どの口が
ユウリちゃんの裸を、あんなにまじまじと見てしまった。凄くキレイで、まるで天使のようなその姿に、ボクの物である証の、奴隷紋がお腹に刻まれていた。
そんなキレイな身体を、恥ずかし気に、手で隠そうとしたユウリちゃんの姿が、脳裏から離れません。
「お、おい!どうしたんだよ、離せ!」
ボクは、お湯に浸かりながら、エーファちゃんの後頭部に顔を埋め、必死に心を鎮めようとするけど、全く静まりません。心臓の動きは早くなったままで、身体の底から発熱し、その熱はお湯以上に感じます。
エーファちゃんには悪いけど、ボクの視線を遮って、我に返らせた責任をとってもらいます。だから、落ち着くまでは、離しません。
そんな、抱きしめたエーファちゃんの肌も、とてもすべすべでキレイで、髪の毛は凄く良い香りで、女の子らしく身体も柔らかい。更に、目に髪がかからないようにつけていた髪留めを外したその姿は、ちょっとだけ大人っぽく見えます。抱きしめて、エーファちゃんの身体の前側に手を回し、触れている胸も、思ったよりはあるみたいで、エーファちゃんも立派な女の子だという事を、ボクに伝えて来ました。
そんな、立派な女の子を、どさくさに紛れて抱いている訳だけど、感触を楽しむ余裕は、ボクにはありません。頭が沸騰しそうで、必死にエーファちゃんを抱きしめるだけです。
「あ、ああ……いいな、エーファさん……。私も、後ろからネモ様に抱きしめられたいです!」
「だったら、今すぐ代わってやるよ……!」
「本当ですか!?」
エーファちゃんに答えを聞いて、レンさんがボクの隣へとやってきました。
「ネモ様、ネモ様。こちらへ、どうぞ。エーファさんよりも、大きくて柔らかいですよー」
ボクに向かって、湯船に浮かぶ、2つの豊かな丘を見せつけてくるレンさんに飛び込んだら、凄く気持ち良いんだろうなと思います。レンさんだから、きっとボクを受け入れて、胸に抱いて優しく頭を撫でてくれるのだと思う。
だけど、ボクはそんな誘いを振り切り、エーファちゃんの後頭部に戻りました。
「ガーン!」
レンさんが、いかにもショックを受けた声を出す音が、聞こえました。
レンさんの胸に包まれるのもいいけど、ボクとレンさんは今、お互いに全裸です。全裸でそんな事をされたら、いくらユウリちゃんの裸が脳裏に焼き付いているとはいえ、ボクがもちません。本当に沸騰して、お湯が沸いてしまいます。
だから、お断りさせてもらいました。
「──そんな貧相な身体では、ダメですよ。お嬢様。ここは、私にお任せください」
レンさんに代わり、やる気満々のロステムさんが、自分の胸を両手で持ち上げながら、ボクに近づいてきました。まるで、巨大な島が迫ってくるかの如く、お湯に浮いた巨大な胸が、迫ってきます。
だけど、ボクは即、目を逸らしました。
「なんでぇ!?」
レンさん以上に、速攻で目を逸らしたのは、それ以上、見ていられなかったからです。あまりにも色気が強すぎて、今すぐ走り出したい衝動に駆られました。でも、目を逸らしてエーファちゃんを抱きしめる事によって、落ち着きを取り戻し、なんとかなったんです。
そんなロステムさんは、湯船の隅っこでいじけているレンさんに並び、一緒にいじけてしまいました。
「ネモ様……私が抱きしめると、いつも嬉しそうにしてくれるのに……でも、ネモ様の裸、イイ。ぐへ、ぐへへ」
「やっぱり私って、サキュバス向いてないんでしょうか。いえ、ここでくじけちゃ、ダメですね。ネモさんから、女としての魅力を、盗ませてもらいましょう」
ふと気が付くと、いじけていたはずの2人が、ボクのほうをじっと見ていました。
レンさんは、息を荒く、興奮した様子で。ロステムさんは、ボクの全身を、血走った目で嘗め回すように見つめています。
裸をじっと見られると、恥ずかしくなっちゃうよ。でも、こっちにはエーファちゃんがいます。エーファちゃんを盾にして、ボクは2人の視線から逃れました。
「ね、ネモさんは、恥ずかしがっているんだ。私も、同じだからよく分かる……。だから、じっと見つめるのは、やめてあげよう」
髪の色と同じくらい、顔を赤く染めたディゼルトが、ボクを庇って、皆にそう言ってくれました。ディゼルトも、恥ずかしいはずなのに、ボクのために我慢してそう言って、皆の注目を浴びています。
そんな、一生懸命なディゼルトに、ボクは感動しました。
「あ、ありがとう、ディゼルト……」
「い、いや……私も、こんな、裸の女の子に囲まれて、凄く幸せなのだが、は、恥ずかしい……!だが、正直に言うと、皆の裸をもっとじっくり見たいという気持ちもある……が、頭に血が上って鼻から噴き出しそうになり、それはできない」
その気持ちは、よく分かる。ボクは、そう力説して悔しそうにするディゼルトに、何度も頷いて同意します。
「そうですよ、皆さん。お風呂は、あくまで身体をキレイにするための場所です。チャンスだと思って、相手の身体を見つめたり、ましてや裸で抱き合うだなんて不埒な真似は、すべきではありません。マナー違反です」
そう言いながら、お湯に浸かりに来たユウリちゃんが、ゆっくりと湯船に入り、その身体を肩まで沈めました。髪を頭の上で結い、お湯に浸からないようにしたその姿は、大人の落ち着きを見せています。
だけど今、そんなユウリちゃんの台詞を聞いて、全員が思った事があるはずです。どの口が、そんな事を言うのだ、と。
「カッコつけるのは、よしなさい。今更そんな事を言っても、貴女の過去の行いや言動は、消えませんよ。実際、私は何度か危うい場面に遭遇しています」
そう冷静にツッコミをいれて湯船に浸かったイリスも、髪の毛を頭の上にお団子状にしていて、湯船に髪がつかないようにしています。その姿は、まるでアルテラさんのようです。
「……別に、カッコつけている訳ではありません。ただ……この場でそういうモードに入ったら、自分を止められそうにないので、そういう事にしているだけです。だ、だって……夢にまでみた、お姉さまと一緒のお風呂で、裸同士で……理性が大気圏を超えて、遥か彼方に飛んで行ってしまいそうなんですよ……!」
「そ、そうですか……」
目を血走らせて言うユウリちゃんは、本当に我慢しているようで、確かに他の皆にも手を出そうとはしていません。なんか、ロガフィさんに気持ち悪い事は言っていた気がするけど、それはご愛敬なのかな。
でも、ユウリちゃんも我慢して、頑張ってるんだなと思うと、ボクも頑張ろうと思えます。




