子供の喧嘩
誤字報告、ありがとうございます!
それが、どういう原理なのかは、分からない。だけど、明らかにこの空間は、普通ではない。洞窟の中が、こんなに明るいなんて事ある訳ないし、暖かくて、ぽかぽかとしてるのもおかしいです。
絶対に、魔法か何かだよね。実際、何かの強力な魔法の力を感じる。
「うぅっ……う、うっう、うぅ」
呆気にとられるボク達の耳に届いたのは、すすり泣くような声です。その声は、どうやら家の中から聞こえてくるようで、ボク達は警戒しながら、その家に近づきます。
音をたてないように近づくことに成功したボク達3人は、その家の窓から、目を出して覗いてみました。3人で密着して、仲良く身体をくっつけて。
「あ……」
そこにいたのは、イリスと、ロステムさんでした。ただ、何だかおかしな光景が広がっていて、ボク達はまた、呆気にとられることになります。
というのも、若くてキレイなロステムさんが、イスに座っているイリスの膝に顔をうずめて、泣いているんです。恥も外聞もなく、わんわん泣いて、鼻水を垂らしています。
イリスは、そんなロステムさんを、いやいやながらと言った様子で、ハンカチで鼻をかませたり、頭を撫でてあやしています。
なんだ、コレ。イリスを見つけられたことに対する、安心よりも、そんな思いが強くて、なんと言ったらいいのか、よく分かりません。
「あ、ネモ」
そんな時に、イリスがこちらに気づいて、目が合いました。そして、ボクの名前を呼んできます。
「な、なじぇ!?ここが!?」
イリスの言葉に反応したロステムさんも、鼻水を垂らしたままボク達に気づいて、慌ててイリスから飛び退いて、イリスが座っているイスの、後ろに隠れました。
もう既に、色々と見ちゃってるから手遅れなんだけども、気づかれてしまった以上、もう隠れる必要はない。
ボク達は、窓から離れて、家の扉に手をかけて、それを開きます。
家は、木でできた、お洒落なお家でした。広くはないけど、リビングには毛皮の絨毯が敷かれていて、暖炉もあって、冬は暖かそう。それに、お洒落な机の上には、小さな鉢に、観葉植物が植えられていて、カワイイです。更に、壁にかかっている、何を描いているのか分からない、ぐちゃぐちゃの絵に、おかしな形のツボ。それらも、よく分からない芸術性を生み出しています。台所もあるんだけど、そこに置かれる物は、全てキレイに整頓されていて、この家の主の性格を表しているような気がします。
「お、おじゃまします……」
恐る恐る家の中へと入ると、イスに座ったイリスが、イスの上で胸をふんぞり返らして、腕を組んで出迎えてくれます。
「私を追って来たようですね。ご苦労様です」
「……なんだぁ、この生意気な子供は。せっかく、探しにきてやったっていうのによぉ」
「ああ?子供じゃないです。女神ですぅ。貴女こそ、何なんですかその喋り方。下品で、まったく女らしくもない。だから、男みたいに胸も成長しないのではないですか?」
「ぷふっ」
ボクは、そういうイリスに、思わず笑ってしまいました。だって、本当にエーファちゃんの胸って、何もないんだよ。くっつかれた時に、確かめ済みです。エーファちゃんより背の小さな、イリスですら、もう少しあるんじゃないかな。
それに対して、エーファちゃんが、凄い形相で睨みつけて来ました。
「おめぇも、何にもねぇだろうがっ!」
「はっ」
そう言われて、思い出しました。イリスよりも、エーファちゃんよりも背の高い、ボクも胸がありません。
「大体、女神ってなんだよ、それこそ笑っちまうぜ。そんな事言ってる年でも、ねぇだろう。早く、目を覚まして、もうちょっとだけ精神的に成長しような。め・が・み・さ・ま」
エーファちゃんは、ショックを受けるボクから、イリスに狙いを定めて詰め寄ると、イリスの目の前で、イリスを見下ろしながら言いました。
「言うじゃないですか、人間の小娘如きが。でも、そういう態度は相手を選んで、とるべきですよ。でなければ、寿命が縮まる事に繋がりますからね。コレは、女神様からの警告です」
「おー怖い怖い。で、相手を選んだ上で、こういう態度をとってるオレに、何か起きるのか?何も起きないんだけど、どう思うよ、女神様ぁ」
「くっ……このクソガキ……!」
「クソガキは、てめぇだろうが!」
「バーカバーカ!お前なんて、その内天罰がくだって、酷い目にあいますよ!」
「うるせぇ、頭がイカれたクソガキ!お前の方こそ罰があたって、酷い目に合うから、見とけよ!」
火花を散らして睨み合う2人は、本当に子供のようです。2人とも、もうちょっとだけ大人になろうよ。傍から見ると、本当にみっともないからね。
特にイリスは、何千年と生きて来た、本物の女神様なんだから。こんな安っぽい挑発に乗って、怒って、子供みたいにわめきちらして……あれ、イリスって本当に、女神様だっけ。そんな疑問が浮かび上がってきたけど、よく考えたら本当だった。よく考えないと、思い出せないくらい、イリスって女神じゃないよね。
「二人とも、言い合いはそこまでにして、少し落ち着け。話が進まない」
そんな2人の仲裁に入ったのは、アルテラさんでした。
「……」
「……」
アルテラさんに言われて、エーファちゃんがイリスから離れて、目を背けます。イリスも、目を背けて不機嫌そうにしています。
「まったく、エーファお嬢様は……子供のように、みっともないですよ」
そう言いながら、イリスの後ろから出て来たロステムさんは、元のキツイ感じのおばさんの姿になっていました。鼻水と、涙も拭かれていて、完全に元の姿です。




