表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
329/492

また会う時まで


 馬車へと乗り込むと、そこには既に、ロガフィさんが座っていました。膝には眠っているイリスを乗せていて、いつも通りのセットです。アンリちゃんも、馬車の中にいて、荷物の山の上に横たわっていました。

 そのアンリちゃんは、ボクを見て、ニタニタと笑っています。


「な、何?」

「相変わらず、女たらしのモテモテだなぁと思ってねー」


 確かに、ボクはレンさんにユウリちゃんに、エーファちゃんにも告白されて、モテモテです。できれば分裂して、みんなを平等に愛してあげたいけど、いかんせんボクは分裂ができない。

 今までモテた事はなく、分からなかったけど、モテて分かりました。モテるのって、大変なんだなぁ。


「ネモ!」


 馬車の乗降口に、エーファちゃんがしがみついてきました。背が低いので、高い乗降口には顔しか出ていません。それでも、ぴょんぴょんはねて、必死に顔を見せてきています。


「エーファちゃん。どうしたの?」


 ボクは、そんなエーファちゃんに駆け寄り、乗降口の部分に座り込みました。


「コイツを、持ってってくれ!」


 そう言うエーファちゃんの手には、ネックレスが握られています。

 必死に、それをボクに向かって差し出してくるエーファちゃんの背が、いきなり高くなりました。後ろにいるロステムさんが、エーファちゃんの脇に手をいれて、高く持ち上げたからです。


「あ、ありがとう、ロステム……ネモ。受け取ってくれ」


 ボクは、エーファちゃんが差し出して来たネックレスを、受け取りました。それは、金色の、楓の葉を模したようなデザインで、中心には小さく赤い宝石が埋め込まれています。


「オレの、宝物その2だ。その1はやれないけど、大切にしてくれると嬉しい」


 その1は、たぶんロステムさんの、サキュバスの宝石の事だね。それは、エーファちゃんの命にも関わる物なので、貰う訳にはいきません。


「……うん。大切に、するよ。ずっと、ずっと……ありがとう」


 ボクは、そのネックレスを胸に抱き、精一杯の笑顔で、エーファちゃんに言いました。ネックレスは、本当にキレイで、どんな宝石よりも輝いて見えます。更には、本当に別れを惜しんでくれる人がいて、ボクは本当に嬉しい。ディンガランでも、大勢が見送ってくれて、まさか、旅の途中で寄っただけの村で、こんな出会いがあるだなんて、思いもしなかった。


「ネモさん。お嬢様を取られたのは悔しいですが、私も貴女には感謝しています。いつかまた、お会いしましょう。どうか、それまでご無事で」


 そして、エーファちゃんを抱いているロステムさんも、ボクにそう言いながら、微笑みかけてくれました。


「はい。いつか絶対に、また会いに来ます」

「私たちは、この村にしばらくは滞在するが、医療と知識を提供し、それが終われば別の村へと旅立つ。この周辺の村々を転々とする事になるので、また会うのは難しいかもしれないな」

「そ、そうですか……」


 ロステムさんの後ろで、寂しげに呟くアルテラさんに、ボクも寂しくなります。もう、会えないかもしれないというのは、エーファちゃん達との別れとは、また意味が違ってきます。


「そんな事はない。生きていれば、絶対に会える。私とお姉ちゃんが会えたみたいに、めぐり合わせは絶対にやってくる。次に会う時は、私とディックが結婚してる時かな……お姉ちゃんは反対みたいだけど、それはもう変わらない事だから、覚悟しておいて」

「……」


 アルテラさんと腕を抱いているリツさんがそう言うと、アルテラさんの表情が、一気に曇りました。長い前髪で隠されて、その隙間から覗く瞳からは、殺気が溢れ出ています。もしかしたら、ディックさんは医療事故か何かで、この後死んでしまうのではないだろうか。そうなったら、犯人は間違いなく、この人です。

 ユウリちゃんも、それを聞いて表情を暗くしています。

 2人は気に入らないみたいだけど、凄くおめでたい事だと、ボクは思います。


「……君たちなら、きっと無事に、やり遂げてしまう。そんな気がするよ。だが、どうか気を付けてくれ。君たちがしようとしている事は、途方もないくらい、大きな事だ。くれぐれも、油断しないように。また、いざとなったら、引く事も大切だという事を、覚えておいてくれ。それを、誰も責めたりはしない」

「……はい。気を付けます」

「肝に、銘じておきますね。そちらも、旅のご無事を祈っています。どうか、貴女達に、幸運がありますように」


 ユウリちゃんがそう言って、手を合わせて祈るような仕草をした時、アルテラさんや、リツさん。エーファちゃんに、ロステムさんに、メリファさんと、おじさんの身体が、白く輝いた気がしました。それはすぐに消えてしまい、ボク以外に、その事に気づいた人はいないようです。


「ネモ様?どうかしたのですか?」

「う、ううん。何でもないよ。……それじゃあ、ディゼ」


 運転席に座ったディゼに、ボクが声を掛けると、ディゼは覗き窓の向こうで、頷きました。


「じゃあな、ネモ!皆も、元気でな!」


 ロステムさんに抱かれて、目に涙を浮かべるエーファちゃんが、ボク達に向かって手を振りながら、叫びます。それを合図として、ディゼとぎゅーちゃんが、ゆっくりと馬車を発進させました。


「エーファちゃんも、元気でね!また会う時を、楽しみにしてるから!」


 ボクは、エーファちゃんから貰ったネックレスを掲げ、その手で手を振ります。

 アルテラさんと、リツさんと、メリファさんもボク達に手を振って、おじさんはクールに手を挙げてボク達を見送ってくれています。そんな皆に、身を乗り出してユウリちゃんも手を振って、レンさんもユウリちゃんとくっついて、手を振って応えます。ロガフィさんも、寝ているイリスの手を利用して、手を振って別れを惜しんでいる。ディゼも、運転席で陰ながら後ろを見て、涙ながらに手を振っています。アンリちゃんも、半身を馬車の天井から出して、上ではたぶん、手を振っている。

 この村で出会った人たちとの別れを大切にして、ボク達の旅が、再び始まろうとしています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ