話が違う
直後に、茂みから飛び出て来た人たちが、少しだけ離れた所にいる馬車を、あっという間に囲みました。同時にボク達も、武装した男の人達に、剣を向けられます。
「悪いな。そういう訳だ。あんたらは、偉いべっぴんさんだ。さぞかし、高く売れるだろうなぁ」
ボク達に助けを求めて来た男の人が、ボク達を見て笑い、そう言いました。
奴隷にでもして、売り払うつもりのようだ。特に、ユウリちゃんは凄く可愛いから、高く売れるはず。見る目は、あります。
「とう……ぞく、だ……!」
怪我をして、倒れている男の人が、精一杯の力で、小さくそう呟きました。もう遅いけど、一生懸命、そう伝えようとしてくれていたのだ。
この人は、ボク達より先に盗賊に襲われてしまったんだね。
「おとなしく捕まれば、良い目に合わせてから、変態の貴族にでも売り飛ばしてやる」
「へへ。悪いようには、しねぇよ」
「おい!その魔物はいらねぇ!殺しちまえ!」
大剣を背負って、ボクとユウリちゃんを囲んでいる、男の人の中の1人。恐らくは、リーダーと思しき人が、馬車を囲んでいる人たちに向けて、そう指示を出しました。その指示に従い、ぎゅーちゃんに向かって斬りかかる男の人たちだけど、ぎゅーちゃんの反撃にあいました。
「ぎゅ!」
「死ね、おらぁ!」
ぎゅーちゃんに向かい、剣を振りかざした男の人が、その場からいなくなりました。ぎゅーちゃんから伸びた触手が、彼を薙ぎ払い、気づけば空を飛んでいます。彼はそのまま、茂みの中へと戻っていきました。
「この……!」
ぎゅーちゃんの反撃に反応した男の人が、次は弓矢を放ちます。それは、ぎゅーちゃんに突き刺さりるけど、跳ね返って地面に落ちました。
「へ?な、なんだコイツ。話がちが……ぶっ!」
弓を放った男の人も、ぎゅーちゃんの触手に薙ぎ払われました。先ほどの男の人と同じ方向の茂みに、飛ばされていきます。そして、何かとぶつかったような音と、叫び声が聞こえて来ました。どうやら、2人がぶつかったみたいだ。
「ぎゅふー」
その事に、ぎゅーちゃんは満足げに息を吐いて喜んでいます。
「この化け物がぁ!」
「全員で一斉にかかるぞ!」
「……遅いな」
「……」
残りの男の人たちが、一斉に地面に倒れこみました。それをしたのは、ディゼルトだ。一瞬にして、彼らの鳩尾に、短剣の柄の部分で叩きつけて回り、全員お腹を押さえて、地面に倒れこみました。
「な、なんだアイツ等は……!おい、女だけで、護衛はいないんじゃなかったのかよ!」
「オレに聞かれたって、分かりません!この女からの情報です!」
大剣の、リーダーぽい男の人が、ボク達に助けを求めて来た男の人の胸倉に、掴みかかります。彼は、ユウリちゃんを指さして、ユウリちゃんのせいにしようとしています。
「てめぇ。騙したな?」
「……」
大剣の男の人が、ユウリちゃんを睨みつけて、ユウリちゃんも彼を睨み返します。それに腹をたてたのか、血管を額に浮き上がらせ、大剣を徐に手に取ると、それをユウリちゃんに向かって振り上げました。
「お頭、上物を殺す気か!?」
「一匹くらい、上物がいなくなっても関係ねぇ。コイツは、見せしめに殺す」
大剣が、ユウリちゃんに向かい、振り下ろされました。その大剣は、ユウリちゃんの隣にいたボクが、素手で受け止めます。
「は?」
「へ?」
「ほ?」
周囲から、大剣を受け止めたボクに対して、様々な一文字の声が聞こえて来ました。
ボクは、手に掴んだ大剣を、そのまま握り潰すと、剣はあっけなく割れてしまいました。
「ひぃ!」
大剣の持ち主は、腰を抜かしてしまいます。でも、周囲の人たちは、まだやる気のようで、背後から襲い掛かってきた。
ボクは、背後から押しかかって来た人に向かい、振り向きもせずに後ろ蹴りを繰り出しました。それは、偶然にもその人の股間に当たってしまったようで、懐かしい感触が伝わってきた。その人は、そのまま地面を擦れて転がっていき、動かなくなります。死んでは、いない。ただ、凄く痛そう……。
「に、にげ……逃げろぉ!」
腰を抜かしていたリーダーが、半泣きで立ち上がりながら、大声を張り上げました。その指示に、皆一斉に、四方八方へと逃げていきます。といっても、元気なのはもう、数人だけだけどね。




