不治の病
その後、イリスをお風呂にいれるように頼んでいたレンさん達も、お風呂から上がってきて、朝の支度が終わりました。全員いつもの自分の服に着替え、ルームサービスの朝食も済ませてから、ボク達は宿を出ます。
まだ、村を出る訳ではないので、荷馬車と荷物は置かせておいてもらい、ボク達が向かったのは村のお医者さんの所です。
昨日、馬車から降ろしたディックさんが、そこにいるはずだ。それに、アルテラさんとリツさんにも、会いたい。だから、ボク達はそこへ向かいます。
村の様子は、暗くて全貌が見えなかった昨日と比べると、明るくて活気のある村だという事が分かります。道は、きちんと舗装されていて、石畳が敷かれているし、木の家が多く建ち並んでいて、そこで多くの人々が生活しています。
ただ、あまり大きくはない村なので、そのぶん人が集まりやすく、道には人が溢れ返り、ボクはそれを見て、段々と気持ち悪くなってきました。
「うぷっ」
もっと多くの人が集まる、ディンガランでの生活の中で、ある程度は慣れたとはいえ、こればっかりは治りません。突発的に起こり、ボクを悩ませる不治の病となりつつあります。
「大丈夫ですか、ネモ様?」
そんなボクの異変に気付いたレンさんが、優しくボクの背中をさすってくれます。更に、ディゼルトがボクの手を握ってきてくれて、ユウリちゃんは周囲の人たちを鋭い視線で睨み、人が話しかけてこないように警戒をしています。
道行く人々は、そんなユウリちゃんの迫力のおかげで、ボク達に近づこうともしません。それにより、注目を浴びてしまっているのが気になるけど、でもすぐに立ち去っていくのは、ユウリちゃんの目が怖いからだね。
「何かの、病気か?丁度、病院に行くところだ。それならついでに、診てもらった方がいいだろう」
ある意味では病気だけど、そういう病気ではない。これは、ボクの性格とか、心の問題だからね。心配そうに言ってくれるディゼルトはありがたいけど、でも、その必要はありません。
「へ、平気だよ。ありがとう。もう少しで、つくよね?」
マップで確認済みなので、それは分かっている。でも、気持ち悪くて判断力が低下している今は、人に頼るのが一番です。
「そうだな。宿のおじさんの話によれば、もうすぐ着くはずだ。……そこまで、頑張れるか?」
「う……うん。頑張るね」
「……」
ボクが、ディゼルトに掴まれた手を、気持ち高く掲げてそう答えると、ディゼルトはボクをじっと見て、固まってしまいました。
「かわいい……」
「ふぇ?」
そして、そんな言葉を、呟きました。
ボクは驚いて、そんな褒め言葉に、どう反応したらいいのか、分かりません。ユウリちゃんや、レンさんにならしょっちゅう言われている言葉だけど、ディゼルトのような人にそう言われるのは初めてで、戸惑ってしまいます。
「と、突然すまない!つい、口に出してしまった……」
「ふ。ディゼルトさんも、ネモ様の可愛さに、気づきましたね。でも、ネモ様の魅力は、これに収まりません。これから、覚悟しておいてくださいね。きっと、ディゼルトさんもネモ様の魅力に魅了され、その虜になってしまいますから。ああ、でも、ネモ様がいくら可愛いからといって、襲うのは、ダメですよ?私みたいに、自制して、我慢してください」
「そ、そんな事はしないっ。絶対に……い、いや、しない!絶対にしない!」
「……」
慌てて否定する、ディゼルトの方が、ボクは可愛いと思う。特に、耳や尻尾がせわしなく動くのが、更に良いです。
それよりも、聞き捨てならないのは、レンさんの、私みたいに自制して、という言葉です。これで自制しているのなら、世の中大半の事は、自制している事になってしまう。レンさんの、変態的な行為と言動に、ボクは何度引かされた事か……。襲わなければ、いいという物ではないんだよ。
でも、気持ち悪くて、そんな反論をする気にもなりません。
それに、背中をさすってくれるレンさんが、優しくてとてもいい子だという事も知っているので、それくらいは許容して……あげたいけど、でも、思い返すとそうもいかない所も多々あるので、やっぱりダメです。
「……起きない」
一方で、イリスはロガフィさんに手を繋がれて歩いています。寝ぼけたままで、でも自立して歩いてついてくるから、不思議だよね。
ロガフィさんは、そんなイリスの頬を摘まんで遊んで、楽しそうについてきています。無抵抗なイリス程、可愛い物はないからね。ボクも混ぜて欲しいけど、今はいいかな。
「ぎゅー……」
そんなイリスの頭に乗っている、ぎゅーちゃんの触手がボクに向かって、伸びてきました。触手で頬を撫でて来てくれて、くすぐったいです。
「さ、ネモ様こちらへ。私に掴まっていただいて、けっこうですよ。お好きな所に掴まって、行きましょう」
レンさんがそういって、ボクの前に立ち、両手を広げて来ますその際に、胸をわずかに揺らしたり、足をくねらせてアピールをしてきます。一体、どこに掴まってほしいのだろうか。
「でぃ、ディゼルト。掴まらせてもらって、いい……?」
「あ、ああ。構わない」
ボクがお願いすると、ディゼルトが肩を貸してくれて、ボクはそんなディゼルトに寄りそうにして、歩き出しました。
「ああ、ずるいです!」
レンさんが文句を言ってくるけど、構わずに歩きます。お医者さんの所までは、もうあと少しです。




