力の証明
大地が割れ、レンさんのお屋敷が、半壊しました。
竜の力を超える力を、レンさんのお父さんに感じてもらうため、それに準じた力を籠めて、イリスティリア様から貰った剣を、振りぬいただけなんです。剣を交える事もなく、一瞬で終わり、その結果、そうなりました。
幸いにも、もしもに備えてお屋敷で働いている人たちには、外に出てもらっていたので、怪我人はいない。ただ、キレイに整理された、庭の茂みや木々が、吹き飛んでしまいました。オマケに、大地には亀裂が走り、深い穴が出来上がっています。更にオマケに、建物の真ん中が吹き飛び、家の中が丸見えです。窓ガラスは衝撃で全て割れ、その辺に散らばっています。
更に言うと、ボクと対峙していたレンさんのお父さんの服も、吹っ飛んでしまいました。丸裸となり、剣を手にとって構えたまま、呆然と立ちすくんでいます。
「ロガフィさん、イリスの目を隠してください!ああ、というか、ロガフィさんも、見ちゃダメです!ディゼルトさん、ロガフィさんの目を、隠して!」
「わ、分かった」
「のわっ。別に、男の裸なんて見ても、なんとも思わないですよ」
「……ダメ」
「失礼する」
そんな、お屋敷の庭先で行われた、ボク達の決闘を見守っていたレンさんが、裸になったレンさんのお父さんを見せまいと、皆に指示しています。確かに、男の人の裸は、教育によくないよね。
という訳で、イリスの目は、ロガフィさんが。ロガフィさんの目は、ディゼルトが後ろから押さえて、視界を遮っています。
ボクはというと、別にディレアトのように気持ち悪くなければ、わりと平気だ。こう見えても、元男だからね。余裕で、直視できます。……あれ、でも、なんかボクのと形が違うような気がするけど……なんでだろう。
「ネモ様!何を凝視しているんですか!」
「はっ。ご、ごめんなさい!」
レンさんの指摘通り、ボクは、思わず裸になったレンさんのお父さんを、凝視していました。だって、ボクの知っている男とは、また違った風に見えるんだもの。
指摘され、勢いよく目を逸らした先には、ゴミを見るような目の、ユウリちゃんがいました。その視線の先には、レンさんのお父さんがいます。
「コレで、証明できましたよね?お姉さまの、力を」
「……」
ユウリちゃんの問いかけに、レンさんのお父さんは黙り込んでしまっている。素っ裸で、股間を隠すこともなく……。
あまりにも堂々としているけど、隠す程でもないくらいに、身体も、色々な所も、立派です。とてもじゃないけど、初老のおじさんの身体には、見えません。
「父上?」
「ま、まさか、どこか、怪我をしちゃいましたか……!?」
まったく当たってはいないはずだけど、もしかしての事もある。心配したけど、レンさんのお父さんは、首を横に振って答えました。
「そうではない。そうではないが……」
レンさんのお父さんが、そう呟いて、自分の掌を見つめます。その手が震えていて、剣を握る手も、しきりに震えて音をたてている。
それにしても、レンさんのお父さんは、自分の裸体を隠す素振りを、微塵も見せません。全く、恥ずかしがっている様子もないので、逆にこちらが恥ずかしくなってきます。
「なんという事だ。この私が、圧倒的な力を前に、震える日が再び来るとは……」
「ハッキリとしてください。お姉さまの力を、貴方はどう感じたのですか」
「……確かに、ネモさんの剣筋を見た、あの一瞬……竜の力を、遥かに凌ぐ力を感じた。まるで、私は人間に踏みつぶされる、アリのような気分にさせられたよ。はは。震えが、止まらない。なんという事だ。本当に、信じられない。君は一体、何者なのだ」
「お姉さまは、この世界で一番強い方です」
「その通りです、父上。ネモ様は、この世界を救ってくれる、お方なのです。そんなネモ様の魔王討伐の旅に、どうか同行する許可を、お願いします」
ボクの左右に、ユウリちゃんと、レンさんが立ち、対峙するレンさんのお父さんに迫ります。
「ヘンケル様!」
その時、家の敷地に、大勢の兵士が駆けつけてきて、大勢の兵士がボク達に向かってくるのが見えました。この町の指導者である、貴族のレンさんのお父さんのお屋敷が、いきりなり吹っ飛んだんだから、そうなるよね。
完全武装の騎兵が、先導して向かってきます。その後ろにも、数十の歩兵が続いていて、大騒ぎです。
「──分かった。私の負けだ。レンを、連れていけ」
そんな兵士たちが駆けつける前に、レンさんのお父さんは、ポツリとつぶやくように、そう言いました。
「父上!」
「ただし、必ず、無事に帰すと約束してほしい。レンは、私の宝だ。レンを失えば、私は恐らく、生きていけない。そのつもりで、同行させてくれ」
「約束、します。レンさんは、ボクが絶対に守ってみせます」
レンさんが、ボクが答えるのと同時に、腕に抱き着いてきました。ユウリちゃんも、安心したようにため息を吐き、そして素っ裸のレンさんのお父さんを、相変わらずゴミを見るような目で、見ています。
こうして、どうにかレンさんも、一緒に行く事が、できるようになりました。




