治療
来た道を、真っすぐに進んだボクは、ものの数分で、ユウリちゃん達の下に降り立ちました。
そこでは、ディゼルトが中心となって、盗賊を縛り上げて拘束している所でした。数人の盗賊は、逃げられずにその場で倒れていたから、それを縛り上げたようだ。5人の盗賊が縄で縛り上げられて、5人一纏めになるようにして、拘束されています。
「お待たせ、ユウリちゃん」
「お姉さま!」
ユウリちゃんは、必死にお腹を押さえ、男の人の出血を止めている所だった。傍にはレンさんもいて、替えのタオルを備えて、ユウリちゃんを手伝ってくれている。
2人は、ボクの姿を見て、嬉しそうに笑ってくれました。
それから、ボクが腕に抱いている、2人の女性に気が付きます。
「ディック!よ、よかった……!生きて、たんだ!」
腕から降ろしたリツさんが、怪我をしている男の人に、駆け寄りました。
男の人は、苦し気に、リツさんに目を向けるけど、言葉は出てこないようだ。まだ、生きてはいる。だけど、もうそう長くはもたない。辺りに流れ出ている血と、血にまみれたタオルが、そう語っている。
それに、ステータス画面上でも、HPが10を切った事を示している。かなり、切迫した状況にあるようです。
「貴女が、お医者さんですか?」
「い、いえ。私ではなく……」
「私が、医者だ。ごくろうだった。代わろう」
リツさんに代わり、声をあげたのはアルテラさんだ。
「お願いします」
ユウリちゃんの代わりに、アルテラさんが傷を押さえているタオルに手を置き、そのタオルを外して傷を確認します。アルテラさんは、その傷を見て、かなり険しい表情を見せました。
「ふぅ」
役目を終えたユウリちゃんは、両手に血がついた状態で、額の汗を拭くのもままなりません。ボクは、ユウリちゃんの手となり、その汗を代わりに、ハンカチで拭ってあげました。
「ありがとうございます、お姉さま」
「アルテラ。ディックは、助かるよね……?」
「分からない……。だが、当然手は尽くす。ヒーリングテリート!」
突然、アルテラさんが魔法を発動させました。僅かに緑色に発光する光が、アルテラさんと、その周囲を円形に形どり、包み込みます。
恐らくは、治癒魔法の類だと思う。優しく、暖かな光は、男の人の傷を僅かながらに癒し、その出血が少しだけ収まった気がします。
でも、それだけでは、彼は助からない。HPは、依然として減少傾向を見せている。
「リツ!私の、道具を持ってきてくれ!」
「っ……!」
リツさんは、重症の男の人を前にして、あふれ出そうだった涙を拭い、すぐに駆けだした。向かったのは、すぐ傍の、壊された馬車の中だ。大慌てで中に入ると、中から荒らすような音が聞こえて来ます。
「貴女は、良ければ私の手伝いをしてほしい。頼めるか?」
「勿論。私でよければ、手伝わせていただきます」
傍にいたレンさんは、アルテラさんに頼まれ、即答です。
ボクは、そんなレンさんに向かって拳を作って、頑張れと応援します。それに気づいて、レンさんもボクと同じように拳を作り、頑張ると答えてくれました。
「も、持って来た!」
「よし」
そこへ、リツさんが戻ってきて、茶色のカバンを、アルテラさんに渡しました。
アルテラさんは、慣れた手つきでそれを開くと、中には様々な大きさのメスや、よく分からないハサミみたいな道具に、包帯に、瓶に入った液体や、ゴム手袋にマスクなど、様々な医療道具が入っていました。
彼女はその中から、手袋を取り出してはめ、マスクを装着してすぐに準備を整えます。それからハサミを持ち、それを怪我をしている男の人の患部に、迷いなくあてがいます。
ボクは、それが触れる直前で、目を逸らしました。
「お姉さま……手、洗いたいです……」
やる事のなくなったユウリちゃんが、血まみれの手をボクに見せて、そうアピールをしてきました。とりあえず、服には血がついていないみたいで、安心です。
血って、中々落ちないんだよね。コレは、返り血を浴びた事のある、ボクの体験談です。
「そ、そうだね。水の魔法石で、洗おうか……。アンリちゃん」
「んにゅ?」
ボクは、ボクの背後に姿を消して立っていたアンリちゃんに、話しかけました。
「レンさんの傍にいて、何かあったら、すぐに知らせて」
「はーい」
声だけ聞こえて、アンリちゃんは素直に答えてくれました。
それからボクは、ユウリちゃんを連れて、ボク達の馬車の方へと向かいます。その際に、心配そうに、光の中で治療を施される男の人を見ている、リツさんを横目に見ます。地面に座り込み、今にも泣き出してしまいそうな、弱弱しい表情の彼女が、少し心配です。
「お姉さま。あの方達は、後でちゃんと紹介してくださいね。ぐふふ」
そんなボクの気持ちを知ってから知らないか、ユウリちゃんがそんな事を言ってきました。新しい女の子に目を付けたユウリちゃんの目は、怪しく光っています。
そんなユウリちゃんを、リツさんから遠ざけるように、ボクはユウリちゃんの背中を押して、馬車の方へと急ぐことにしました。




