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欲がにじみ出ています


 どうやらギルドには、階級という物があるらしい。ボク達が貰ったギルドエンブレムの色は、3人とも銅の色。コレが、階級があがったりするたびに、色が変わっていくみたい。

 そして、銅のエンブレムをつけた冒険者は、最低ランクのGランク冒険者という事になって、受けられる仕事もしょぼい物ばかり。

 その辺は、モンスタフラッシュのゲーム内のシステムと、同じだ。ゲームを始めたばかりの頃は、駆け出し冒険者としてお使いクエストをこなしながら、奴隷を増やしてハーレムを形成してぶいぶい言わせていた物です。


「受けられるお仕事は、この掲示板に貼り出されて、毎日3回更新されます。Gランクのお仕事は、この掲示板になりますね」


 案内してくれてるのは、イオさんだ。ボク達は、ギルド2階の、先程の受付の所に貼り出されていた、掲示板を眺める。

 やっぱり、Gランククエストは、しょぼい。一回のお仕事で貰えるお金は、せいぜい1000Gくらい。一方、数の多いCランククエストになると、一回の報酬は10万Gを簡単に超える物もちらほら。その代わり、 Gランククエストのように、お掃除や配達の仕事はない。あるのは、戦闘や遺跡調査の依頼等だ。

 ボクとしては、さっさと高額な依頼を受けたい訳なんだけど、ルール上そうもいかないみたい。ここは、ゲームの序盤のように、地道に行こう。


「まどろっこしい。ドラゴン退治はないのですか。あるいは、それに準ずるような高難易度クエストを、要求します」


 Gランクの掲示板を、退屈そうに見ていたイリスがそう言った。

 そんなイリスの発言に、イオさんは眉をひそめ、イリスの肩を掴み、語りかけるように口を開く。


「……勿論、あります。ですが、そんな物をイリスちゃんが受けたところで、死ぬだけです。私は、多くの冒険者が、無茶なクエストに挑み、そして帰らぬ人になるのを、見届けてきています。貴女達を、そのような目に合わせないために、私が貴女達の、専門アドバイザーとして任命されたのです」

「ふん。そんなアドバイス、私達には必要ありません。私達は、私達の受けたいクエストを受けさせてもらう。貴女の指図は、受けない。そうでしょ、ネモ」


 イリスは、イオさんの手を払いのけて、ボクに話を振ってくる。

 イリスの言いたいことも分かるけど、ルールはルールだから仕方ない。イオさんの事は嫌いじゃないし、とりあえずイオさんの言うとおりに進めてみるのもいいだろう。


「……とりあえず、今日はお試しで。簡単で、誰とも話さなくていいクエストから始めてみよう」

「そうですね。では、このお手紙の配達とかどうでしょう」


 ユウリちゃんが、掲示板から剥がしたのは、キレイな紙に、キレイな字で書かれた依頼書だった。


「いいと思います。依頼主である、貴族のヘンケル様からのお手紙を、ラスタナ教会に届けるお仕事で、報酬は980G。駆け出しの冒険者には、クエスト完了までの流れも体験できる、いいクエストだと思いますよ」

「どうでしょう、お姉さま」

「うん。それじゃあ、コレを受けてみよう」

「決まりですね」

「それでは、手続きをしてくるので、少々お待ちください」


 イオさんは、ユウリちゃんが選んだ依頼書を持って、カウンターへ足早に歩いていった。


「バカですか、貴方は。もっと、自分の力に見合ったクエストを、受けるべきです。じゃないと、890万Gなんて大金、いつまでたっても返せませんよ」


 3人になったところで、イリスがボクのわき腹を小突いて言って来た。

 痛くはないけど、くすぐったくて力が抜ける。


「そんな事、分かってます」

「ひゃん!」


 ユウリちゃんは、背後からそんなイリスのわき腹を掴むと、イリスは大きな声を出して、周囲の目がこちらに向いてしまう。

 ボクは、慌ててフードを深く被り、イリスは口を手で押さえて、声を出させた原因のユウリちゃんを、思い切りにらみつけた。


「とりあえずは、様子見です。大きな事を始める前に、小さな事をこなすことは、決して間違った道ではありません。私も、お姉さまを最終的に手篭めにするため、まずは胃袋から掴むことを始めています。それと同じです」


 え、そんな事を狙ってたの?確かに、ユウリちゃんのご飯は美味しいけど……ボク、最終的に手篭められちゃうの?


「だから、それでは遠回りになりすぎです。どうせネモなら、ドラゴンくらい一発で倒せるんですから、やらせればいいんですよ。それで大金も入って、借金をなくせれば、全てが丸く収まるでしょう。そして更にお金が稼げるようになれば、セレブ生活が訪れるんですから」

「そのための、布石だと考えればいいんです。どうせいつでもドラゴンを倒せるのなら、急ぐ必要もありません。今はとりあえず、イオさんに従順なフリをして、仲良くなったところで美味しくいただき……じゃなくて、仲良くなって、ギルドに根を張っておきましょう」


 二人とも、随所に自らの欲がにじみ出ています。

 ユウリちゃんは色欲で、イリスは金銭欲。らしいと言えば、らしい。


「お待たせしました!手続きは完了したので、西地区のヘンケル様のお屋敷へ行って、手紙を受け取ったら中央区のラスタナ教会へ届けてください。あと、届け終わったら、必ずラスタナ教会のサインを、この依頼書に貰ってくださいね。コレがないと、クエストは完了しませんので」


 カウンターから出てきたイオさんは、そう言いながら、筒状に丸めた依頼書を、紐に縛って渡してきた。ボクはそれを受け取り、懐にいれてからアイテムストレージにいれておく。アイテムストレージは珍しい力のようなので、いちいち騒がれたら面倒だ。なので、なるべく隠す方針にした。


「それじゃあ、西地区のヘンケルさんのお屋敷だね」


 ボクは、マップでそれに該当するお屋敷を探して、マーキングしておく。今更だけど、このマップ便利だなぁ。今思えば、このマップのおかげでユウリちゃんも助かってるし、今のところ、ナンバーワン便利システム間違いなし。


「お姉さま。初クエスト、張り切っていきましょう!」

「うん!」

「ふふ。頑張ってくださいね」


 イオさんは、微笑みながら、クエストに出発するボク達を、見送ってくれました。

 そんなイオさんを、ユウリちゃんは獲物を狙うハンターのような目で見ていた気がするけど、たぶん気のせいです。


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