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マスコットキャラクター


 まとめ。

 ボクとユウリちゃんはギルドに入る事ができて、冒険者になれました。イリスは冒険者になれなくて、変態に捕まりました。おわり。


「ふむ、なるほど。君は、この娘を買うため、ラメダに借金を……」

「……」


 場所は変わって、ここはメイヤさんの仕事場。武器や、資料等が、乱雑に置かれていて、凄く汚いです。そんな部屋の片隅のソファに、ボクとユウリちゃんは並んで腰掛けて、メイヤさんはイスに腰掛けている。その膝の上には、イリスをちょこんと乗せていて、背後から髪の毛を撫でて満足げ。

 一方イリスは魂が抜け落ちてしまい、されるがまま。ここに来るまでもそんな様子で、メイヤさんに担がれて運ばれてきている。


「よし。私がその借金を肩代わりしよう。そして、この娘をくれ」

「……!」


 その言葉に、イリスに魂が戻ってきた。そして、泣きそうな目でボクを見て、首をぶんぶんと横に振ってくる。


「い、嫌がっているようなので、すみません……」

「では、倍出す!だから、この娘をくれ!頼む!」

「だ、ダメです、ごめんなさい……」

「では、私の全財産を譲渡する!だから、この娘をくれ!頼む、ネモ!」


 メイヤさんの全財産?それは、いくらになるのかな。それだけあれば、この世界でも引きこもって暮らせるんじゃないか。いくら変態さんでも、ギルドマスターだ。それだけのお金は稼いでいるんじゃないかなと、想像するのは容易い。


「お姉さま」


 隣に座るユウリちゃんが、迷いの生じたボクに、じとっとした目を向けてきた。


「の、のー!です!」


 ボクは欲を捨てて、慌ててそう答えた。

 ユウリちゃんは、口ではイリスを脅かすような事を言うけど、なんやかんやイリスの事を気に入っている。イリスを売って借金帳消しなんて、絶対に許してくれないだろう。


「くっ……意思は、固いようだな……」


 拒否されたメイヤさんの手から、力が抜け落ちた。

 その隙を見て、メイヤさんから逃れたイリスが、急いでボク達のほうへと駆けてきて、ボクとユウリちゃんの間に、強引に座った。そして、左右の手でボクとユウリちゃんの手を力強く掴んでくる。


「あ、アイツ、変質者よ……通報!通報しましょう!」

「何を言う。私はただ、小さくて可愛い娘が好きなだけだ。変質者呼ばわりは、やめてもらおう!」


 イスから立ち上がり、胸を張ってそんな事を言うメイヤさんに、ボクは引きました。


「そうですよ。どんな形でも、愛は愛。それをとやかく言う資格は、私達にはありません」

「……」

「……」


 ユウリちゃんとメイヤさんは、しばし見詰め合って、そして頷きあい、握手を交わした。

 史上最悪のタッグが生まれた瞬間を目の当たりにしながら、ボクは気になっていた事を聞くために、口を開く。


「め、メイヤさんって、転生者なんですか……?」

「ほう。どうして、そう思う」

「私と、名前の感じが似ているからじゃないでしょうか。私は、本庄 悠里と言います」

「……なるほど」


 メイヤさんは、改めてイスに座りなおしてから、ゆっくりと口を開く。


「その通り、私は異世界からの転生者。死んで、気づいたらこの世界にいた」

「こ、この世界には、いつから?」

「20年ほど前だ。訳あって自殺して、気づいたらこの世界に、全く別の容姿で存在していた」


 自殺とは、また突っ込み難い死因だ。

 しかし、20年前となると、このゲームはまだ発売されていないはず。メイヤさんが言っている事が本当なら、20年前の、ゲームが発売される前から、この世界は存在していたという事になる。


「この世界では、私は虐げられる運命にあるらしく、この地位に上がるまでは苦労したよ。しかし処女は、小さくて可愛い女の子に捧げると決めていた故に、死に物狂いで鍛錬に励み、力を付け、守り抜き、今に至る。どうだ、凄いだろう」


 確かに、凄いです。でも、処女がどうのこうのという所は、別に言わなくていい。


「でも、どうして自殺なんか……」

「それを答えてやれるほど、私達はまだ、親しくない。今は、私が転生者とだけ、知っておけばいい」


 何気なくボクが聞いた質問に、メイヤさんは不機嫌そうに答えた。確かに、デリカシーのない質問だったかもしれない。でも、そんなに睨まなくてもいいじゃないか。ボクは、フードを深く被って、萎縮した。


「君達も、転生者なら恐らく、虐げられる運命にあるはず。そうなりたくなければ、必死に金を稼いで、鍛えろ。私のギルドの一員である限り、そのための手伝いくらいなら、してやれる。いいか、油断するな。常に気を張り、警戒し、強くなれ。そうすれば、運命から脱せられるはずだ」


 この人は多分、本当の意味で、強いんだと思う。それこそ、運命も変えてしまう程に。

 ……間違いなく、変質者だけど。


「あ、でも……イリスは、ギルドに入れなかったから……」

「ああ、そうだったな。では、私が特別に許可をする。イリスを、キャロットファミリーの、特別マスコットキャラクターとして、迎え入れよう!」

「わー」


 ユウリちゃんが手を叩いて、拍手を送る。でも、意味が分からないよ。マスコットキャラクター?

 不安げなイリスをよそに、話は進んで行き、あれよあれよと言う間に、イリスもサインをしてギルドの仲間入り。これで、3人揃って、無事にキャロットファミリーの一員になる事ができました。

 その後、ギルドのマスコットキャラクターとしてデビューしたイリスは、いかがわしい格好をさせられて、メイヤさんの良いようにされる訳だけど、この時はまだ、誰もそれを知らない。


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