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喧嘩しないで


 ボクが地面に降り立つと、お頭がそれに気づいて、腰を抜かしました。ボクは、そんなお頭を放っておいて、横を通り過ぎ、殴られていた女の人を肩に担いだ、男の人へと近寄ります。


「あ?なんだ、コイツ。どこから……ぶっ」


 ボクは、問答無用で、その男の人の顔面を殴りつけました。骨が、砕けた感触が伝わってきます。同時に、膝を折って彼が倒れるその前に、ボクは肩に担がれていた女の人を抱き寄せて、お姫様抱っこで回収します。


「あ、貴女は……?」


 ぐったりとして、ボクに身を預けている女の人が、そう尋ねてきました。その顔は、近くで見ると、更に酷い。顔中が腫れていて、内出血している。金色の髪は、乱暴に引っ張られたのか、凄く乱れていて、そこにも乱暴の痕が見えます。


「え、えと……と、通りすがりの、冒険者、です。お医者さんを探しています」


 なるべく、愛想よくして、安心させるように優しく答えたけど、上手くいったかどうかは、分からない。


「医者は……」


 彼女が、もう一方の女の人の方へ、目を向けました。

 どうやら、目を髪で隠している、青髪の彼女が、そうみたい。彼女の方も、今まさにもう一方の男の人に担がれようとしていたけど、彼はそれをやめて、剣を抜いてボクの方へとにじりよってきました。


「へへ。上物じゃねぇか。お前も、奴隷になりてぇみたいだなぁ」

「よ、よせ、コイツは……!」


 腰を抜かしているお頭が、もう一方の男の人を止めようとしたけど、彼は聞く耳を持たない。舌舐めずりをして、ボクに襲い掛かってきました。

 女の人に、それも、殴られてボロボロな女の子を手に抱いているボクに、普通に襲い掛かってくる、その神経が信じられない。ボクは、湧き出る怒りを隠さず、襲い来る彼を睨みつけます。


「あ、あぶな……!」


 腕に抱いている女の人が、心配そうな声をあげるけど、大丈夫。ボクは、足元に転がっていた石を蹴り飛ばし、襲い来る男の人に向かって飛ばしました。その石は、彼の股間に命中。


「ほあっ!?」


 股間を押さえて、その場に倒れる、男の人。

 別に、狙っていた訳じゃない。だけど、当たってしまった。今日は、無意識に急所に当たってしまう日なのかもしれません。


「さて……」


 ボクは、残った、最後の1人。お頭を睨みつけました。


「ひっ。ま、待て。待ってくれ。み、見逃してくれ。か、金なら払う。だから……!」


 お頭が、ポケットから財布を取り出して、それを地面に置きました。中には、たんまりとお金が入っているのか、膨らんで、じゃらじゃらと音がしています。


「何が……金は払う、だ……。それは元々、私たちの金だ……」


 ボクが、腕に抱いている女の人が、お頭のそんな行動に、忌々し気に言い放ちました。


「う、うるせぇ!この金はもう、オレの物だ!た、頼む。コレで、見逃してくれ。その女どもは、こっちで処分しておく。だから、ここはお互いのためを思って、手を引いてくれ」

「ま、待って……彼の言う事に……耳を傾けないでほしい。私に、金はない……だけど、貴女に仕える事は、できる。約束します。私たちを助けてくれたら、私の永遠の忠誠を、貴女に捧げると……だから……」


 お姫様抱っこをしている彼女が、ボクの胸元を掴んで、必死にそうお願いをしてきました。この、女の人が、ボクに永遠の忠誠を……ボクは、邪な考えを、首を振って振り払いました。

 もう既に、最高に可愛い奴隷がいるボクにとって、そんな誘惑を振り払うのは、簡単です。


「リツ!一体何を言っている!」


 そんな彼女の発言に怒ったのは、青髪の女の人だ。地面を這って、一生懸命怒っているけど、拘束された状態では、ちょっと迫力に欠けます。


「だ、大丈夫です。ボクは、お金とかいらないし、貴女たちを、助けてあげたいと思います。だから、えと、喧嘩しないでください」

「い、いや、喧嘩をしている訳ではないですけど……」

「この……!」


 お頭が、ボクの返答を聞いて逆上し、股間に石が当たって倒れている男の人の剣を拾い上げると、青髪の女の人に駆け寄り、その喉元に剣を突き付けました。髪の毛を引っ張って顔をあげさせ、痛そうだし、苦しそう。


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