染み込んでいるはず
誤字報告ありがとうございます!
取り出したお肉は、随分前にとったお肉だけど、腐る事もなく、新鮮さを保っています。
アイテムストレージにいれた物は、現状維持になるので、腐る事はない。ゲームと同じだね。便利な物です。
「……じゅる」
「食べちゃ、ダメだからね」
そんなお肉を見て、イリスが涎を垂らすけど、さすがに生で食べたらお腹を壊しちゃうよ。さすがのイリスも、生肉にかぶりつくなんて事はしないだろうけど、一応釘をさしておきました。
「あ、あの……このお肉を使って、調理してもらう事は、できますか?」
「……な……こんな物、ど、どこから」
ゆっくりと振り返った店主さんが、お肉を見て驚いています。
まるで、とれたてのお肉は、脂がしたたり、ピカピカです。
「そんなのいいから、作ってくれるのか、作ってくれないのかを、聞かせてください。その返答次第じゃ、私はこのお店を出ていきます」
「……肉の代金は」
「た、タダで、構いません。全部あげるので、余ったのは好きに使ってください」
お肉は、軽く数十人分くらいはあると思う。とてもじゃないけど、ボク達だけで食べきれる量ではないので、残った分はあげる事にした。
「……ふむ」
すると、店主さんはお肉を持ち上げて触り、その感触を確かめます。それから、匂いを確かめてからまな板の上に置き、そして包丁をいれました。お肉は、いとも簡単に切れていき、剥がれ落ちます。更に、その剥がれたお肉を、うすーく切ると、店主さんはそれを、自分の口の中へと運び入れました。
「っ!?」
「あー!」
いきなりの、お肉の生食に、ボクは驚きました。イリスは、自分よりも先に口にした店主さんに向かい、抗議の声をあげています。
だけど、生だから別に、羨ましくもなんともない。むしろ、血まみれで真っ赤のお肉を口に運ぶ店主さんに、気持ち悪さすら感じます。
「シニスターウルフの肉か。それも、相当上等な肉だ。群れのボスか?だとすると、相当な高値で取引される物だぞ。本当に貰っていいのか」
店主さんは、差し出したお肉を前にして、上機嫌になったように見える。むしろ、ちょっと興奮気味かも?見て、食べただけで、それがなんのお肉か分かるくらい、目の利く店主さんが、興奮するくらいだ。よっぽど、このお肉は高級な物のようです。とっておいて、良かった。
「は、はい。だから、その代わり……」
「わーったよ。ちょっと待ってな。最高の、肉と野菜の料理を作ってやる」
「いえ、野菜はいりません。お肉だけで──」
ボクは、余計な事を言おうとするイリスの頭を、片手で掴んで押さえました。
お肉だけなんて、そんな事は許しません。野菜もちゃんと食べないと、お肉は食べさせないよ。
「と、いう訳で、いいよね、皆」
「もちろんだ。そんなに美味そうな肉は、滅多にお目にかかれない。文句なし。是非ともいただきたい」
ディゼルトは、まるでイリスのように、お肉に目を輝かせています。尻尾を振って、喜びが爆発いった感じです。
一方で、ユウリちゃんとロガフィさんは、納得いかない様子だ。よく考えたら、この2人はお肉がどうのじゃなくて、そもそも求めてる物が違うんだった。
男の人が作る料理が嫌なユウリちゃんと、ラーメンを求める、ロガフィさん……どうしようもない。
「……仕方ないですね。私は、お姉さまの涎トッピングで、手を打ちます」
「いいですね、それ!私も、それお願いします」
全く、良くないよ。ボクの涎トッピングって、何さ。気持ち悪いと言うか、汚いよ。でも、ユウリちゃんの涎なら……いやいや、ボクは何を考えているんだろう。そんなのが良いなんて、ユウリちゃんやレンさんと同じ、変態みたいじゃないか。
「そんなの、あげません!」
「じゃ、じゃあ、私は一体、どうすれば……」
「……こう考えたら、どうですか。そのお肉、ずっとネモが持っていたんですよね。だったら、ネモの体内で保存され、ネモの味や匂いが染み込んでいるはずです」
「いただきます」
イリスのおかげで、ユウリちゃんは食べる気満々になりました。
でも、アイテムストレージが、イコール、ボクの体内みたいな言い方は、やめてもらいたい。こんなお肉が、ボクの体内に入ってるとか、想像もしたくないよ。そもそも、絶対に体内とかじゃないからね。
「……ネモの味。美味しい、から、食べる」
ロガフィさんも、何故かそんなユウリちゃんと同じで、食べる気になってくれたようです。
でも、ボクの味が美味しい?先ほど、指を舐められたのは確かだけど、本当に美味しかったのだろうか……。ボクは、ロガフィさんに舐められた自分の指を見て、舐めたくなる衝動を振り払います。
「あ、ありがとう、イリス。助かったよ」
「勘違いしないでください。あの、美味しそうなお肉のためですから」
イリスの目は、もうお肉に釘付けです。一体、どれだけ食べたかったんだろう。なんやかんやで、しょっちゅうお肉を食べてるはずなのに、本当に毎日食べないと収まらない勢いだ。




