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似ていません


 窓から入って来た女の子は、スカートがはだけるのを気にする素振りも見せず、家の中へと降り立ちました。

 現れたのは、黒髪の女の子です。髪の毛を左右に分け、髪留めで簡単に止めて、前髪が目にかからないようにしています。全体的に、肩の辺りまで伸ばした髪の毛は、長すぎず、その強気そうな目と相まって、快活そうなイメージを持たせます。身長は、イリスよりちょっと高いくらい。体つきは、ほっそりとしていて、ロガフィさんタイプだ。

 彼女は、激しい動きをして家の中に入って来た事により、汚れのついたスカートを軽く払い、それから乱れた個所を、きちんと直しました。

 そこは、割と几帳面なんだなとか思いつつ、ボク達にはある疑問が浮かび上がってきます。


「エーファお嬢様。窓から入るのはよしなさいと、アレほど言いましたよね。そもそも、私に言われるまでもない、常識のはず。貴女は常識を、なんだと思っているのですか」

「常識は、ぶっ壊すためにある!」


 彼女は、拳を突きあげながら、堂々とそう答えました。

 なんて、アウトローな事を言う子なんだろうか。この年で、そこまで反社会的な思想に取りつかれているなんて、将来が恐ろしいよ。

 それに対して、ロステムさんは頭を抱えます。


「え、えっと、ロステムさん。こちらの方は……」


 レンさんが、恐る恐ると言った様子で、頭を抱えるロステムさんに、尋ねました。


「こちら、エーファ・バッハルトお嬢様……エクスぼっちゃんの、妹です」

「……」


 腕を組み、偉そうにふんぞり返りながら、その紹介を受ける、エーファちゃん。イリスと同じく、偉そうな態度をとって、自分を大きく見せようとしているのかもしれません。

 予想通り、彼女はエクスさんの妹さんでした。噂の、ボクに似ていると言う、妹さんです。

 ボクと比べてみると、まず目は全然似ていません。ボクはもっと、気弱そうな目をしているけど、彼女は凄く鋭い目つきです。顔の形も、鼻も、口も似ていない。似ているのをあげるとすれば、髪の色と、体つきくらいじゃないかな。それを似ていると言うのなら、世の中でそっくりさんは、山ほどいる事になっちゃうね。


「……話は、盗み聞きさせてもらった。お前たち兄貴の知り合いなんだってな?」


 距離を取ったまま、エーファちゃんはボク達に、そう聞いてきました。どことなく、彼女はボク達を、警戒しているようです。初対面だから当然と言えば当然だけど、その距離感はちょっと、広すぎる気がします。

 その際の言葉遣いは、とても男勝りで、アルテラさんやメイヤさんよりも、男の人に近いです。


「は、はい。エクスさんの紹介を受けて、寄らせていただきました」

「今すぐ、帰れ。兄貴も、兄貴の知り合いも、この家には一歩たりともあがらせねぇ!」


 レンさんが答えると、エーファちゃんは、ボク達を歓迎してくれるどころか、敵対的な目で睨みつけて、そう言い放ちました。元々鋭い目つきだったけど、ボク達を睨むその目は、更に険しい物へと変わります。

 どうして、そこまで怒っているんだろう。


「いや、もう上がっているが……」

「黙れ、犬!次喋ったら、首輪を付けて奴隷市場につれてくぞ!」

「……」


 この村は、ディンガランに近いと言うのに、亜人種にはだいぶ優しいイメージがあった。でも、エーファちゃんのその言葉は、亜人種であるディゼルトに対する、差別に他ならない。やっぱり、差別をする人は、するんだなと思い、少し嫌な気持ちになってしまいました。


「く、首輪……!?私にか?ど、奴隷……貴女が主人なら……い、いや、ダメだ!私の主人は、レンさんだからな!絶対ダメだ!」


 でも、ディゼルトは若干喜んでいるようなので、別にいいか、と思いました。

 割と、Mだよね、ディゼルトって。それに、女の子好きだと、ボク達の前で公言しているから、むしろご褒美のように聞こえてしまったみたい。その辺は、ユウリちゃんにちょっと似ています。


「そ、そんなに嫌わないでください。私たちはただ、エクスさんから、ネモ様に似ている妹さんがいるとお聞きして、お会いできればなと、思っただけなんです」

「オレと、似ている?誰が。そこの、寝ぼけてるチビか?」


 エーファちゃんは、自分と年の近そうな、イリスを顎で指して言いました。イリスは、ロガフィさんの膝の上に乗せられていて、未だに起きる気配がありません。


「いえ……」


 レンさんは、その視線を、ボクへと向けてきました。


「はぁ?この、ひょろくて、可愛い女が、オレに似ているだぁ?アイツの目も、いよいよ腐ってきやがったな。もしかして、あんたまでそう思うのか?オレと、その可愛い女が、似ていると!」

「い、いえ……」

「だろ!?見れば分かるよな!?見れば分かる事を、いちいち聞いてくるんじゃねぇ。それができねぇなら、黙ってな」

「はい……ごめんなさい……」


 レンさんは、厳しく言われて、小さくなって謝罪をしました。

 この子、レンさんと本人の言う通り、全くボクに似ていません。見た目も、性格もだ。詐欺だよ。騙されたよ。今すぐ町に戻って、エクスさんを殴ってやりたい衝動に駆られます。


「分かったら、帰れ。もう、オレと会って目的は達したよな?用は、済んだだろう」

「──いえ。まだ済んでいません」


 イスから静かに立ち上がり、そう言い放ったのはユウリちゃんです。


「はぁ……?」

「はぁ、はぁ。小さなおねえしゃま、生意気可愛いしゅぎます。も、持ち帰っていいですか。愛でていいですか。食べて、いいですか」

「ち、近寄るなぁ!やっぱり兄貴に洗脳されてたな、この変態ども!い、今すぐ出ていけー!」


 息を荒げて近寄るユウリちゃんに、エーファちゃんは壁際へと追いつめられると、そう叫びました。

 その叫びの中に、少し気になる言葉がありました。エクスさんの、洗脳?変態は、一部合ってるけど、洗脳とは、なんの事だろう。ボクは、ユウリちゃんを背後から抱きしめて止めながら、疑問に思いました。


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