かを教えてはくれないでしょうね。こちらもまだ色々と隠しているので、お互い様ですが」
「それは、例えばお姉さまのような……?」
「ありえませんね。彼女から、勇者の力は感じません。なので、ネモ程の力は持っていないはずですし、力の程度は知れています。せいぜい、あのもう一つのギルドマスターのオスくらいの力でしょう」
レイさんの事かな。確かに、2人のレベルは近いので、イリスの言う事は当たっている。もしかして、イリスもレベルとか見れたりするのだろうか。
「ぼ、ボクは……その人のレベルとかを、ゲームみたいに見る事ができるんだけど、イリスも見れるの?」
「ゲーム?……なるほど」
少しだけ考えて、イリスは一人で納得。
「ユウリ。貴女は、そのような事ができますか?」
「ん?ごくん。できませんね。私は別に、何か特別な力を授かったりはしていないので」
と、ユウリちゃんはホットドックを飲み込んでから、答えた。今のが最後の一口だったようで、それで手元からホットドックは姿を消した。
「も、もしかして、メイヤさんが、そういう能力がある、とか?」
「そうかもしれないですが、もっと別の力かもしれません。どちらにしろ、あの変質者はそれなりに、警戒しておくべきですね」
「どうしてですか?良い方じゃないですか」
「変質者だから。というのもあるんですが、全体的にあの女は、胡散臭い。こちらは信用されていないようですが、こちらも信用しないでおく事を、心がけなさい。ふん……?」
実を言うと、ボクもイリスと同じだ。メイヤさんは、何か怪しい。そう感じる理由は分からないけど、信頼するには値しないと思う。警戒しておく事に、反対はない。
そして、言い終わったイリスが、鼻を鳴らしてなにやら匂いを探している。その嗅覚で見つけ出したのは、お肉の串焼きを売っている露天。
「ネモ!私、アレが食べたいです!」
イリスが、そのお店を指差して叫んだ。
安物だなんだとバカにしながらも、イリスは何でも美味しそうに食べるし、食べる量も多い。育ち盛りだから、というのもあるのかな。
仕方がないので、買ってあげると、イリスは文句を言いながら、美味しそうに食べました。




