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私だけの物


 それにしても、リツさんの、アルテラさんの口調まで真似てしまうと言うのは、ボクもどうかと思います。それは、憧れと言うより、その人に成り代わりたいという願望の表れのような気がしてしまう。 あと、今でも十分可愛いとは思うけど、アルテラさんのいう所の、可愛いリツさんも、是非とも見てみたいです。


「──だが、あの男だけは、許せない」

「え……?」


 ふと、アルテラさんが恨みの籠もった声で、そう呟きました。前髪の間から覗く目も、輝きを失い、黒く濁っているようで、とても深い恨みを感じさせます。

 あの男って、一体誰の事だろう。アルテラさんを、ここまで怒らせるくらいの人だ。きっと、とんでもない悪党に違いない。


「あの男は、私の大切な妹を奪った。その上、私とリツとの、大切な時間にまで割り込み、旅を共にするなどと言って、ついてくる……!私たちを守る、護衛代わりだと豪語しておきながら、盗賊に襲われた時も、何の役にもたたずに、野垂れ死ぬ所だった。どこからともなく現れたと思ったら、私の大切な物を奪い、足を引っ張り、いちゃいちゃへらへらしやがって……絶対に、許さない」

「あー……」


 アルテラさんの指す、男の人の事が、ディックさんだと察したボクは、何も言えなくなりました。

 どうやらアルテラさんは、リツさんとディックさんの仲を、認めていないようだ。まるで、娘の交際相手を認めない、頑固おやじのようだよ。


「じゃあ、なんであの時助けたんですか。間違ったフリをして、死なせれば邪魔者はいなくなりますよ」


 イリスが、悪魔みたいな事を言いました。その考えに至り、サラっと言ってのけるイリスは、本当に凄いと思う。けど、ただでさえ女神様としての存在感がないのに、そういう事を言うたびに、どんどん女神様としての存在感が薄れていく事に、そろそろ気づいてほしいです。


「そんな事をしたら、リツが泣いてしまうだろうがっ!」


 イリスに対して、アルテラさんは凄く怒って、そう言いました。あまりの迫力に、イリスは驚いて、ボクの腕に抱き着いてきます。

 つまり、アルテラさんは、ディックさんの事は嫌いだけど、リツさんの大切な人だから、助けざるを得なかったという事だ。ユウリちゃんと、同じだね。ユウリちゃんも、操られているレンさんのお父さんを助ける時、同じような事を言っていた。


「……すまない。少々、取り乱した」

「しょ、少々じゃないですよ。貴女は私の正体を知った上で、なんて不敬な事を……!」

「イリスさんは、確かに女神様のようだが、しかしその力は失っているように見受ける。何があったのかは知らないが、女神としての力はないのだろう?」

「っ……!」


 そう指摘されて、イリスは歯噛みしました。

 指摘の通りで、イリスは女神の力がないので、ただの口の悪い幼女です。


「とはいえ、この世界に女神様が降臨した事自体、とても大きな出来事だ。何かの災厄の前触れか、はたまた、世界を救う事になるのか……私には分からないが、下手に正体を明かすのは、やめたほうがいいだろう。いや、誰も信じないか」

「うるさいですね。ええ、そうですよ。誰も信じませんよ」


 そうだね。最初のころは、女神だと威張って言ってたけど、誰も信じてくれなくて、暖かい目で見られてしまったからね。


「しかし、あの二人を見ていたら、私も少し、リツとちゃんと話してみようという気になったよ」

「そ、そうですね。それが、いいと思います」


 ボクも、リツさんは、リツさんがしたいようにすべきだと思う。いくらアルテラさんに憧れているからと言って、アルテラさんと同じになる必要はない。アルテラさんに命を助けられ、そんなアルテラさんのようになろうと頑張るのは、立派な事だとは思うけど、やり方はちゃんと、話し合うべきだと思います。


「ああ……一度、ディックとの関係を、考え直してもらおう」

「え」

「あの男が、いかに役に立たないか。いかに、無駄な存在か。旅は、私とリツの二人きりですべきであり、私が、私だけが、リツといちゃいちゃする権利があるはずなのだ。リツは、私だけの物。あの身体は、私だけの物だ。誰にも、渡さない。リツのむちむちボディは、私が思う存分むしゃぶりつくし、私なしではいられない身体にしてやる。という話を、ちゃんとしてみようと思う」


 ボクはってきり、リツさんの、アルテラさんのようになろうとして、という部分に対して、話をするのだと思っていたのだけど、どうやら違うらしい。

 えーと……ディックさんの事に関して、か。まぁそちらも、一度話し合うべきだよね。


「……そうですね!」

「思考停止しないで、真面目に答えなさい!コイツも、相当ヤバイですよ!?メイヤとか、ユウリ側の人間です!早くなんとかしないと、妹の身が危険です!」


 イリスが、青ざめた顔でボクの腕を引っ張って揺らしてくるけど、ボクはその件に対して、何も言う事はありません。話し合うべきだと思い、賛同する。それだけです。


「お、お前ら、オレ達を待ってたのか……?」

「あ、エーファちゃん。ロステムさん」


 そこへ、2人きりにしてあげていた、エーファちゃんとロステムさんが、洞窟の中から姿を現しました。2人は、手を繋いだ状態で現れ、とても仲の良い様子で、それを見たボクは、思わず笑顔になってしまいます。


「もう、話は済んだのか?」

「は、はい。皆さんには、ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。私、これからもエーファお嬢様を、守っていきたいと思います!」

「うむ。だが、程々に、な」


 気合を入れるロステムさんに、エーファちゃんは顔を赤くして、わざとらしく頭を掻くという仕草を見せます。完全に、照れてるよね。


「んで、自称女神様は、何で顔を青くしてんだよ」

「誰が、自称ですか……」


 エーファちゃんに言い返すイリスは、元気がありません。そんなイリスに、首を傾げるエーファちゃんは、どこかスッキリした様子です。ロステムさんも、同じだ。ぎゅっと、手を繋ぐ2人は、きっともう、大丈夫……ん?ぎゅっと?

 それで思い出したんだけど、ぎゅーちゃんはどこに行ったんだろう。


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