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絶対、ダメ


 結局、赤い石は、イリスの言った通りの力があるようだけど、ロステムさん自身がその効能を発揮させず、むしろエーファちゃんの命を助けていた事になるようだ。


「お、オレの命を、助けてくれたのか……?」

「は、はい。その石を通じて、私の命だけをお嬢様に分け与えています。定期的に、夜中にこっそり石を持ち出して、この場所で私の命を籠めたうえで、元の場所に戻していたんですよ。気付かなかったでしょう?」

「いや、知ってた。だから、この場所が分かった」

「いやいやいや。お嬢様、寝てましたし」

「寝たふりだよ。大体にして、オレが寝てるのにすっころんで大きな音を経てたり、盗んでいくときにオレの足を踏んだりして、気づかないと思うのか?」

「そんなぁ!私を騙していたんですか、酷いです!」

「騙してたのは、お前だろうがっ!」


 怒るエーファちゃんに、ロステムさんはイリスの膝に顔を押し付けて、顔だけ隠れてしまいました。でも、エーファちゃんはロステムさんに、手は出せません。未だにアルテラさんに、拘束されているからね。いくら怒ってじたばたしたところで、アルテラさんはその手を離してはくれません。


「それはそれとして、サキュバスの命を分け与えられる事により、そのクソガキにも、意図せずサキュバスの魅了の力が移ってしまっているようです。魅力なんて、まったくないのに」

「でも、本当に僅かですよ。普通に暮らしていれば、魅了される人はまずいないはずです。でも、魅了されてしまう人はいます。それは、エクスぼっちゃんから、エーファお嬢様の事を聞いている方々です。その方々は、元々エーファお嬢様が可愛いと言う話を、頭の中に叩き込まれた上で、会いに来るんです。そんな方々が、エーファお嬢様を見た時、本来弱弱しく、かかるはずもない魅了の力が発動されて、エーファお嬢様が異様に魅力的に見えてしまうんですよ。こんな、魅力も何もない、ただのじゃじゃ馬が」

「確かに、言葉遣いが荒くて、目つきは悪く、体つきも幼くて、魅了される要素がない。言葉による、ただの洗脳だけでは限度があるとは思っていたが、そういった理由もあったのか」


 3人は、口々にエーファちゃんの魅力を否定して、エーファちゃんはそれを聞いて、ぷるぷると震えています。ボクは……まぁ、容姿的には、可愛くないとは思わないよ。エロゲでは、ツンデレキャラクターも好きだったし、コレはコレで、アリだと思うな。

 ただ、デレの部分が、今の所あまり見られないので、ボクとしては今の段階で、判断はできません。


「それと、余談なんですが、その石はサキュバスにとって、とても大切な物です。力の核のような物ですからね……普段は、具現化される事もなく、体内にしまっておくべきもの。それを、体内から出して、具現化したうえで、私利私欲のために使うならまだしも、人間の命を助けるために、人間に預けるだなんて、どうかしています」

「そんな、大切な物だったのか……」


 エーファちゃんは、まだロステムさんに向かって怒りは抱きつつも、やや動きが鈍ります。

 力の核という事は、それが壊れてしまった時、ロステムさんにも何らかの影響があるはずだ。先程は、石が壊されてもほとんど影響がないと言っていたけど、どうやらそれは、虚勢のようだ。


「別に、構いませんよ。何をされたって、サキュバスの力を失うだけですから。エクスぼっちゃんが落とせなかった今、もう、どーでもいいです。私の魅力なんて、魅了の力がなければなーんにもない事が、わかりましたから。笑っちゃいますよ」


 自虐的に言うロステムさんだけど、それは大変な事だと思うんだ。サキュバスの力を失ったら、今のように姿を変える事もできないし、魅了の力も使えない。冒険者にでも襲われたら、おしまいだよ。


「自暴自棄になるのはいいですが、もしそれが壊されたら、このクソガキの命はどうなるんですか」

「……恐らくは、死んでしまいますね。エーファお嬢様の命は、もうほとんど残っていません。私の命がなければ、とっくにあの世行きですから」

「お、オレ、死ぬのか……」


 ロステムさんは、あっけなく言ったど、それはエーファちゃんにとって、かなりショックな事のはずだ。エーファちゃんは、唾を飲み込み、緊張した様子になりました。


「確かに、ロステムさんの言う通り、エーファさんはとても危うい状況にある。これまで生きてこれたのが、不思議なくらい、その命は弱弱しい。助けがなければ、生きてはいけないだろうな」

「でしょうね……残念ながら、このクソガキは、自分の置かれた状況も知らず、のうのうと、生意気に生きて来た、という訳です」

「っ……!」


 ロステムさんがいなければ、エーファちゃんは生きていけない。それに気づくこともなく、エーファちゃんはロステムさんの言う事も聞かず、偉そうな態度を取っていたのを、ボクは目撃した。

 それは、ボクが見た一瞬だけの出来事ではなくて、エーファちゃんは普段から、そうしていたんだ。だから、イリスの言う事に突っかかる事もなく、何も言えない。言い返せない。


「あ、あの、私は別に──」

「──ロステム」

「は、はい」


 何か言いかけたロステムさんを遮り、エーファちゃんがその名前を呼びました。


「その石は、返す。自分で、大切に持ってろ」

「え、エーファちゃん!?」


 目を伏せて、床を見ながら、エーファちゃんは少しだけ寂しそうに、そう言いました。

 ボクは、その発言に驚きます。それは、エーファちゃんの死を意味する事だから。そんなの、絶対ダメだよ。エクスさんやメリウスさんが、凄く悲しむよ。ボクだって、そんな事になったら、凄く悲しくなってしまう。

 慌てふためくボクを、アルテラさんが、前髪の隙間から覗く目で見て来て、優し気に微笑みました。その笑みの意味は分からないけど、アルテラさんはそんな優し気な笑みのまま、抱きしめていたエーファちゃんと、正面で向き合い、視線を合わせて尋ねます。


「エーファさん。それが意味する事は、分かって言っているのかい?」

「分かってる。せっかく命を貰って生きて来た上で悪いんだけどな。しょっちゅう熱が出て、正直生きていくのも辛いんだわ。命を貰って、ようやく生き延びてるっていうなら、それはもう、必要ねぇよ。だから、返す。あとは、なるようになれ、だ」

「そうだな。私も、エーファさんと同じ立場にあったら、そういう選択をとるかもしれない。だから、君の選択は、間違っていないと思うよ」

「アルテラさん!?」

「そうですね。私だったら、せっかく命を分けていてくれた方に、生意気な態度をとって生きて来ただなんて、恥ずかしくて生きていけませんよ」

「イリス!?」


 相次いで、エーファちゃんの選択に賛同する2人に、ボクは更に驚きます。

 特に、イリスの言葉にはビックリです。絶対に、イリスはそんな事気にする子じゃないよ。例えエーファちゃんと同じ状況にあっても、イリスは変わらず、のうのうと生きていく。そういう子です。


「そういう訳だ、ロステ──」

「絶対、ダメぇ!」


 ロステムさんが、大声で叫びました。叫んで、イリスの膝から起きて立ち上がり、涙の浮かぶその目で、エーファちゃんを睨みつけます。


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