入団テスト
無理だと言われたら、仕方ないよ。ボクは、背を向けて帰ろうとした。
でも、そんなボクの腕を、ユウリちゃんが掴んで止める。
「どうしてですか?」
「実は昨日、ヘイベスト旅団が壊滅しまして……あちらから、大量の冒険者が流れてくる事を、警戒しているんです。特に、私達キャロットファミリーのギルドマスターである、メイヤ様は、ヘイベスト旅団を毛嫌いしていますから。元々、ヘイベスト旅団にいた方は問答無用で入団をお断りしているんですけど、それを隠して、入団しようとする人もいるんです。という事で、しばらくは新規の入団は停止する事が決定していて……申し訳ないです」
なるほど。それなら、仕方ないです。
ボクはまた、立ち去ろうとするけど、ユウリちゃんは手を離してくれない。
「私達、とある人に紹介されて、このギルドに来たんです。ね、お姉さま」
あ、そうだ。ラメダさんが書いてくれた、紹介状……ボクがアイテムストレージに預かってるんだった。ボクは画面を操作して、それを取り出す。
「わ」
受付の、女性。イオさんが、驚いて声を出した。全く知らない人が見たら、驚くのも無理がない。
ボクが手を出したら、そこに光の粒子が集まっていって、何もなかった所に手紙が姿を現したのだから。
「お、驚きました。今のは、魔法か何かですか?」
「細かいことは気にしなくていいから、さっさと読みなさい」
イリスがボクの手から手紙を取り上げて、それを机の上に、少し乱暴に置いた。
どうやら、子供扱いされた事を、根に持っているみたい。ちょっと、不機嫌。
「この封印は……ラメダ様の物ですね。ラメダ様が、貴女達をここにと、紹介したんですか?」
「はい」
「……少々お待ち下さい。この手紙の封は、メイヤ様にしか解くことができないので、メイヤ様に見てもらってから、判断を仰ぎます。それで良いでしょうか」
「分かりました」
という事で、ボク達は受け付けロビーのソファに腰掛けて、イオさんの戻りを待つ事になった。その間、色々な人がボク達を奇異の目で見てきて、恥ずかしい。フードがなかったら、もうとっくに吐いてるよ、ボク。
特に、一番目立ってるのはイリスだ。イリスはソファには座らずに、ボクたちの前で腕を組んで仁王立ち。辺りを睨んで、警戒しているみたい。
「みて、あの子かわいー」
「ホントだ。エルフの子供なんて、珍しい」
そんな、この場所を訪れた冒険者さんの、会話が聞こえてくる。
その度に、イリスが睨みつけているので、いつ暴走しないか気が気じゃないよ。
「大丈夫ですよ、お姉さま。皆さんの視線は、イリスに向けられています。それでも、気分が優れないようでしたら、どうぞ」
ボクの隣に座っているユウリちゃんが、自分の太ももを軽くはたいて、そう言って来た。つまり、膝枕をしてくれるって言う事かな。凄く、魅力的な提案なんだけど、こんな所でそんな事をしたら、更に悪目立ちしてしまう。
「ありがとう、ユウリちゃん。気持ちだけ、受け取っておくね」
「そうですか……」
あからさまに気を落とすユウリちゃんに、ちょっとだけ気が引けた。
それからすぐに、イオさんがカウンターの奥から姿を現して、ボク達の姿を確認すると、駆け寄ってきた。それを見て、ボクとユウリちゃんはソファから立ち上がって、イオさんを迎える。
「お待たせしました。メイヤ様に、確認取れました。入団しても、良いとの事です。良かったですね」
「やりましたね、お姉さま!」
「う、うん……」
ボクの手を取って喜ぶユウリちゃんだけど、ボクとしては複雑だ。これから、冒険者として働かないといけないと考えると、憂鬱。でも、頑張らないと奴隷。
はぁ……引きこもりの時代が、懐かしい。
「ただし、入団のテストは受けてもらいます。コレに受からなければ、入団は認められません」
「て、テストですか……?」
ユウリちゃんが、イオさんの言葉に、一気に不安げになった。
「大丈夫ですよ。不安にさせて、すみません。テストと言っても、軽い検査のような物ですから、必要最低限の力があれば、誰でも冒険者にはなれます。まぁコレはギルドによって基準が変わったりするんですが、うちは能力よりも、人柄重視ですから。通過儀礼みたいな物ですね。それでは、こちらへどうぞー」
イオさんの後に続いて、カウンターの奥の扉へ入る。そこからしばらく廊下を歩いていくと、検査室と書かれた名札の掛けられた扉の前で、イオさんが止まった。イオさんがその扉を開いて、ボク達を中へ入るように促してくるので、中へと入っていく。
扉の中は、広々とした空間が広がっていた。色々な器具が置かれていて、トレーニングで使うような重りや、身長を測る道具に、他にもボクには使い道の分からない物がたくさん置かれている。壁全体は窓になっていて、外から入る光が眩しいのと、日差しが気持ち良いです。
「ざっくり説明させてもらいますと、これから3人には、キャロットファミリーの一員の証である、このギルドエンブレムに、名前や、能力指数を登録してもらいます」
イオさんがそう言って取り出したのは、百合の花をモチーフにした、銅色のエンブレムだ。大きさは、ボクの掌に余裕で収まるくらい。材質は、よく分からない。鉄のように硬いけど、重くはない。
「このエンブレムに記録された能力指数によって、受注できる冒険者としての仕事の難易度が、上がったり、下がったりする訳ですね。更には、そうして能力を明確にする事によって、PTを組んだ時の役割を決めやすくなったりと、便利なんですよ。エンブレムには、ネックレスや指輪、腕輪やピアスタイプがあります。常に、身につけておく事を意識してくださいね。と、言う訳で、早速やってみましょー」
「では、まずは私から」
腕を組んだイリスが、申し出た。その顔は、何故か自信たっぷり。
「いいですよー。どのタイプのエンブレムにしますか?」
イオさんが、箱に無造作に詰まった大量のエンブレムを、イリスに見せて言った。
「では、腕輪で」
「はい」
イリスが選んだのは、腕輪タイプのエンブレム。どれも銅色だけど、それぞれで形が若干違う。イリスが選んだ腕輪タイプは、腕輪に円形のエンブレムが溶接された形をしている。
「権利者、イオが命ずる。新規登録者、情報登録開始」
イオさんが腕輪を手に取り、集中してそう唱えると、腕輪が光を放ち、僅かに風が巻き起こった。
「では、この腕輪を手に取り、自らの名前を言ってください。それで、仮登録となり、同時に能力指数も測られます」
「……イリス」
イリスは腕輪を手に取り、そう言った。その瞬間、青い光がイリスを包み込むと、しばらくしてその光がエンブレムへと吸い込まれるように収束し、何事もなかったかのように静まり返る。
「ご苦労様です。では、その腕輪をこちらへ置いてください」
イオさんが指示したのは、机の上。そこに、紙を敷いて、その上に腕輪を置くように促す。
イリスは、言われたとおり、そこに腕輪を置いた。
「権利者、イオが命ずる。この者の力を、我に示せ」
一瞬、腕輪が光ると、下に敷かれた紙に、文字が浮かび上がってきた。勿論、誰かがペンで書いている訳じゃなくて、自然と浮かび上がってくる。不思議です。不思議現象です。
「どれどれ。イリスちゃんの能力は……ええ!?」
イオさんがその紙に目を通して、驚きの声を上げた。




