あと5分
次の日、若干の窮屈さと眩しさを感じて、目が覚めた。まず、目に入ったのは天窓から覗く、青空と白い雲。今日も良い天気のようで、気持ちの良い朝を迎えることができました。
「ん……」
小さな寝息が、左から聞こえてくる。目を向けると、そこにはボクの左腕に抱きついて眠っている、イリスがいる。ボクの左腕全体は、イリスに支配されていた。二の腕はしっかりと、その細い腕にからめとられ、手先はイリスの太ももに挟まれて、その胸やお尻とはまた違った感覚を楽しませてくれている。
「すー……」
イリスは、規則正しく息をしていて、完全に眠っているみたい。頬は若干赤みかかっていて、金髪のサラサラの髪が、口にかかっている。その寝顔は起きているときのイリスよりも、数倍可愛く感じる。喋らなきゃ、可愛いのに、もったいない。
でも、ちょっと腕が痺れてきた。ここは心を鬼にして、手を動かさせてもらう事にする。
「んっ……うぅ」
でも、それは逆効果だった。ボクの手を逃さんとばかりに、イリスの太ももの圧力が強くなり、ボクの左手は完全に身動きできなくなってしまう。しかもその際、イリスの身体の色んな所が擦れて、ボクの腕になんともいえない、心地の良い感触を楽しませてくれるので、ボクの理性は崩壊寸前。
ボクはとりあえず、息を呑んで、気持ちを落ち着かせる事にした。
そこでふと気が付いたけど、ボクの右腕も、同じような感触にある。でも、こちらは左手とは、また違う感触。ちょっとだけ力を入れて握ってみると、小さくも柔らかな感触が返って来た。
「んっ……」
見てみると、ボクの右手は、こちらを向いて眠っているユウリちゃんの胸に、挟まれていた。こちらもガッチリと掴まれていて、逃げ道がありません。し、しかも、ユウリちゃんの寝顔が、破壊的に可愛い。長いまつげに、健やかな寝顔。柔らかそうな唇から漏れる、小さな息がたまらない。
カメラがあったら、迷わず撮影しているよ。しかも、連射モードで。
「はむ」
「ひゃ!?」
突然、ユウリちゃんが、ボクの人差し指を口にくわえて来た。そして、ユウリちゃんの舌が、縦横無尽にボクの指を嘗め回して来る。ユウリちゃんの、柔らかくて熱い舌を、ボクは指先で感じている。
「んっ……ちゅ、ちゅぱ……れろ……」
「……ユウリちゃん、起きてるでしょ」
「んふ」
ボクの指摘に、動きの止まったユウリちゃんが、目を開いて笑いかけてきた。
さすがに、動きがわざとらしすぎるよ、ユウリちゃん。すると、ユウリちゃんが口を開いて、ボクの指を解放してくれた。引き抜いた指先と、ユウリちゃんの舌との間で、涎の糸をひいてしまったのが、またえっちです。
「ばれてましたか。でも、お姉さまの指、美味しかったです。ごちそうさまでした」
「うぅ……ばっちぃよ……」
ボクの指は、ユウリちゃんの涎でべとべと。汚いので、未だに眠っているイリスの服で、拭き取った。
「お姉さまが、私の涎を汚物扱い……しかも、それを隣で眠っているエルフ幼女の服で拭き取るとか、鬼畜です。鬼畜で、そんな所に興奮します」
ユウリちゃんは、朝から絶好調です。
「おはよう、ユウリちゃん」
「おはようございます、お姉さま」
ユウリちゃんと挨拶を交わすと、ユウリちゃんは起き上がり、身体を伸ばした。その際に、ワンピースの肩紐がずれおちて、とても色っぽくて見惚れてしまう。
「ん。イリス、よく眠っていますね。黙っていれば、可愛いのに、残念です」
ボクの腕に抱きついて眠っているイリスの頬を、ユウリちゃんが突っつきながら言った。いいな、ボクもやる。という事で、ボクもつんつん。程よく指を跳ね返してきて、気持ち良い。
にしても、起きる気配がない。ボクとユウリちゃんとで、両頬を攻めているのに、全くだ。心地よさそうな寝息が乱れる事もないので、ボクはもっと大胆に、イリスの頬を触る。軽くつねったりしてみるけど、それでも起きない。ユウリちゃんと協力して、頬を上に伸ばしたり、下に伸ばしたり。鼻を上向きにしてみたり、唇をタコのようにさせてみたり。更には尖った耳を触ってみたり。それでも反応は薄い。ちょっと、心配になってきた。
もしかして、死んでいるんじゃないの?
「い、イリス、朝だよ、起きて」
「んー……あと、5分……」
イリスの身体を揺さぶりながら言ったけど、返ってきたのはそんな、おなじみの台詞だった。とりあえず、生きている事に安堵するけど、ボクの腕に抱きついたまま、起きようとはしてくれない。腕、動かしたいんだけどな……。
「イリス。お姉さまが困っているので、起きてください」
ユウリちゃんがそう言いながらイリスの身体をゆすると、イリスは渋々といった様子でボクの腕から手を離した。そして、上半身を起こすと、目を擦って、大きなあくびをする。まだ、完全には起きていないようで、文字通りの寝ぼけ眼で、ふらふらとしながら立ち上がった。
「どこ行くの?」
「トイレ……」
そう言いながら、何故だかイスに座ると、昨日寝る前に読んでいた本を開いて、本を読み始めた。と言っても、読んでいるのかは怪しい。首はこくこくと動いていて、目は本を見ていないから。
「寝ぼけたイリス、可愛い……!ほら、しっかりしてください。私がトイレに連れて行ってあげますから。ちゃんと、一人でできますか?え?できない?仕方ないですね。それじゃあ、最初から最後まで、見ていてあげますね」
イリスを連れて行くユウリちゃんは、まるで幼女を誘拐する変質者のように見えました。
ボクは、痺れた腕を伸ばしながら、そんな二人を見送った。
その後、ようやく目が覚めてきたイリスと、ユウリちゃんとボクとで、リビングで食卓を囲む。朝食は、今日もユウリちゃんが作ってくれた。ボクもちょっと手伝ったけど。
「ネモお姉さま。今日は、どうしますか?」
「うーん……」
パンを口に含みながら、考える。
「今日は、ギルドに行ってみよう、かな」
ボクの今の第一目標は、借金の返済だ。そのためにも、ラメダさんが紹介してくれたギルドに行って、冒険者となり、お金を稼ぐ必要がある。当面の生活費は、ウルティマイト鉱石を売ったお金があるので大丈夫だけど、借金の事を考えると、やっぱり働かないといけないよね。
「うっ」
考えるだけで、たった今胃の中に落としたばかりのパンが、飛び出して来そうになってしまった。
「だ、大丈夫ですか、お姉さま」
隣に座るユウリちゃんが、背中をさすってくれる。
「だ、大丈夫だよ。頑張るっ」
「……」
「あ、あぁ!イリス、こぼれてます!飲めてません!」
目が覚めてきたと言っても、イリスは未だに眠たそう。寝ぼけたイリスは、コップにいれた水を、口ではなく額に運び、自分の身を濡らしている。
それを、ユウリちゃんが慌てて止めさせた。こうやって眺めると、手のかかる子供の面倒見ている、お母さんみたいだなぁ。
こんな風景の中に、ボクもいるんだ。なんか、信じられない。……頑張らないと。




