目的
聞こえて来た男の人の声に対応するため、ボクは馬車を降りました。全員で降りる事もないので、一緒に降りたのは、ユウリちゃんだけだ。あとの人たちは、馬車でお留守番です。
道を囲い、隠れやすそうな茂みがある。その茂みの中に、10人くらいかな。それくらいの気配を感じます。
「ディゼルト」
「ネモさん……。アレを、どう思う?」
ボクとユウリちゃんが、運転席に座るディゼルトに声を掛けると、ディゼルトは指を刺しました。
ボク達が、進もうとしていた道の先。そこに、こちらに向かって必死に手を振る人がいます。その近くでは、別の人が地面に倒れていて、血を流しているようだ。更には、壊された馬車も目に付く。
パッと見は、盗賊か何かに襲われた後の、行商人のように見える。
「周囲に、敵意を隠せていない、人の気配がある。だが、血の匂いは本物だ」
「つまり、倒れている人は、本当に怪我をしているという事だね……」
「そうだ。恐らくは、私たちを今囲んでいる連中に、襲われたのだと思う」
「おーい!助けてくれぇ!」
倒れている人の傍にいる男の人が、再びボク達に向かって声をあげ、助けを求めてきました。彼の身なりは、普通の人に見える。シャツに、ズボンに、ベルトを腰に巻いた、いたって普通の服だ。
でも、恐らくは罠だと思う。だけど、怪我をしている人を、放っておく訳にはいかない。
「ディゼルト達は、ここにいて。ボクが、様子を見てくるよ」
「嫌ですけど、お姉さまがそうしたいなら、私もついて行きます」
相手は、男の人だからね。ユウリちゃんは、あまり乗り気じゃない。でも、付いてきてはくれるみたいで、ボクは内心、嬉しく思います。
ボク1人だと、どうしたらいいのか分からなくて、パニックになっちゃうかもしれないからね。
「そ、それじゃあ、二人で行こう。行ってくるね」
「分かった。くれぐれも、気を付けるんだぞ」
「そっちも、何かあったら、お願い。皆を、守ってあげて。ぎゅーちゃんも、お願いね」
「任せてくれ」
「ぎゅー!」
ディゼルトと、大きなぎゅーちゃんが、大きく頷いてくれました。この2人がいれば、大抵の人は倒せるくらいの戦力があるからね。おかげで、ボクも動きやすいです。
ボクは、馬車はそんな2人に任せて、ユウリちゃんと一緒に、怪我をしている人の方へと駆け寄ります。
「だ、大丈夫、ですか?」
「あ、あぁ。酷い怪我をしている。早く血を止めないと、こいつ死んじまう」
駆け寄ると、倒れた男の人は、お腹から出血をしていました。苦し気な表情を浮かべて、必死に自分の手で、傷を押さえています。
「……!」
その、倒れている男の人が、何かを訴えようとしています。でも、その声があまりにも小さく、その上言葉になっていなくて、聞き取れません。
「一体、何があったんですか?」
ボクは、どうしたらいいのか分からなくて、おろおろとしていると、ユウリちゃんが懐からハンカチを取り出して、それを倒れた男の人の傷に、押し当てます。
「ぐっ……!」
強めに押さえられたことにより、男の人が、呻き声をあげました。痛そうだけど、そうしないと、たぶん死んでしまう。それくらい、出血が酷いから。
「盗賊だ……盗賊に、やられちまった……!女は、奴らに浚われて、歯向かった男はこのありさまだ」
「歯向かわなければ、貴方のように無事だった、という訳ですか」
「ゆ、ユウリちゃん!」
ボクは、心ないユウリちゃんの言葉に、怒ります。誰にだって、どうしようもない事だってある。それを責めるのは、いけません。
「いや、いい。あんたの言う通りだ。オレは、歯向かわなかったから、無事だった。ところで、あんたらは、護衛はつけてないのか?」
「いませんね。私たちは女だけで、旅に出た所なんです。これから、地方の村へと向かい、そこでゆったりとした時間を過ごすつもりです」
「あの、魔物は?」
「あれは、私のペットです。とてもおとなしくて、良い子なので人を襲ったりはしません。それに、凄くか弱くて、剣で一撃で死んでしまう程です」
怪我人を放っておいて、ボクたちの事情を聞いてくる男の人と、それに対して流暢に答える、ユウリちゃん。
そのユウリちゃんの回答には、嘘がある。ぎゅーちゃんは、剣で刺されて一撃で死んでしまうような、やわな子ではない。それに、ボク達の目的は、地方の村でゆっくりと過ごすなんて物じゃなくて、魔王討伐だ。
ユウリちゃんは、それらを隠して、男の人にそう答えたんです。
「なるほど……。護衛はいなくて、女だけで、魔物はすぐに死んじまう雑魚なのかぁ!」
ユウリちゃんの答えを聞いて、男の人は、大きな声で、それを復唱しました。
まるで、茂みの中に隠れた仲間に、その事を伝えるのが目的のように。




