今、なんて?
ユウリちゃんの案内で、夜道を歩いて辿り着いたレストランは、大勢の人で賑わっていました。仕事終わりのおじさん達のたまり場と化したそのお店は、凄く盛り上がっていて、騒ぐ声が外まで響いています。
正直、ここに入るのは嫌だなぁ。さすがに、五月蠅すぎるから。
それに、ボクが頭に乗せている、小さなぎゅーちゃんの事もある。この村に訪れた時にみたいに、魔物が来たと騒ぎになってしまう恐れもあるので、それは避けたいです。
酔っ払いたちのたまり場と化したその場では、騒ぎになる可能性が格段にあがると思います。その点、キャロットファミリー1階のレストランは、これに比べたらお上品だった。それくらい、今目の前にあるレストランは、五月蠅いです。外には酔っ払いがはびこっているし、お店の中からは瓶が時折投げ捨てられて、道に転がってきます。ちなみに窓ガラスは割れたままで、放置です。
治安、悪すぎませんか。
「ゆ、ユウリちゃん。ここは、ちょっと……」
さすがに、こんな所に入っていたら、酔っ払いに絡まれるのが、目に見えています。ボク達は、そういう運命上にいるのを、ユウリちゃんは忘れちゃってるのかな?
「あ。ネモ!遅いですよ!」
暗くてよく見えなかったけど、小さな影がボクに駆け寄ってきて、目の前で止まりました。それは、頬を膨膨らませて、ちょっと不機嫌そうにしている、イリスでした。
「お腹減りすぎて、私死んじゃいますよ!?殺す気ですか!?お肉。お肉!お肉ー!」
「ひゃ!?」
ボクのスカートを、イリスが引っ張って来ます。パンツが見えてしまいそうになるけど、両手はユウリちゃんとロガフィさんと手を繋いでいる事により、抵抗できません。
というかむしろ、ユウリちゃんはわざとボクの手を押さえて、めくれたスカートを凝視して覗こうとしています。
「……」
イリスについて、暗闇から姿を見せたディゼルトも、顔を赤くしながら、手で顔を覆い、でも隙間からボクのスカートを凝視しています。レンさんがいたら、レンさんも見てくるね。
「わ、分かったから!ついてくから、引っ張らないで!」
「じゃあ、早く!」
ボクは、イリスに引っ張られるまま、イリスに連れていかれます。
予想外だったのは、イリスは、酔っ払いで騒がしいレストランではなく、その3軒隣の建物の前で止まりました。ちょっと古くて、人の気配がないけど、でもお店の前には看板がたっていて、確かにここも、食べ物やさんのようです。
「あ、ネモ様!」
お店の中には、レンさんがいました。カウンター席に座り、ボク達を出迎えてくれます。
「み、見つけたお店って、ここ?」
「はい。他にお客さんはいないですし、お話を聞けば、寂れていてお客さんもあまり来ないようで、他のお店と比べるととても静かなお店なんです。多少汚くて、店主さんは愛想のない方ですけど、ここならネモ様も平気だと思うんです。……どうでしょうか?」
「う、うん。凄く、良いお店だね!」
「……」
ボクは笑顔でレンさんに答えるけど、カウンターの中に立っている、店主さんかな。おじさんが、静かに片目を開いて、ボクを睨みつけて来てきます。
シワだらけで、目をか細く開いた、でも、眼光の鋭いおじさんです。その鋭さは、ディゼルトにも勝っていて、そして年の分だけ、貫禄があります。
レンさんの、愛想のない店主さんって、この人の事だよね。他に、人いないし。睨まれたのは、もしかして、悪口っぽく聞こえて、怒ってしまったのかもしれない。
「話は、後で良いです!私はもう、お腹が減って死にそうなんです!ご飯にしましょう!ほら、席につきなさい!」
いつになく、張り切るイリスに押し切られて、ボク達はカウンター席に一列に座りました。ぎゅーちゃんは、頭から降ろして膝の上に置いておきます。
店内は、カウンター席しかなくて、席もあと3つしかありません。後ろが凄く狭くて、席に座ってしまったら、後ろは人が1人通るだけで精いっぱいの余裕しかない。
作りとしては、ジェノスさんのラーメン屋と、同じような感じだね。あっちの方が、まだ少し広いけど。
「……落ち着く」
そんなジェノスさんのお店で、ウェイトレスとして働いていたロガフィさんは、席に座り、そう呟きました。似ているから、そう感じるんだね。
それにしても、席順がいつもと違くて、ボクは少し違和感を感じます。イリスに急かされたせいで、適当になって座っているボクの隣には、イリスがいます。ボクは端っこに座っているので、反対側は壁です。いつもは、ユウリちゃんが絶対に隣をキープしてくるんだけど、なんだか新鮮です。
そのユウリちゃんは、レンさんとディゼルトに挟まれていて、ボクの方を甘えるような視線を送って見てくるけど、でもさりげなくディゼルトと手を繋いだりして、割と楽しそうにしています。ディゼルトは、顔を真っ赤に染め、凄く初々しい反応を見せていて、可愛い。でも、ユウリちゃんの毒牙にだけはかけないよう、気を付けないと。
「ご注文は?」
「お肉!」
カウンターにいる店主さんが、静かに呟きました。それに対して、すぐさま返事をしたのは、イリスです。もう、目までお肉になってしまって、お肉しか眼中にない幼女は、たぶんお肉を食べるまで止まらないと思います。
「肉は、ない」
「……へ?今、なんて?」
「肉はねぇよ。今日は、仕入れがなかったからな。出せるのは、野菜炒めくらいだ」
そう言って、店主さんがボク達に見せてくれたのは、色とりどりの野菜です。ボクとしては、全然コレでいい。むしろ、旅の中では贅沢なくらい、贅沢な食材です。
でも、イリスはそれを見て、固まってしまいました。ショックのあまり、気絶してしまったのかもしれません。




