表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
268/492

汚されてしまいます


「……」


 たくさんの野菜を前にして、イリスは気絶してしまいそうです。そんなに、ショックな事かな。野菜も、凄く美味しいよ。


「わー、美味しそうな野菜ですね」

「……こいつらは、家の庭で育ててる野菜だ。新鮮で、味には自信がある。肉はないが……野菜のステーキなら作れるが、どうするね」


 店主さんは、自慢げにそう言いました。これだけの美味しそうな野菜を育てて、それを使って食べ物やさんを開いているとか、ボクは凄い事だと思う。


「いいですね!私、それをお願いします!」


 野菜に食いついたのは、レンさんです。色とりどりの野菜を目の前にして、目を輝かせています。ボクも、それを食べてみたいと思います。

 でも、レンさん以外が、あまりいい顔をしません。


「貴方が作るんですか……?」

「ラーメン」

「イリスさんではないが、私も肉を所望する。亜人種は基本的に、肉食なのだ」


 ユウリちゃんは、男の人が料理を作るのが、気に入らないようだ。ロガフィさんは、自分の家を思い出して、ラーメンが食べたくなってしまったのかな。ディゼルトは、亜人種だから、亜人種ってそういう物なのだろうか。家では、なんでも美味しそうに食べていた気がするんだけど。

 でも、どちらにしろ、皆食べ物に対して少し、我儘すぎませんか。

 あと、それじゃあどうして、このお店を選んだのかと言う話になる。自分たちで見つけて、選んだお店だよね、ここ。だったら、どういう料理を出すお店なのか、あと、どういう人が料理をするお店なのかも、分かっていたはずだ。それを、料理を注文する時になって文句を言い出すとか、それはもうクレーマーだよ。


「あんたら、随分と好き勝手言ってくれるなぁ?」


 店主さんが、そんなボク達の我儘発言に、みるみるうちに不機嫌になっていきます。最初から、不愛想だったその顔が、怒りに染まっていくのは凄く怖いです。


「え、えと……み、皆、我儘言っちゃ、ダメだよ。レンさんみたいに、好き嫌いせずに、野菜を食べよう?」

「お姉さまが、口移しで食べさせてくれるのなら、考えます。一回お姉さまを通さなければ、男の汚れた物が私の体内に入り、私、汚されてしまいますから」

「く、口うつ……!」


 ユウリちゃんの発言に、反応したのはディゼルトだ。口移しと聞いて、一瞬にして顔を赤く染めてしまう。


「し、しないよ」


 ユウリちゃんとの初めては、もっとムードのある時にしたい。だから、こんな所で、こんなノリの中ではしません。

 そもそも、人の前でするような事ではない。ユウリちゃんも、たぶん冗談で言っている事なので、ボクはお断りです。


「ちぇ。それじゃあ、ディゼルトさんにお願いします」

「わ、私!?」

「はい。ディゼルトさんのお口の中で、ディゼルトさんの唾液まみれになったそれを、私のこの口の中にいれて、蹂躙してください……ろうれすか?」

「っ……!」


 ユウリちゃんは、開いた口をディゼルトに見せて、舌を出して尋ねます。舌をうねらせて、赤く染めた顔を見せるユウリちゃんは、可憐な少女に似合わない、とても妖艶な空気をただよわせています。

 ディゼルトはそれを見て、頭から湯気が噴き出しそうな勢いで、顔を更に赤く染めてしまいました。

 ボクも、最初は今のディゼルトのように、ユウリちゃんの発言の一つ一つに反応して、すぐに顔を真っ赤に染めてたっけ。ちょっと前のボクなら、そんなユウリちゃんの発言に、今のディゼルトのように顔を赤く染めていたと思う。でも、今のボクは違います。


「ユウリちゃーん?」


 今のボクは、恥ずかしさよりも先に、暴走するユウリちゃんを止めなければいけないという、使命感が出て来ます。そりゃあ、ユウリちゃんのそういう、ちょっとえっちな発言と行動には、凄く興奮するよ?もう、たまりません。でも、彼女を止められるのは、ボクだけなんです。止めなければ、ユウリちゃんは他の人と、えっちな事をしてしまうんです。だから、止めるんです。


「あ、あはは。冗談ですよー」


 ボクが睨むと、ユウリちゃんはそう言って誤魔化しました。


「あんたら、悪いけど出て行ってくれないか?うちには、肉なんてありやしねぇ」


 我儘なボク達のせいで、店主さんは怒って、ボク達を追い出そうとしてきます。


「そうしましょう、ネモ。あっちのバカ騒ぎしてる方に、行くんです!」

「えー……」


 それは、嫌だ。だったらボクは、ここで食べたいです。お肉なんて、どうでもいいし。


「おー、いけいけ。いっちまえ」

「ネモ!」


 ボクの手を引っ張ってくるイリスだけど、ボクは行きたくないんだよ。イリスも、ボクがあんな所に行きたくないと思っているのは、分かっているはずだ。だから、珍しく、そんなに甘えるような目で見てこないで。


「……あ、そうだ」


 だったらと思い、ボクはアイテムストレージからとある物を取り出して、それをカウンターの上に置きました。店主さんは、これにはまだ気づいていません。いじけて、後ろ向いちゃったからね。だから、取り出したところは見られずに済みました。

 ボクがそこに置いたのは、随分前に森の中でとった、白い狼……シニスターウルフのお肉です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ