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夜は静かに


 すっかり日が暮れて、ボク達は今日村を出ていくことを、諦める事になりました。夜道はさすがに、危険すぎるからね。皆で話し合った結果、明日の朝いちばんで、村を出ていくことになりました。

 そして、今日の宿についてだけど、ボク達はメリファさんの勧めで、一晩バッハルト家のお屋敷で、泊めてもらう事になりました。そうと決まったら、置いて来た荷馬車を持ってきておかなければいけない。さすがに、泊まりもしないのに、宿屋さんに置いておく訳にもいかないからね。

 という訳で、ボクとアルテラさんは、ぎゅーちゃんが引っ張る荷馬車に乗って、揺られています。2人で運転席の部分に座り、ちょっと馬車が揺れたりすると、アルテラさんの肩と軽くぶつかってしまうような距離感です。


「すまないな。わざわざ、送ってもらって」

「い、いえ。ついで、ですから」


 アルテラさんは、ボク達と一緒には泊まらない。誘ったけど、帰ってリツさんと話すと意気込んでいるようなので、諦めました。

 そこで、日も暮れてしまったし、女の子1人では危ないので、荷馬車の回収ついでに、こうして送り届ける途中です。

 宿屋さんには、アルテラさんに話を通してもらったので、凄く助かりました。元々そのつもりで、先に荷馬車を回収しに行った訳ではあるけど、ボクだってそれくらいできるよ。助かったのは助かったけど、最近は人見知りも少しずつ改善してるんだからね。

 と、誰に言う訳でもなく、自分に言い訳をしてみます。


「ぎゅーちゃんも、わざわざりがとう」

「ぎゅー!」


 荷馬車を引くぎゅーちゃんは、当然大きな姿になっています。その大きな身体で鳴くと、その声は大きく響いてしまい、道行く人たちの視線を集める事になってしまいました。ただでさえ、目立つぎゅーちゃんが大きく鳴くと、一部の人は驚いて、腰を抜かしたり、慌てて逃げていくと言う現象が見られます。誰も近寄ろうとはせず、むしろ避けて、道を開けてくれるのは壮観だけど、ちょっと村の人たちには迷惑だよね。


「ぎゅ、ぎゅーちゃん。夜だし、静かに、ね」

「ぎゅ……ぎゅっ」


 ぎゅーちゃんは、返事をする代わりに、触手でガッツポーズを作って、ボクに答えました。


「良い子だな。ぎゅーちゃんも、ネモさんも」


 アルテラさんが、そういってぎゅーちゃんの触手を撫でて、もう一方の手で、ボクの頭を撫でて来てくれました。頭を撫でながら、褒められるのって、本当に嬉しいよね。特にアルテラさんは、リアルお姉さんな訳で、その包容力は強く、思わず甘えたくなってしまうような衝動に駆られます。


「ひっくぅ。おおい、化け物の上に、べっぴんさんが乗ってるぜ。どっちも、いい女じゃねぇかぁ。やらせろぉ」


 そこへ、ボク達に絡んできた、酔っ払いが1人います。酒瓶を片手に、ふらふらと歩いて近寄ってきて、ぎゅーちゃんに驚く事もなく絡んできました。相当酔っているようで、顔が真っ赤で、真っすぐ歩く事もできないようだ。

 また、酔っ払いかぁ。

 こういう事があると思って、守りやすいように、ボクはアルテラさんと2人だけで、荷馬車の回収に来た訳です。何もなければ、それでよかったんだけど、そういう訳にはいかないみたい。


「何言ってんだい、バカ!」


 でも、そんな酔っ払いの頭を、ひっぱたいて止める人が現れました。それは、おばさんです。酔っ払いの男の人と、同じくらいの年齢のおばさんが、酔っ払いのおじさんの頭を叩いたうえで、その腕を引っ張って連行していきます。


「か、かーちゃん……!?い、いてぇよ、引っ張らないでくれよぉ」

「黙りな。あんた、また潰れるまで飲んで……帰ったら、覚悟しときなよ」

「ひいいぃぃ。勘弁してくれよぉ」


 どうやら、現れたおばさんは、酔っ払いの男の人の、奥さんのようだ。本気で怒った様子で、酔っ払いの男の人は連れていかれ、その顔は酔いがさめたのか、逆に青くなっている気がします。

 一瞬だけ絡まれて、一瞬で終わり、ボクはあっけにとられました。こういう事も、あるんだなぁと思いながら、助けを求める酔っ払いを見送ります。


「……この村は、聖女様が守る、ディンガランに住みあぶれた者達にとって、頼りの綱だ。聖女様の加護はないが、その代わり村を衛兵が守り、治安を維持した上で、魔物や、魔族の襲来に備えている。だが、不安はぬぐえない。男たちはそんな不安から酒に逃げ、夜は酔いつぶれる程に飲み、バカ騒ぎをして誤魔化しているんだ。特に、先日竜によって襲撃を受けた複数の村が、壊滅したばかりだからね。その傾向は、更に顕著な物になっている。女からしたら、いい迷惑だな。酒に逃げたって、何も変わらない。むしろ、いざという時に、頼りにすべき男がああでは、自分たちがしっかりするしかなくなってしまう」


 聖女様が守る町に住める人数は、限られている。ディンガランも例外はなく、中に入るには身分証が必要で、身分証がないのに入ったら、厳しい罰則があるくらいだ。ボクは、ユウリちゃんと共に侵入して、運よく聖女様に身分証を発行してもらい、ディンガランに住めるようになったけど、それは特殊な例だ。

 聖女様が守る、安全な町に住めない人たちは、この村の人々のように、怯えながら暮らしていくしかない。いつ魔物が襲ってくるかも分からない、不安の中で、生きている。

 とはいえ、ちょっと酔っ払い、多すぎだよ。お店では暴れるし、絡んでくるし、良い事ないです。先ほどの男の人のように、ちょっと痛い目に合った方が、ためになるんじゃないかな。


「アルテラ!」


 もうじき、リツさんの待つ、病院に辿り着こうとしていた時でした。正面から歩いて来た人物が、アルテラさんの名前を呼んで、近づいてきました。始め、暗くて顔は確認できなかったけど、その声はリツさんの物です。

 アルテラさんが手に持っていたランプの光で照らすと、やっぱりリツさんの顔が浮かび上がりました。


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