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繋ぎたい


 ディックさんのお見舞いを終えたボク達は、リツさんとのお別れを済まし、歩いてとあるお家へと向かいます。建物の密集地帯から、少しだけ離れた場所にあるというその家は、名前を聞けば、村の誰もが知っているお家で、探すのにはさほど苦労はしませんでした。


「あれですね、お姉さま!」


 ユウリちゃんは、見えて来た立派なお家を指さし、はしゃいでいます。

 村の人たちが、口を揃えて言っていた場所に、それはありました。大きなお家は、広い草原の中に建っていて、広大な庭つきのお家です。建物は、ボク達が昨夜泊まった、宿くらいの大きさがあります。ただ、こちらは木造ではなく、頑丈なレンガ作りのお家だ。

 それを見て、はしゃいでいるユウリちゃんの手は、アルテラさんと繋がれています。アルテラさんは、手を引っ張ってくるユウリちゃんに困りながらも、仕方ないなと言って、ついていきます。

 いつもなら、真っ先にボクと手を繋いでくるユウリちゃんが、アルテラさんと手を繋いでいて、正直言うと、少し寂しいです。


「ぬふー」


 そんなボクの心境を察してか、いつも以上に、レンさんがボクにくっついてきています。腕に胸を当てて、抱き着いてきていて、密着状態です。

 くっついてきているレンさんは、とても幸せそうな顔で、こちらまで幸せな気持ちになってしまいます。実際、レンさんの胸が当たって、嬉しくて幸せなのは確かで、本当に柔らかくてぷにぷにで、気持ちが良い……。


「き、気分が悪いのは、大丈夫そうだな。その……良かった」


 ボクの隣には、ディゼルトがいます。ディゼルトは、周囲を警戒しながら、ボク達を護衛してくれていて、とても頼りになる。


「う、うん。ありがとう。心配をかけて、ごめんね」

「いいんだ。元気なら、それで……」

「……」

「……」


 ディゼルトは、何か言いたげにしているけど、それを口にする事はありません。ボクも、自分からあまり積極的に、そういう事に突っ込めるタイプではないので、会話が続きません。嫌な沈黙が訪れて、ディゼルトの耳が垂れ下がって、元気がなくなってしまいます。


「……ディゼルトさん……もしかして、ネモ様と手を繋ぎたいんじゃないですか?」


 腕にくっついているレンさんが、ディゼルトに聞こえないように、ボクの耳元で、そう言ってきました。息が耳にかかって、くすぐったくて、身震いしてしまいます。

 そんな事はないと思うけど……でも、周りを見てみよう。ユウリちゃんは、アルテラさんと。ロガフィさんは、イリスと手を繋いで、ぎゅーちゃんはイリスの頭の上にいる。ディゼルトだけ手を繋ぐ相手がいなくて、寂しそうだ。ボクなら、そんな状況に置かれた、寂しくて泣いてしまうかもしれない。


「ディゼルト!」

「は、はい!?」


 ボクは、いてもたってもいられなくなり、ディゼルトの名前を呼んで、そしてその手を取りました。驚いて、しょんぼりとしていた耳をたたせ、ボクから離れようとするけど、でもボクがしっかりと手を握っているので、離れられません。


「ご、ごめんね、驚かせて。手を、繋ぎたくて……それで、その……繋いで、いい?」

「も、もも、もちろん!むしろ、こちらからお願いしたい!ふ、不束者だが、よろしく頼む!」


 手を繋ぐだけで、大げさな事を言ってくるディゼルトに、ボクは嬉しくて、可愛くて、笑います。

 ディゼルトも、少しはボク達と打ち解けて来てくれて、こんなスキンシップくらいは、言えばしてくれます。ただ、その初々しい反応は、ボク達の誰にもないので、それがたまりません。


「むぅ」


 ディゼルトの反対側のレンさんが、自分の存在を強調するように、更に強く、ボクの腕にしがみついてきます。


「れ、レンさん?」

「ネモ様は、最近ユウリさんのみならず、他の女性とも自然と仲良くするようになっていて、私不安です。できれば、手遅れになる前に、地下室に閉じ込めて、毎日私が身の回りのお世話をしてあげたいのですが……ダメですか?」

「だ、ダメです」


 レンさんは、たまに怖い事を言ってくる。可愛い顔をして、上目遣いでお願いしてきても、ダメな物はダメです。

 レンさんは、ユウリちゃんとは違い、ボクに虐めて欲しいんじゃなくて、ボクを虐めたいタイプなのかもしれない。たまに、ドSっぽい発言をして来て、ボクを困らせます。とはいえ、基本的には純粋で、良い子なんだけどね……もしかしたら、本人に自覚がないのかもしれない。思えば、一連の気持ちの悪い発言と行動も、本人に自覚がないからこそ、成り立っている気がします。


「……」


 ほら、ボクと手を繋いでいるディゼルトが、レンさんの発言を聞いて、怯えてしまっている。でも、安心してください。レンさんが、そういう事をしたいのは、ボクだけだから。他の人には、いたって無害……いや、無害どころか、天使のように優しい人だよ。それは、ボクが保証します。


「お姉さまー!遅いですよー!」

「今、行きますよー!」


 アルテラさんを引っ張り、先に行っていたユウリちゃんが、痺れを切らしてボク達を呼んできます。それにレンさんが答え、レンさんがその足を速めます。ボクも、レンさんに引っ張られて、急ぐ形となりました。

 そうして、足早に通り過ぎた、家の敷地内を示すと思われる、簡易的な木の柵に、表札がぶら下がっていました。そこには、バッハルトと書かれています。それを横目でみつつ、ボク達はユウリちゃんの待つ、お家の方へと急ぎます。


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