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洒落にならねぇ


 メリファさんは、迷うことなく、ロステムさんを、ロステムさんだと呼んでいた。思い返すと、それはおかしい。ロステムさんは、メリファさんの知っている姿の、ロステムさんじゃないからね。

 胸元を大きく露出して、谷間をアピールしている上に、サイズの合っていないメイド服は、体のラインを強調するように張りつめていて、教育に、非常に良くない見た目をしている。


「何度か、その姿のロステムは、見た事があります。変身し忘れていたようなので、触れずにおいておいたんですけど、触れた方がよかったですか?」

「奥様にも!?」

「オレと一緒に、いる時だな。親父にも見られてるから、そこは気にしなくていいよ。問題は、ロステムの正体が、サキュバスだっていう事だ」

「サキュバス……!?」


 そう聞いて、メリファさんの目が、鋭くなりました。

 エーファちゃん、ちょっとそれは、いきなりすぎるよ。順を追って説明していかないと、もしかしたらメリファさんが、ロステムさんを敵と勘違いして、攻撃してくるかもしれない。


「貴女、サキュバスだったんですか。姿を変え、私たちを騙し、ずっと隠し通して傍にいたんですね」

「そ、それは──」

「──はい、その通りです。私は、皆さんを騙し、偽りの姿に変身して、皆さんの傍にいました。サキュバスであるという事実を隠し、姿まで変えた上で、お仕えしていたんです」


 庇ってくれようとしたエーファちゃんを、ロステムさんが遮りました。エーファちゃんの口を塞ぎ、ロステムさんは、自分の言葉で、メリファさんに伝えようとしています。


「その姿が、貴女の本当の姿なのですね」

「……はい」

「殿方を惑わす、サキュバスに相応しい身体つきですね。正直に言って、今の貴女の方が、魅力的ですよ。いくら熟女好きのエクスが好きだからといって、アレの好みに合わせる必要は、ありません。これからは、素の姿で、私たちに仕えてください」

「お、奥様!?何故私の気持ちを、知っているんですか!?」

「女の勘、というヤツです」


 ロステムさんの気持ちはともかくとして、親に自分の好みの女性のタイプを悟られるのは、ちょっと嫌だな。特に、それが特殊な物だと、なおさら嫌だと思います。

 エクスさんは、熟女好きの特殊な趣味の持ち主のようだから、それを知ったら、絶対にショックを受けるよ。とはいえ、メリウスさんと婚約するあたり、もう隠すつもりもないのかもしれないけどね。


「アレのどこがいいのかはさておき、アレはもう、婚約者を作り、これからは彼女と、明るい家庭を作っていくことになるでしょう」

「そう……だと、思います」


 ロステムさんは、少し寂しそうに、メリファさんに同意しました。

 しかし、親であるメリファさんまで、エクスさんに対して、どこがいいのか分からないとか言っている。その通りかもしれないけど、親なら少しは庇ってあげようよ。この中で、エクスさんに魅力を感じているのは、ロステムさんだけなんだから。もう1人くらい、味方がいてあげてもいいんじゃないかな。

 ちなみに、ボクは嫌です。


「……失恋したサキュバスに、手を差し伸べるのは、近頃夫とはすっかりご無沙汰の、二児の母である、私。夫もある身なのにも関わらず、若々しい身体を持てあました私は、使用人のサキュバスと、やがて禁断の関係に落ちていくのですね。具体的に言えば、肉体関係というヤツを持つのです」


 メリファさんは、そう言ってロステムさんの手をとりました。

 本気で言っているのか、冗談で言っているのか、今知り合ったばかりのボクには、判断できません。 ただ、サキュバスだと聞いて、ロステムさんに対して怒るどころか、そう言って手を取り迫るあたり、メリファさんも、エーファちゃん同様に、ロステムさんを受け入れる心の準備は、とっくにできていたのかもしれません。きっと、ロステムさんが好きで、信用しているからこそ、その正体を知ったうえで、簡単に受け入れられるんだ。


「お、奥様と、私が!?いえ、私は大歓迎ですが!」

「歓迎するんじゃねぇよ!なしだ、なし!」


 相思相愛になりそうだった、ロステムさんとメリファさんを引き離したのは、エーファちゃんです。慌てて、ロステムさんとメリファさんを繋ぐ手を、チョップで切り離し、それからロステムさんを押しやって、メリファさんから遠ざけます。


「今の話、ちょっと詳しくお聞きしたいのですが!」


 ロステムさんとの関係について、妄想ストーリーを口にしたメリファさんに、ユウリちゃんが食いつきました。今までボクが抱きしめて、身体を支えてあげていたのに、いきなり元気になっちゃったよ。元気になって、目を輝かせてメリファさんに迫ります。

 いや、別にいいんだけどね。ボクから離れる時も、さりげなくボクのお尻を撫でて行ったのも、最後にボクの胸を揉んでいったのも、そういう話に食いつくのも、ユウリちゃんらしくて、笑いが漏れてしまいます。


「おや。貴女は見込みがありそうですね。……いいでしょう。朝まで、私の妄想ストーリー。メイドと奥様の禁断の関係について、お話を聞かせて差し上げます」

「お話もいいですけど……実践でも、構いませんよ?その若々しいお体を、持て余しているのでしょう?私でよければ、お相手になります」


 ユウリちゃんはそういって、メリファさんの手をとり、腰に手を回して、メリファさんを抱きしめました。まるで、舞踏会でダンスを踊るかのような格好です。

 2人の身長は近く、メリファさんの方が若干大きいけど、リードしているのはユウリちゃんだ。ユウリちゃんは、キリッとした笑みを浮かべて、メリファさんに笑いかけている。


「これはこれは……困りましたね。こんなに情熱的に迫られると、私昂ってしまいます」

「私も、自分の胸の鼓動が、早くなるのを感じています。この出会いは、うんめ──」

「だから、頼むからやめてくれ!オレのダチと、かーちゃんが肉体関係とか、本気で洒落にならねぇよ!」

「そ、そうだよ、ユウリちゃん!絶対ダメだよ!」

「ああー……」


 2人に割って入ったエーファちゃんに便乗して、ボクも止めに入りました。エーファちゃんは、メリファさんを。ボクは、ユウリちゃんの脇に手を入れて、引き離します。


「ふっふっふ。冗談です」


 表情を変えずに笑って言うメリファさんは、やっぱり、不思議な人です。


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