茶番だよ
どうやら、なかなか起きないボクを、皆で悪戯していたらしい。でも、ディゼルトはそんな事をする子じゃないので、強制的に参加させられて、ユウリちゃんとレンさんに、何も言えないように口を塞がれていたという訳だ。
「だ、大丈夫?」
「ひぇ、ひぇいき、だ……」
皆が離れても、ベッドに横たわったままのディゼルトは、顔を真っ赤にして、目を回している。ディゼルトは、女の子が好きだと公言しているけど、心は純情だ。こうやって、女の子にくっつかれる事にも耐性がないので、そんなディゼルトにとって、このスキンシップはあまりにも過激すぎた。
いつもの、キリッとした表情のディゼルトは、そこにいません。耳も、だらしなく垂れていて、凄く触りたいです。
「ごめんなさい、お姉さま。お姉さまの寝顔が可愛くて、つい」
ワンピースから、いつもの服に着替えたユウリちゃんが、謝罪をしてきました。ボクの目の前で着替えたユウリちゃんだけど、ボクは目を逸らしてみないようにしたので、見ていません。
ちなみにボクは、脱衣所で着替えました。
着替えて戻ってきたら、ロガフィさんも着替え終わっていたけど、こちらはユウリちゃんが着替えさせてあげたのかな。今は、ロガフィさんの寝癖のついた髪を、ユウリちゃんがといであげている所です。
「つ、つい、じゃないよ。まったく……」
謝られたけど、あんな幸せな悪戯に対して、ボクは怒っている訳ではありません。むしろ、ごちそうさまです。
ただ、呆れているだけです。ユウリちゃんなら……ムード次第なら、そういう事になっても、構わない。というか、何度かこれくらいの事ならしている。その先も、その内する事になるかもしれない。でも、こう言う事は、一対一で、好きな人同士だけでする事であって、大勢の人でする事じゃないよ。
いや、ボクは、好きだけどね……レンさんも、ロガフィさんも、ディゼルトも。勿論、イリスも。ついでに、アンリちゃんと、ぎゅーちゃんも。
好きだからこそ、ちゃんとしたくて、ボクはゲームの中のハーレム主人公を目指すつもりは、ありません。
でも、ユウリちゃんは、ボクが他の女の子と仲良くしても、基本的には文句を言ってこないんだよね。今回もそうだけど、前も同じような事があって、ユウリちゃんはむしろ進んで、ボクと他の女の子をくっつけて、仲良くさせようとしてくる。
……ボクは、ユウリちゃんが嫉妬してくれない事に、いじけてるのかもしれない。
「……ユウリちゃんは、例えばだけど、ボクがロガフィさんと、え、えっちな事をしてたら、どう思うの?」
「ふぇ?」
あまりにも、突拍子のない質問に、ユウリちゃんが手にしていた櫛を、床に落としてしまいました。
「おー」
更には、空中を浮遊していたアンリちゃんが、興味深げな声をあげて、こちらを見守っています。
「い、いや、違くて。忘れて!今のは、なしだよ!」
ボクは、恥ずかしくなって、慌てて今の質問を取り消しました。
ボクは一体、何を口走っているんだろう。ロガフィさんも、自分の名前を出されて、きょとんとしているよ。
「お姉さまと、ロガフィさんが、えっちをしていたら?決まっているじゃないですか。私も、混ぜてもらいます。そして、お姉さまも、ロガフィさんも、私が満足させて、手中に収めてみせますよ。更にお姉さまには、毎日私を嬲って可愛がってもらいます。お好みで、どんなプレイにも対応してみせます。更に更に、レンさんとイリスと、ディゼルトも混ぜましょう。皆、お姉さまの物にして、私が皆を、満足させて可愛がってあげます。そして、私の夢である、百合ハーレムが完成するのです」
「……」
ユウリちゃんに、そんな事を聞いたボクが、バカでした。ユウリちゃんは、ボクだけじゃなくて、皆の事が好きなんだ。ボクとは違い、一人だけ選ぼうなんて、始めから考えていない。ハーレムを目指しているユウリちゃんに対し、根本的に求める物が、間違っていました。
「はぁ……」
ボクは、ため息を吐きます。そんなボクの心情を察してか、アンリちゃんが近寄ってくると、ボクの頭を撫でて、慰めて来てくれました。といっても、幽霊のアンリちゃんに撫でられたって、感触がないけどね。
「でも、当然ですけど……私の中で、一番はお姉さまです。私を好きにできるのはお姉さまだけで、お姉さまだけが、私に対して、どんな事をしてもいい、権利があります。他の女の子を愛することはあるかもしれませんが、それだけは、揺らぐことのない事です。だから、安心してください。私の心だけは、貴女だけの物です」
ユウリちゃんがそういって、正面からボクの手をとって、両手で包み込んできました。その目は真っすぐで、まるで、アニメの中の主人公のように、イキイキとしています。
その時、ボクは思いました。ユウリちゃんって、ハーレムアニメの主人公か何かのようだ。ちょっとカッコイイし、ユウリちゃんの心が、ボクだけの物だというのなら、別に良いのかもしれない……。
「……いや、騙されちゃダメだよネモさん。それって、冷静に考えたら、一人に絞れないから浮気させてねっていう、優柔不断なダメ人間宣言に等しいよ」
「はっ!」
危うく騙されるところだったけど、アンリちゃんがそう言ってくれて、ボクは目が覚めました。一歩間違えたら、ユウリちゃんのハーレム計画を、容認するところだったよ。危なかった……。
「ちっ」
目が覚めたボクに対して、ユウリちゃんは舌打ちをしました。それから、何事もなかったかのように、櫛を拾い、そして再び、ロガフィさんの髪の毛の手入れを始めます。
少し油断したら、すぐにコレです。本当に、ユウリちゃんには油断したらいけないなと、思いました。
「……でも、私がお姉さまを愛している事は、確かです。それだけは、本当ですからね」
ユウリちゃんは、ロガフィさんの髪をとかしながら、そう言ってきました。顔を少しだけ赤くして、笑いながら言ってくれたそんなユウリちゃんが、ボクも大好きです。
「えへへ」
「えへへ」
そして、2人で笑い合います。
「茶番だよ。まったくもって、茶番だよ」
アンリちゃんは、そう言い残して、姿を消しました。また、近くのお墓に遊びにいったのかな。知り合いができたと言っていたから、可能性はある。
ちなみに、知り合いとは、生きている人じゃなくて、死んでいる人の事です。




