正々堂々
リツさんと、アルテラさんは、ボクの前へとやってきて、その姿をボクは目の前で見る事になります。げっそりとした様子のリツさんは、疲れ果てた様子で、凄く気分が悪そうだ。
体調が悪いのなら、無理をしてお見送りに来なくてもいいのに……。
「だ、大丈夫ですか、リツさん……気分が、凄く悪そうだけど……」
ボクが尋ねると、リツさんは頭を抱えて片目を隠し、ボクの方をぎょろっとした目で見て来ました。その目つきは鋭く、怖いです。気分が悪いからだろうけど、クマもあって、血走ってるし、ボクは一瞬怯んでしまいました。
「……平気。ただ、アルテ……いえ。お姉ちゃんが、ね。昨日、色々と話し合ったんだけど、その過程で本当に色々あって、寝不足なんだ」
「ああ。昨日は同じベッドの中で寝て、一晩中リツに愛を囁き、私の気持ちを余すことなく伝える事ができた。とても有意義な一晩だったぞ!」
それは……ちょっとキツイ物がある。でも、一晩中それを聞かされていた方は元気がなく、言っていた方は元気満々なのも、謎です。
アルテラさんは、ロステムさんとエーファちゃんを見て、自分の思っている事を、リツさんに伝える、言っていました。この様子では、たぶん言いたい事は言えて、だからリツさんは、アルテラさんの事を、ボク達の前でも堂々と、お姉ちゃんと呼んだんだと思う。
「よ、良かったですね」
「うん。それもこれも、君たちのおかげだ。ありがとう」
「……?」
アルテラさんは、ボクにそう言ってから、ボクの腕に抱き着いている、エーファちゃんにも目を向けました。エーファちゃんは、訳が分かっていないようだけど、アルテラさんに覚悟を決めさせたのは、エーファちゃんと、ロステムさんなんだよ。
「なんだか、随分と仲の良い様子ですね。昨日までとは、大違いです。そうして美しいお二人が腕を抱き合っていると、とても儚く美しい光景で、その光景を絵にしたら、高値で売れるのではないかと思ってしまう程です。私、そういうの、とても良いと思います」
リツさんとアルテラさんを、ユウリちゃんがそう言って、褒めたたえました。これで、リツさんがもうちょっと普段通りだったら、ボクも同意する所です。
「ありがとう!私はこれからも、リツと共に人生を歩んでいく!そう決めたんだ!」
「わぁ。素敵ですー」
「……そりゃ、姉だし、家族だから当たり前でしょ」
ユウリちゃんが拍手して、アルテラさんの宣言を盛り上げる一方で、リツさんは相変わらず、げっそりとした表情で小さく呟きました。
随分と、2人の関係は変わってしまったみたいで、特にアルテラさんは、暴走気味だ。だけど、そう言いながらも、優しく笑うリツさんは、嫌そうではない。こちらもアルテラさんのように、取り憑いていた物が取り払われたかのように、スッキリとした様子です。
「ネモさん。準備、終わったぞ」
「う、うん。今、行くね」
荷物も運び終わり、ぎゅーちゃんはイリスの頭の上から降りて、大きなぎゅーちゃんの姿に変身しています。それから、ディゼが荷馬車をぎゅーちゃんに括り付けて、ディゼがそれらの出発の準備が終わった事を、知らせに来てくれました。
全てを任せて、申し訳ない。後で、頭を撫でて褒めてあげたい気持ちにかられます。
「ありがとうございます、ディゼさん」
「い、いや……」
レンさんにお礼を言われて、ディゼが照れています。
それを見て、ユウリちゃんは微笑ましく笑い、ボクの腕に抱き着いているエーファちゃんを見てまた笑い、腕を組むリツさんとアルテラさんを見て、またまた笑いました。
「百合の花園が見えます……」
そして、そう呟きました。確かに、どこを見ても女の子だらけで、しかもとても仲の良い様子の女の子同士ばかりで、そう見えなくもないです。
「……本当に、行っちまうんだな」
エーファちゃんが、寂しげにそう呟きました。やっぱり、寂しい物は寂しいようで、出発の時が近づくと、お別れが近づいている事を実感してしまったようです。
「お嬢様。私、失恋してしまいましたが、これからもお嬢様のお傍で、お嬢様の命を繋いでいきます。その中で、お嬢様の夢のお手伝いもさせていただきます。端的に言うと、サキュバスの力を極めて、ネモさんを魅了して手中に収めましょう。魅了すれば、好き放題の、命令し放題で、お嬢様の物となりますよ!」
大きな胸を揺らしながら、興奮気味に言うロステムさんは、やっぱりサキュバスで、そのサキュバスらしい思考回路だけは、変わる様子がありません。
「……お前の気持ちは、嬉しいけどな。オレもロステムの、兄貴を魅了できなかった理由は、よく分かる。だから、それはナシだ。オレは、正々堂々と、ネモを自分の物にしてみせる」
エーファちゃんは、そう言いながらボクの腕を離しました。カッコよく言い放ったエーファちゃんは、覚悟を決めた凛々しい顔つきをしていて、言葉だけでなく、その面持ちもカッコよく見えます。
そう思っていたら、すかさず空いたボクの両サイドに、ユウリちゃんとレンさんがくっついてきて、その腕を絡めて来ます。2人とも、その胸を腕に押し付けたうえで、手はいわゆる恋人繋ぎのように繋いできて、ボクの両手は塞がれてしまいました。でも、とても幸せです。
「お姉さま。次の村まで、長くなります。馬車に乗ったら、定期的にマッサージをして、身体をほぐしてあげますね」
「わ、私も!私も、ネモ様をマッサージします。私、お父様にマッサージ上手だねって、褒められた事あるんですよ」
2人に引っ張られ、ボクは荷馬車に向かって歩きます。エーファちゃんに対抗しているのか、2人共いつもよりも強くくっついて、凄く歩き辛いです。
でも、可愛いし、幸せだから、全然良い。ボクは、導かれるがままに、馬車へと乗り込みました。




