味
目的地の村に辿り着いたのは、それからすぐ後の事でした。
村に辿り着いて最初に、ぎゅーちゃんを見て、魔物の襲撃だとパニックなった村の人々だけど、聖女様からもらった旅人の証明書や、レンさんのお父さんがくれた名刺等のおかげで、どうにかパニックを回避する事に成功しました。そこから、親切な案内の人に、お医者さんと宿へと案内されて、ディックさんはお医者さんに任せ、ボク達は宿へとやってきて、旅の初日は終了です。
初日からこういうのもなんだけど、凄く疲れました。1人の時は、1日でもっと長い距離を移動して、たくさんの魔物を倒して回ったものだけど、今思えば凄い体力だったな。ボクももう、あの時のような若い体じゃないんだなと、しみじみ思います。
「はぁ……」
「ぎゅー?」
借りた宿の窓辺で、外を眺めているボクの頭の上には、小さなぎゅーちゃんがいます。ボクが疲れてため息を吐いたら、頭の上から触手が伸びてきて、心配してボクの頬を撫でてくれました。
「あはは。平気だよ」
ボクは、安心させるように触手に手をあてて、そう答えます。
さて。ボク達が借りた宿は、村で1番良い宿だと言う、宿です。確かに、凄く広いし、ベッドは大きく、床も壁も、ボクの家とは大違いで、凄くキレイで傷一つありません。けど、別にスイートホテルとか、そういう感じではない。あくまで、この村で1番上等なだけであって、世間一般的にみれば、まだまだです。
……と、偉そうな事を言ってみたけど、ボクは外泊とか初めてで、よく分かりません。知識としては、少しはあるけれど、初めての経験です。旅と言ったら、雨の日も風の日も、野宿で済ませて来たボクだからね。正直言って、旅というより、旅行みたいな感覚に陥ります。
というか、よく考えたらこんなのんびりとした旅で、ジェノスさんに追いつけるのか、疑問に思えてきました。ただでさえ、ジェノスさんより1日遅れてディンガランを出ているのに、加えてこの緩さでは、追いつけないんじゃないかな……。
「……ネモ」
そんなボクの心配を知ってか知らずか、ロガフィさんが、静かにボクの方へ歩み寄ってきて、ボクの目の前に立ちました。
「ろ、ロガフィさん?どうしたの?」
「手を、出して」
「手?はい」
ロガフィさんに言われるままに、差し出した手を、ロガフィさんは受け取りました。そして、ボクの足元に跪くと、そんなボクの手をまじまじと見つめて、その次の瞬間に、ボクの人差し指を、ロガフィさんが口の中にいれてしまいました。
突然の事に、ボクは呆然とします。でも、ロガフィさんはお構いなしです。神経がたくさん通っている指先を、ロガフィさんの口の中の暖かな温度と、涎のねばねばと、そしてまとわりつくように、縦横無尽に指を嘗め回してくる舌の感覚が襲い掛かってくるのを感じます。ボクは、しばしそんな感覚に酔いしれてしまいます。だって、なんだか凄く心地良いんです。
「ん、あっ……ろ、ロガフィさん!?」
「あむ……」
「ひぅ!」
ボクが我に返っても、ロガフィさんはボクの指をしゃぶり、舌で嘗め回してきます。その感触が、なんだか凄くて、自然に声がもれてしまいました。
「んっ……!んぅ……!」
声が出ないように我慢しつつ、ボクはただ耐えます。ロガフィさんは、そんな必死に我慢するボクの様子を見て、ようやく指を解放してくれました。
「ぷはっ」
解放されたボクの人差し指は、ロガフィさんの唾液でぬるぬるてかてかです。ロガフィさんが口を開き、舌と指との間で糸を引いていたのが、凄く卑猥な光景でした。
「な、な、何を……?」
「味を、確かめた」
「あ、味……あ」
そこで思いついたのは、馬車の中でのユウリちゃんとレンさんの発言だ。アルテラさんの手を、美味しそうだと言って舐めたがっていたユウリちゃんと、ボクの手を舐めたいと言っていたレンさん。その影響を受けてしまい、ロガフィさんは、味を確かめてきたのだ。
「ゆ、指なんて舐めても、美味しくないよ!いい?ユウリちゃんと、レンさんの言う事を真にうけたら、ダメ。こ、これからは、こういう事をする前に、してもいい事をなのかを、ちゃんと聞いて」
下手をしたら、ユウリちゃんやレンさんの言葉を真に受けて、興味本位で襲われてしまうかもしれない。……性的な意味で。ここは、そうならないように、少し強めに言い含めるように言いました。
「……分かった。謝る」
「あ……」
すると、ロガフィさんは、目に見えて肩を落とし、元気をなしくしてしまいました。無表情だけど、その顔は少し悲しそう。
ボクは別に、怒っている訳ではない。ロガフィさんに指を舐められて、汚いけど心地よかったし、何故か嬉しくも感じました。だけど、それを口にするのは恥ずかしいし、それに上手く伝わる気がしません。
だから、それを言う代わりに、ボクはそっと、ロガフィさんの頭を撫でました。
「ん」
ロガフィさんは、最初はビクリと身体を震わせて驚いたようだけど、ボクの手を受け止めて、じっとします。目を細めて、甘えるように頭を預けてくる仕草が、可愛いです。あまりにも気持ちよさそうにしているので、しばらくそうしてあげていると、自然とボクの膝の上に、ロガフィさんが上半身を預けて寝そべってきました。
「お姉さま!」
そんなタイミングで部屋に戻って来て、扉を開いたユウリちゃんの目に映ったのは、ボクの膝に甘えるように頬ずりをする、ロガフィさんです。




