生きてる
ボクが、リツさんの横に立ち、剣を止めた事により、邪魔をされたリツさんが、ボクを睨みつけてきます。
「何故、邪魔をする」
恨みの籠もった、迫力のある目です。その怒りの矛先は、2人を助けたボクにまで、及ぼうとしている。やっぱり、このままじゃダメだ。
「ひ、ひぃ……」
一方で、寸前の所で命が助かったお頭は、情けない声を出して、お漏らししてしまいました。ズボンを濡らし、地面を濡らして、辺りに異臭がたちこめ、とても臭くなります。
「この人を、殺す必要はありません」
「ない、だと?あたしは、コイツに仲間を殺されているんだ。コイツを殺さなければ、気が済まない!邪魔をすると言うのなら、貴女も──!」
「──ボクを、どうするんですか?」
「っ……!」
ボクが、リツさんを睨みつけると、リツさんは口を開けたまま、黙り込んだ。自分が、何を言おうとしていたのか気づいて、唖然としてしまっている。
そこへ、アルテラさんが歩み寄ってきて、リツさんの背後に立ちました。
「リツ」
「あ、アルテラ……」
アルテラさんが、リツさんの名前を呼び、リツさんが、ゆっくりと振り返った時でした。アルテラさんの平手打ちが、リツさんの頬を捉えました。でも、威力は極大に弱い、平手打ちです。顔面が腫れているリツさんに対する配慮から、手加減をした一撃でした。
「バカな事は止して、自分が、命の恩人にまで牙を向こうとした事を、恥じろ」
「……」
リツさんは、剣をその場に捨て、顔を伏せ、黙って涙を流しました。叩かれて、痛かったのかな。ボクは、その涙を見て、慌てます。
「でも、ディックは殺された……この怒りは、どうすればいいの……!」
リツさんが、静かにそう訴えました。大切な人を殺されて、でも仕返しはダメだと言われ、それではどうすればいいのか。その答えを、ボクは持ち合わせていない。
だから、何も言えなくなってしまいます。
「あ、ああ、あの……あの男なら、い、生きてる……」
「……なに?」
お頭の、しどろもどろの発言が、リツさんに希望をもたらしました。
そして、お頭のおしっこにも気にする事なく、お頭に近づいて、その胸倉を掴み取りました。お頭は、苦し気に呻るも、リツさんはそんな事気にせずに、お頭を木に押し付けます。
「今、ディックが、生きていると言ったの!?」
「少なくとも、さっきまでは生きてた!今は、その嬢ちゃんの仲間が手当てしてる所だ!」
そう言われて、思い出しました。ボクは、血を流して倒れていた男の人の命を助けるために、お医者さんを探していたんだった。
その、怪我をして倒れていた男の人が、もしかしたらリツさんの言っている、ディックという人なのかもしれない。
「そ、そうだ!ボクは、倒れている男の人を助けて、えと……その人の怪我を治してもらうために、お医者さんを探していたんです!」
「ディックが、生きてる……!」
リツさんが、気が抜けたように、フラついて倒れそうになりました。ボクはそれを、肩を抱いて受け止めて、倒れないようにしてあげます。
「それが本当ならば、早く戻らなければ!相当な深手を負っているのは、間違いないはずだ」
「は、はい。凄い大怪我で、早く治療してあげてほしくて……!」
「それならそうと、早く言って!こんなアホ共放っておいて、早くディックの所へ行かないと!」
リツさんに、元気が戻りました。ボクを突き放して、駆けだそうとするけど、でもやっぱりフラついて、危なっかしい。しかも、方向が違います。
「リツ、どこへ──ひゃっ」
ボクは、アルテラさんを腕に抱き、それからリツさんを追いかけて、リツさんも腕で抱き寄せました。
「ボクが、連れていきます。二人とも、しっかり掴まっててください」
2人は、何が起こるか分からず、不安げながらも、ボクにしっかりと掴まってきました。
その場を立ち去る前に、ボクはお頭を睨みつけます。お頭の行為は、赦される事ではない。リツさんに殺されても、文句は全く言えない。でも、お頭は殺されずに済んだ。その意味を、お頭にはしっかり考えて、今後どうするかを考えて欲しい。
「もう二度と、こんな事はしないでください。もし、次に会った時、まだ盗賊なんてしていたら、ボクは貴方を許しません。次こそは、殺します」
「っ……!」
お頭は、涙目になりながら、黙って頷きました。
ボクは、今はそれを信じて、飛び立ちました。地を蹴り、飛んで、木のてっぺんに着地して、そこからまた、別の木に飛び移ります。
向かうは、ユウリちゃん達の下です。




