表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
326/492

嫁にする


 昨日、ご飯を食べた、このお家のリビングとして使われている部屋へとやってくると、そこにはエーファちゃんと、ロステムさん。それから、メリファさんとおじさんも既に起きていて、ボク達を待ち受けていました。

 まだ、日も昇っていないのに、皆着替えていて、ボク達のために早起きをしてくれたようです。


「おはようございます」

「お、おはようございます、メリファさん」


 挨拶をしてきたメリファさんに、ボクは皆を代表して返しました。

 そこで気づいたんだけど、なんだか空気が重いです。ロステムさんはエーファちゃんを抱きしめるように立っているし、エーファちゃんは不機嫌そうに頬を膨らませて、床を見つめています。おじさんは……よく分かりません。


「ユウリさん。何か、あったのですか?」

「……エーファちゃんが、私たちとお別れするのが嫌だと、駄々をこねたんです。それがとても可愛くて、思わず性的な意味で手を出しそうになってしまったんですが、我慢しました」


 ボクの後ろで、レンさんとユウリちゃんが、小さな声でコソコソと話をして、それが聞こえて来ました。

 エーファちゃんが、ボク達と別れたくないと思ってくれて、駄々をこねてくれた。それは、凄く嬉しい事だ。ボクだって、気持ちは同じです。せっかく知り合えて、友達になれたのに、もうお別れだなんて、辛すぎる。


「エーファお嬢様……皆さん、やらなければいけない事があるんです。だから……」

「そんな事、言われなくたって分かってら!でもよ、やっぱり辛いんだよ!せっかくダチになれたのに、もう行っちまうなんて……!」


 抱きしめられている、ロステムさんの手を掴んで、エーファちゃんは必死に、ボクに向かって叫びました。


「エーファはお嬢様は、昔からご主人様に似てこういう口調ですし、身体も弱かったです。オマケに、私の命を分け与えられる事によって出た、サキュバスの力の影響もあり、変な男に言い寄られる事も、多々ありました。そのせいで鳥籠の中のお嬢様になってしまい、お友達もろくにできなかったんです……。皆さんが、本当に初めてできたお友達で、そんな初めてできたお友達とのお別れも、お嬢様にとっては初めてで、気持ちの整理がつかないんです」

「っ……!」


 エーファちゃんの瞳から、涙が溢れました。歯を食いしばり、相変わらず鋭い目つきで、生意気そうな顔をして黙っているけど、ロステムさんの言葉を肯定するかのように、涙を流します。


「エーファさん……」

「……」


 心配げなレンさんをよそに、ボクはエーファちゃんに歩み寄りました。そして、エーファちゃんの前に膝立ちになり、涙を流すエーファちゃんの頬を、両手で撫でます。

 その頬は、イリスのように、ふにふにで柔らかくて、凄く触り心地が良いです。

 それを見て、ロステムさんはエーファちゃんを抱くその手を離して、一歩下がりました。エーファちゃんを、ボクに預けてくれたみたいです。


「ボクも、エーファちゃんと同じ気持ちだよ。エーファちゃんが、そう思ってくれて、凄く嬉しい。エーファちゃんの初めてのお友達になれた事も嬉しいし、エーファちゃんと出会えた事も、エーファちゃんに触れられる事も、一緒にお風呂に入れた事も、エーファちゃんとロステムさんの関係の力になれた事も、全部嬉しいよ」

「お、オレだって同じだ!あんなに楽しく風呂に入ったのは初めてだし、ロステムとは、お前達のおかげで分かりあえた!全部、ネモ達のおかげだ!だから、オレはもっと一緒にいたいって思って……なのに、寝て起きたらもうお別れなんて、そんなのあんまりだろ……」

「……うん。だけど、ボク達にはやらないといけない事がある。ただでさえ少し遅れていて、時間が惜しいんだ。エーファちゃんとのお別れは、本当に、凄く悲しいけど……でも、行かないといけない。でも、それでエーファちゃんとお友達じゃなくなる訳じゃないからね。ボク達はこれからも、ずっと友達で、離れても友達だよ。それに、また会いに来る。用事が終わったら、絶対に。だから、少しのお別れだけど、その日までエーファちゃんにも、我慢してもらいたいな」


 ボクの言葉を、ボクと目を合わせて聞いていたエーファちゃんは、自らの袖で、勢いよく涙を拭いました。その行動に、ボクはエーファちゃんの頬から手を離して、様子を見守ります。


「……約束だ。絶対に、会いに来い」


 お返しとばかりに、エーファちゃんはボクの頬に両手を当てて、挟み込んできました。小さな手が、ボクの頬を包んで、とても暖かいです。


「うん。約束するよ」


 ボクのその返答を聞いて、エーファちゃんの顔が、ボクに接近してきました。突然の事に、ボクはただ、成り行きを見守るだけです。頬を押さえられているボクに、エーファちゃんがどんどん近づいてきて、そしてついに、唇と唇が、重なり合いました。


「────!」


 声にならない、レンさんとユウリちゃんの叫び声が聞こえて来ます。

 すぐに唇は離れ、キスはほんの数秒だけだったけど、とても深く、エーファちゃんを感じました。思えば、エーファちゃんとのキスは、これで2回目です。1回目は、偶然そうなってしまっただけだけど、今回は明らかに、エーファちゃんの意思があります。


「決めたぜ。オレはネモを、嫁にする!」


 その発言は、その場にいる皆を巻き込んで、波乱を呼びました。ユウリちゃんと、レンさんは勿論、ロステムさんもパニックです。特に、エーファちゃんの父親であるおじさんの取り乱しようは、凄かったです。メリファさんは、何故か肯定的だったけど……パニックに便乗して、どこからともなく現れたアンリちゃんが、面白がって周囲を飛び回り、パニックを扇動します。


「にひひ」


 そんなパニックを呼び起こした本人は、ボクを見て笑顔で笑っていて、少し照れているのか顔は赤いけど、堂々としたものです。


「え、えぇー……」


 ボクも、ようやく思考が追いついてきて、エーファちゃんの突拍子のない行動と、発言に、戸惑いました。友達という話は、一体どこへ行って、どうしてそうなったのか、全く分からない。

 でも……エーファちゃんが笑顔だから、いいかと思いました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ