残念です
身なりを整えたボク達は、家を出た。
目指すのは、ギルド、キャロットファミリー。ラメダさんに紹介してもらった、ギルドだ。
冒険者になるのはボクだけでもいいんだけど、イリス曰く、ボクから離れると勇者の加護から離れる事になり、2人の身が危うくなる可能性があるみたい。なんでも、この世界に転移もしくは転生した人は、そういう風な目にあう、運命に置かれてしまうとか。それから守るためにも、ボクの力が必要なのだ。
と言う訳で、これからはなるべく、いつでも3人一緒に行動するようにしようと言う事になった。それに、反対はない。いつでも3人一緒にいれば、頼もしい限りだ。2人共、ボクなんかよりよっぽどしっかりしてるしね。
「号外だ、号外だ!ヘイベスト旅団が、潰された!」
大通りに出たところで、目の前を、紙をばら撒いて走り去っていくお兄さんがいた。バラ撒かれた紙を、空中でキャッチして見てみると、そこに書いてあったのは、文字と、絵の新聞。見出しは、ヘイベスト旅団、壊滅。そして描かれている絵は、昨日ボクの拳が掠って、ハゲ散らかした頭の、レイさんだ。
「ぶふっ」
その絵には、悪意を感じざるを得ない。ボクは思わず、笑ってしまった。周囲を見ると、同じように噴き出す人がいる。
「ぷっ。え、マジで、あのレイ・ヘイベストがこんなになっちまったの?」
「いい気味よ。これまで好き勝手やってきたんだから」
「でもこれ、嘘だったら、ヤバイんじゃないか?」
「どうやら、本当らしいぜ。昨日、ヘイベスト旅団の近くに住んでる知り合いが、言ってた」
周囲はあっという間に、新聞の話題で持ちきりで、騒がしくなってくる。記事の内容の事件を引き起こした張本人として、注目を浴びないかと冷や冷やするけど、そうはならないみたい。記事には、ボクの事は一切書かれていない。やったのは、ラスタナ教会という事になっている。
ボクはそれを見て、安心した。
「ちっ。あの、眼鏡の優男の仕業ですね」
一方で、イリスはそれが気に入らないようで、自分で拾った新聞に、忌々しげに目を通している。
ちなみに、イリスは出かけるときになって、ようやく目が覚めてきた。寝ぼけていた時の記憶は曖昧のようで、ユウリちゃんにトイレに連れられていった事は、覚えていないみたい。
知ったら、怒るだろうな。
「お姉さまの昨日の活躍が書かれていないとは、どういう事ですか?コレを書いた記者、消しましょう」
ユウリちゃんも、イリスが読んでいる新聞に横から目を通して、忌々しげにそう言った。
「ぼ、ボクは目立たないで済むから、凄く助かったと思ってるよ」
「……それもそうですね。面倒ごとは、ごめんですから。良かったですね、記者さん。消されなくて」
ユウリちゃんはそう言って、イリスの手から新聞を取りあげて、丸めて放り投げて捨てた。そのゴミの行く先は、カゴで出来た、ゴミ箱。見事にそこに入り、ボクは小さく拍手を送った。
「ありがとうございます、お姉さま。さ、早く行きましょう」
そういいながら、ボクが持っていた記事も放り投げて、ゴミ箱に捨てるユウリちゃん。歩き出しながら、さも当たり前のようにやってのけたその姿は、ちょっとカッコイイ。
その後、歩くこと数十分。ボク達は、目的のキャロットファミリーについた。
その建物は、木造のお洒落な建物だった。半円状の形をした入り口は、柱がたくさん支えあっていて、頑丈そう。奥のほうも、半円のまま続いているようで、窓の数を見るに、2階建て。ヘイベスト旅団のように、大勢の人が出入りをしているけど、あちらよりは男の人の比率が少ない。その上、筋肉マッチョな人より、優しそうな人が目立つ気がする。
なんというか、今思えばヘイベスト旅団は、世紀末な感じだったな。
「素敵な建物ですね」
「う、うん。そうだね」
ボクは、緊張のあまり、声を裏返してユウリちゃんに答えた。
「大丈夫ですよ。私が、ついています」
ユウリちゃんは、そんなボクの手を握って、笑顔を見せてくれた。
ボクは、それに応えるように、フードを深く被って、深呼吸。気持ちを落ち着かせてから、ユウリちゃんに引っ張られて建物の中へと入る。
建物の中は、やっぱり大勢の人がいた。入ってすぐの広い部屋は、食べ物屋さんのようで、イスと机がたくさん並べられて、ウェイトレスさんが忙しそうに注文を取って回っている。あと、凄く良い匂いで充満している。お腹減ったな。でも、ここで食べる気には、とてもじゃないけどなれないよ。
「ネモ。私、お腹がすきました」
「ダメですよ、イリス。まずは、冒険者になる手続きをしないと」
「はいはい。それじゃあ、さっさと済ませましょう。たぶん、あっちですね」
こんな状況でも、堂々と歩いていくイリスが凄い。ボクとユウリちゃんは、そんなイリスに付いて、広場の隅にある、大きな階段を上って2階へと上がった。
イリスの勘は、当たっていた。そこには受付のカウンターが並んでいて、冒険者関連の受付みたい。
「いらっしゃいませー」
受付の女の人は、皆美人さんだ。全員青と白を基調とした、スカートの制服を身に纏っている。頭の上には、ちょこんと帽子が乗せられていて、帽子の色はそれぞれで違うのは、何か意味があるのかな。
「あらぁ。可愛いお客さん。本日は、どうしましたか?」
「冒険者になりにきました。手続きを、お願いします」
先頭に立つイリスが、ボクとユウリちゃんの代わりに、そう言った。
イリスが話しかけた受付の人は、茶髪のお姉さんだ。髪の毛は、後ろでお団子にしていて、下ろしたらけっこう長そう。胸元の名札には、イオと書かれている。
「うーん。冒険者かぁ。ちょーっと、お嬢ちゃんにはまだ、早いかな?」
「ああん?」
イリスが、睨んで返すけど、仕方ないよ。今のイリスは、幼女だもの。そういう反応をされて、当然だ。
ボクは、イリスが暴走する前にその口を塞いで、ユウリちゃんが代わりに口を開く。
「冒険者になりたいのは、このネモお姉さまで、私達もできれば一緒に冒険者になりたいんです。冒険者には、何か年齢制限のような物はあるんでしょうか」
「そうなんですね……でも、うーん……年齢制限はないんですけど……当ギルドでは、ただいま新規の冒険者の募集を、中止していまして。申し訳ございません」
お姉さんは、本当に申し訳なさそうに、そう言った。
こうして、ボクは冒険者への道を絶たれました。残念です。