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器用な人


 でも、まだ分からない。どうしてそれが、この石に繋がるのか、肝心な所に、まだ辿り着いていません。


「だからお前、本当はこんなに若くてキレイなのに、あんなおばさんの姿に変装してたのか」

「は、はい。サキュバスは、対象の好みに合わせて、外見を変える事ができますからね。コレが、本来の私の姿で、普段のおばさんの姿は、エクスぼっちゃんの好みに合わせた外見です」


 エクスさんの婚約者である、メリウスさんを思えば、確かにエクスさんの好みは年上のようだ。熟女好きの、シスコンで、セクハラ魔王のエクスさんの好みに、合わせた姿だったんだね。


「それで?石の話は、どうなったのだ?」

「え、えと……怪我が治り、元気になった私は、エクスぼっちゃんの下を離れました。追手は、私が死んだと判断していましたし、懸賞もなくなって、私を追う者はいなくなったので、私は自由の身です。その後、エクスぼっちゃんに別れを告げて去ったフリをした私は、エクスぼっちゃん好みの姿に変装して、バッハルト家のメイドとして近づくことに成功しました。この姿では落とせませんでしたが、あの、メイドさんとしての私なら落とせるかも、と考えたんです」


 魅了はダメだけど、相手の好みの姿に変装して、落とすのは良いんだね。それでもしくっついたとして、そこにある愛は、本物と言えるのか、それとも偽物なのか、微妙な所だと思うよ。


「でもダメでしたぁ。エクスぼっちゃんは、メリウス様を追ってディンガランへ行ってしまいましたし、サキュバスである私は、聖女様の力によってあの町に入れませんし、もう何もかも終わりですっ。私、いじけてメイドのお仕事を勝手にサボって、しばらくこの洞窟に籠もったんです。そして、エクスぼっちゃんと、こんな所で暮らしたいなと思いながら、この空間を作りましたぁ」


 泣きながらそう言うロステムさんが、床に座り込んでしまいました。

 先ほど、イリスに泣きついていた時と、同じような顔になってしまいます。もしかしたら、あの時も、こうして自分のお涙ちょうだいエピソードで、泣いていたんじゃないだろうか。そんな疑惑が持ち上がってきました。


「そんな簡単に、作れる物なのか、この空間は……」


 あきれ顔で言うアルテラさんに、ロステムさんは涙を拭い、胸を張って答えます。


「私、紋章魔法が得意なんです。だから、光の紋章魔法を、洞窟の壁のあちこちに仕掛けて、土は運んで来て、草花を植えた上で、こちらも紋章魔法により、栄養が行き届くようにしてあります。お家は普通に材料を運んできて、作りました。家具も、そうです。どうですか?中々自信作なんですが」


 まさかの、手作りのお家でした。とてもじゃないけど、個人で作ったお家には見えません。小さいけど、作りもしっかりしていて、何もいう所がない。この人、間違いなく器用な人だよ。

 でも、フラれたからって、理想の空間だけを現実の物にしようと考えるのは、ちょっとした狂気を感じます。今の話を聞いたら、この癒しの空間も、なんだか濁って見えてしまうから不思議です。


「そういえば、しばらくいなくなった事もあったな。気付いたら戻ってきてたけど……」

「たぶん、その時ですね。それ以外に、長期間いなくなった事はないはずですから」

「では、どうして戻る気になったのだ?」

「それはですね。エクスぼっちゃんの恋人にはなれないけど、妹になら、なれるかなって思ったんです」

「というと?」

「エクスぼっちゃんの妹である、エーファお嬢様……彼女の身体を乗っ取って、私が妹になりかわる。そうすれば、形は違えど、私はエクスぼっちゃんの妹になって、エクスぼっちゃんの愛を受けながら、ずっと一緒になれるかなぁって思ったんですよ。おおまかな年齢や、身体の形はいじれても、完璧に変装する事はできませんからね。だから、元々身体の弱かったお嬢様には、この世をお去りいただいて、私がその身体をいただいて、代わりにエクスぼっちゃんのお傍に。そう思ったんです」


 笑顔で、いいアイディアでしょ、みたいな顔をして言うロステムさんだけど、やっぱり考え付く事が少し……というか、だいぶずれている。

 ちょっと、怖いよ。最初は良い人なのかなと思ったけど、考えを改めなければいけないかもしれない。

 ロステムさんを、悪い人ではないと擁護していたエーファちゃんも、アルテラさんに身体を支えられながら、引きつった表情を浮かべています。


「そこで登場するのが、この石です。この石によって、エーファお嬢様の魂を抜き取りつつ、私の魂を分け与える事によって、私の魂が定着しやすいように、細工をしていたんです。でも、そのためには持ち主に、この石を大切にしてもらう必要があります。タンスの奥深くにしまわれたりしたら、効果が発揮できませんからね。そこで、当時エーファお嬢様は、エクスぼっちゃん大好きっ子でしたので、エクスぼっちゃんからプレゼントするように仕向けて、作戦は上手く行きました。エーファお嬢様は、今でも大切にして、枕元に置いて毎日眺めているくらいですからね」

「だ、誰があんなクソ兄貴大好きっ子だ!でたらめいうんじゃねぇ!」

「えー……だって当時は、エクスぼっちゃんにベッタリだったじゃないですかぁ。一緒に寝てぇとか、トイレについてきてぇとか、どこへいくにもエクスぼっちゃんに──」

「もういい、黙れ!殺す!このサキュバスは、死刑だ!オレと入れ替わろうとしてたなんて、許せねぇ!」


 想定外の暴露に、エーファちゃんは顔を真っ赤にして怒ってしまいました。ロステムさんを庇っていたのが嘘のような事を言い出して、ロステムさんに殴り掛かってしまいそう。それを、アルテラさんが抱きしめるようにして止めているけど、怒りが収まる様子はありません。


「そうするつもりだった、という事だよ。実際、ロステムさんは、そうしようとしたのかもしれないけど、やらなかった。だから君は、こうして元気に生きている。どうして、やらなかったんだ?」

「……だ、だって、もし私がそんな事をしたら、お嬢様がいなくなっちゃうんですよ!?可愛く、優しいお嬢様がいなくなっちゃうのが嫌で、でもお嬢様は病気で、今にも死んでしまいそうで……だから、石の力を通して、命を奪うのはやめて、私の命を分け与えて来たんですぅ。うわぁーん!」

「またですか!」


 そう言って、ロステムさんはまた、泣き出してしまいました。先程、ボク達が窓から覗いた時と同じように、イリスの膝にすがりつき、幼女の膝で、泣いています。今度は、ボク達の目の前で、堂々と、です。


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