禁止
「ディゼルト、今すぐこの人たちを解放してあげて!」
「ディゼルトさん、今すぐにですよ!」
ボクとユウリちゃんの指示に、ディゼルトは慌てて、盗賊達を縛っている縄を、ナイフで切りました。でも、自由になった盗賊たちは、きょとんとしていて、その場に留まって逃げてくれません。
「ぎゅーちゃん、この人たちを追い出して!」
「ぎゅー!」
そこで、ぎゅーちゃんにお願いをすると、ぎゅーちゃんは張り切って、触手で盗賊たちに襲い掛かりました。ぎゅーちゃんに襲われて、逃げていく盗賊たち。そんな様子を、ロガフィさんはボーっと眺めていました。
とりあえずは、ロガフィさんが、好奇心に襲われておかしな事を言い出す前に、彼らを追い出せてよかったです。
「……イリス?」
「ひっ」
一呼吸ついたユウリちゃんは、イリスを睨みつけました。ロガフィさんに、変な事を吹き込もうとしたイリスは、怒られて当然です。ボクも、イリスのあの発言は、許容できません。
ユウリちゃんは、そんなイリスの正面からにじり寄ると、イリスの鼻を摘まみ上げました。ボクは、背後からイリスの柔らかい両頬を摘まみ上げて、痛みを与えます。正面と背後から、イリスは襲われて、苦悶の悲鳴を上げます。
「いははははは!ひゃ、ひゃめなひゃいー!」」
そう訴えてくるイリスだけど、簡単にはやめてあげられません。ボクは、柔らかくお餅のような感触のイリスの頬を、容赦なくつねって伸ばします。伸縮自在で、本当に気持ちのいい頬だ。本来の目的を忘れてしまいそうなくらい、イリスの頬に没頭します。
「やめなさいじゃ、ありません!ロガフィさんに、いったい何を教えようとしているんですか、貴女は!」
鼻を摘まみ上げられたイリスが、ユウリちゃんの手をタップします。涙を流して、本当に痛そうなので、そこでユウリちゃんは手を離しました。
ボクはというと、つねるのはやめて、代わりに軽く摘まんで伸ばして遊びます。痛くはないはずなので、イリスの抵抗はありません。
「とにかく、ロガフィさんに変な事を教えないでください。いいですね!」
「ふぁい……」
イリスは、げんなりとして、ユウリちゃんに返事をしました。その鼻は、ちょっと赤くなっています。そこで、ボクもイリスの頬から手を離すと、頬も赤い。ちょっと、やり過ぎたかな。
「……ちっ」
そんなボクの想いを無視するように、イリスがユウリちゃんに聞こえないように、舌打ちしました。どうやら、全然やりすぎではなかったようで、安心します。
そこで気づくと、ディゼルトが顔を赤くして、もじもじとしていました。
「ど、どうしたの?」
「い、いや……ひ、卑猥な話は、あまりよくないな、と……」
そう言って、恥ずかし気に顔を手で隠すディゼルトは、とても可愛いです。思わず、抱きしめてあげたくなるほどに。でも、そんな衝動は抑えて、ボクは頭を撫でるだけにとどめます。
「イリス?ディゼルトさんにも、そういった類のお話は禁止です。分かりましたね?」
「わ、分かりましたよ……」
「ちん──」
「はい、ロガフィさんも、待った!そのおぞましい物に関して、人に尋ねるのは禁止です。特に、公衆の面前では、絶対に口にしたらいけません。分かったら、お返事を。分からないのなら、分かってもらえるまで、あちらの木の陰の方で、みっちりと調教してあげます。二人きりで、みっちりしっぽりと」
ユウリちゃんは、ロガフィさんが、再び口にしようとしたその言葉を、ロガフィさんの口を塞いで止めました。そして、ちょっとだけ息を荒げて、ロガフィさんに迫ります。
ユウリちゃんの、脅しともとれるような発言に、ロガフィさんはたじろいでいます。そして、ちょっと怯えた様子で、ユウリちゃんに向かって首を縦に振りました。
「よろしい」
それを見て、ニコリと笑い、ユウリちゃんがロガフィさんから離れます。
解放されたロガフィさんは、すぐにイリスを背後からぎゅっと抱きしめて、すっかり怯えてしまいます。まるで、怖い人に話しかけられた幼女が、大切に抱いている人形を抱きしめて、必死に我慢しているかのような様子だよ。
「おふざけはこれくらいにして、お姉さま。あちらの方は、大丈夫なんですか……?」
ユウリちゃんが、ボクに小声で言ってきました。
チラリと目を向けている先にいるのは、地面に座り込み、泣きながら神様に祈るように両手を重ねる、リツさんです。大切な人が死の淵にいるのに、リツさんにできる事は、祈ることくらいしかない。そんなもどかしさが、伝わってきます。




