表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
280/492

期待はしないでください


 それは、ディンガランを出る前の、町での会話の一幕です。


「──それならついでに、オレの妹に会ってみませんか?」


 この村を通って行くと聞いたエクスさんが、ボク達にそう提案してくれました。

 話にだけ聞いていた、ボクに似ていると言う妹を持つ、エクスさん。偶然にも、この村がエクスさんの故郷で、この村にその、噂の妹さんがいるみたい。


「絶対に、会います」


 それを聞いて、ユウリちゃんは即答でした。決意の籠もった目で、真っすぐに、嫌いなはずの男の人を見て、答えていました。

 ボクとしては、先を急ぎたい所だけどでも、レンさんや、ロガフィさんまでも会ってみたいとか言い出して、結局は寄っていくことになりました。


「ありがとうございます!妹は、病気がちで友達も少なく、皆さんが訪れてくれた、きっと喜ぶと思うんです……」


 エクスさんは、ボク達に、そう感謝の言葉を述べました。

 妹を気遣うお兄ちゃんな姿のエクスさんに、ボクはちょっとだけ、感心します。


「ついでに、胸が大きくなったか見ておいてください。それから、お尻の肉付きも心配ですね!」


 でも、やっぱりセクハラ癖はなおっていないようです。女の子の身になって、こんな兄がいたら、ボクだったら嫌だな。そう思います。


「お任せください!私が全てを見ておきます!」


 そして、そんなお願いをしたら、一番いけない人にお願いしてしまった事を、この人は知りません。

 そんな出来事があって、この村に会いに来た人とは、エクスさんと離れて暮らす、エクスさんの妹さんの事です。

 ボクとしても、気にならないと言ったら、嘘になります。ボクに似ていると言う妹さんって、一体どんなだろう。可愛いのかな。それとも、少し大人っぽい感じの子なのかな。自分の容姿から派生させて、色々と想像してしまいます。


「ごめんくださーい」


 家の前で、想像に夢を膨らませるボクをよそに、ユウリちゃんがその家の扉を叩きました。


「はい」


 すぐに、家の中から返事があり、そして扉の施錠が解かれると、扉が開かれました。

 中から出て来たのは、おばさんでした。清楚なロングスカートのメイド服に身をつつんだ、目つきの鋭い人です。顔にシワが目立ち始めている年齢だけど、特に眉間のシワが気になります。凄く怖そうな人で、アニメとかでよく見かける、意地悪な使用人みたいな感じだ。


「どちら様でしょうか」


 ボク達を見て、彼女はそう尋ねて来ます。ボクは、怖いのでディゼルトの背後に潜みます。応対は、ユウリちゃんにお任せです。


「こちらは、エクス・バッハルトさんのご実家で、間違いありませんよね?」

「はい。こちら、バッハルト家のお屋敷でございます」

「私たち、エクスさんの紹介で、ディンガランからの旅の途中で、寄らせていただきました。こちらが、エクスさんからのご紹介の手紙になります」

「拝見します」

「はい」


 ユウリちゃんが取り出した手紙を、そのメイド服の女性が開き、目を通します。軽く目を通したと思ったら、彼女は一瞬だけ、優しく微笑んだ気がします。すぐに、元のきつそうな表情に戻ったけどね。


「確かに、エクスぼっちゃんからのお手紙のようですね。どうぞ、おあがりください」


 少し、態度が和らいだ気がするメイド服の女性に誘われて、ボク達は家の中へと通されました。通された先は、簡素な机とイスの置かれたお部屋で、どうやらこの家の食卓のようです。広々とした部屋には台所があり、良い匂いが部屋そのものに染みついている気がします。


「狭い所で、申し訳ございません。今、お茶を淹れますね」


 そういって、台所で作業を始める、メイドさん。彼女は魔法石によって火をおこし、水を沸かす作業に入りました。


「いえいえ、お構いなく。では先に、自己紹介をさせてもらいますね。私は、ユウリと言います」


 ボク達は、イスに座らせてもらい、ユウリちゃんが発端となり、自己紹介をする事になりました。イリス以外、全員自分で自己紹介をして、イリスの名前はユウリちゃんが代わりにして、終わりです。


「私は、この家の使用人……ロステムと申します。どうぞ、よろしくお願いします」


 ロステムさんは、丁寧に頭を下げて、ボク達に自己紹介をしてくれました。

 最初は、怖そうなおばさんだと思ったけど、思いのほか優しそうで、安心します。


「私たち、実はエクスさんの妹さんに会いにきたんです」

「そのようですね。お手紙に、書いてありました。……一応、先に言っておきますが、あまり期待はしないでくださいね」

「期待?」

「はい。どうせ、エクスぼっちゃんからは、可愛くて天使のようだとか、美しすぎるとか、可愛すぎるとか、そういう事を聞いているのですよね?」

「え、ええ、まぁ、そう伺っています」


 ロステムさんの言い方だと、違うのかなと、疑ってしまいます。


「そうですよね……。期待に添えなくて申し訳ないのですが、彼女の正体は悪魔のような子。腹黒で、性格は極悪。学校の成績はいつもビリ。好き嫌いは多いし、我儘で、手の付けの用のない、じゃじゃ馬なのです」

「るぁれが、じゃじゃ馬だってーの!」


 ロステムさんの、衝撃の発言について考える暇もなく、とある人物が、ボク達が座って寛いでいる食卓に、怒鳴りこんできました。それも、入り口からではありません。窓からです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ