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真実


 掌を返し、レンさんの意向を無視して、レンさんのお父さんに寝返る発言をしたユウリちゃんに、ボク達は驚かされました。


「本気で、言ってるんですか……?」

「本気です」


 レンさんが、ユウリちゃんを睨みつけています。それに対してユウリちゃんは、そう言って頷きました。

 両者の視線がぶつかり、火花が飛び散ります。いつもは、ボク関連でだけいがみ合う2人が、こうしてボク以外の事で睨み合うのは珍しい。というか、初めてかもしれない。


「レン。ユウリさんは、お前と私のためを思って、言ってくれているのだ。お前は、この町に残り、普通に暮らす。それで、いいな。できれば、他の方々も、旅に出るのはよしてほしい。貴女達は、レンの大切な友人だ。そんな危険な事は、勇者に任せておけばいい」


 その勇者が、女神さまからのお告げがない以上、この世界には生まれないんだけどね。いくら人間が、強い人を勇者だと崇めても、それは本当の勇者ではない。女神さまに、選ばれし人間……それが、真の勇者であり、それ以外は偽物だ。

 だから、魔王討伐に出たと言う勇者が、道半ばで敗れたと言う話は、イリスの言う通り、必然的だ。


「嫌です……私は、ネモ様と共にあります!」

「まだ、分からんか、このバカが!」

「ひう!?」


 レンさんのお父さんが、未だに我儘を言うレンさんに、激怒しました。机を叩いて怒鳴ったレンさんのお父さんの、その拳のあまりの威力に、机が割れてしまいました。キレイに、真っ二つです。

 その凄い音と、声に籠もった凄まじい怒気に、ボクは驚いて目を閉じ、縮こまります。

 そんなボクを庇うように、ディゼルトが、先ほどのお返しと言わんばかりに、頭を撫でて安心させてくれました。


「いくら怒鳴られた所で、私の心は揺らぎません!パパの方こそ、バカです!」


 レンさんが、これまで父上と呼んでいたお父さんを、パパと呼んで反論しました。人前では父上と呼んでいて、素ではパパって呼んでたんだね……可愛いな。思わず、頬が緩みます。


「はぁ……ユウリさんも、どうか娘に言ってやってくれ。もはや、私の言葉は届かんようだ」

「へ?私ですか?」

「……裏切り者のユウリさんの言葉も、届きませんっ。私は、ネモ様に付いて行きます」


 レンさんは、すっかり、ユウリちゃんに対してもへそを曲げてしまっている。

 2人共、ボクにとっては大切な存在だ。いつもとは、また違う意味でいがみあう2人を見るのは、複雑です。意見は違えど、2人には仲良くしてもらいたいから……だから、ユウリちゃんに対して怒るレンさんを見ているのは、ちょっと悲しい。


「いえ、ちょっと待ってください。別に、私はレンさんを裏切ろうだなんて、思っていませんよ」

「何を白々しい事を言っているんですか!先ほどユウリさんは、ハッキリと、諦めると言ったではないですか!裏切り者です!私を除け者にして、ネモ様を独り占めしようという魂胆なんでしょう!ネモ様とキスした事が、そんなに許せませんか!?せっかく、お友達だと思っていたのに、酷いです!」

「キス……?」


 レンさんのお父さんが、涙目になって訴える、レンさんの衝撃のカミングアウトに、呆然としています。ボクも、身内の前でそんな告白をされると、居心地が悪くなってしまいます。


「いえ、ですから、落ち着いてください。私が言ったのは、お父さんを説得するのは、諦めようと言う事です。恐らく、この方にはもう、何を言っても無駄ですからね。その場合、子供が取るべき行動は、一つ。家出をせざるをえません」

「家出……そうですね。そうしましょう!私、ユウリさんを信じていました!」

「へっ。よく言いますよ。随分と、言いたい放題言ってたじゃないですか。私が、レンさんを裏切る訳ないでしょう……。前にも言いましたが、私はお姉さまを愛していますが、レンさんも好みで、出来ればお姉さまと一緒に愛したいと思っています。そんな貴女を、私が邪魔者扱いして、置いていくとでも?」


 てっきり、レンさんのお父さんの気持ちを、くみ取ったのかと思ったよ。ボクも、レンさんと同様に、騙されてしまいました。

 ユウリちゃんの真意を見抜けなくて、ボクはそんな自分にガッカリです。


「意地悪を言わないでください……でも、ごめんなさい。少し、余裕がなくて、ユウリさんの真意を量り損ねてしまったようです……。この埋め合わせは、ちゃんとします」

「言いましたね……?埋め合わせを、する、と。それは、私の願いを聞き入れてくれる、という事でいいでしょうか」

「は、はい……」


 今更後悔しても、もう遅い。レンさんは、ユウリちゃんに凄い変態行為を要求されてしまうに違いない。今度は、ユウリちゃんの真意が、ハッキリと分かりました。


「もういい。全く、話にならん。やはり君たちは、まだまだ子供のようだ」

「パパ!」


 ユウリちゃんが、味方ではなかったと分かり、レンさんのお父さんは再び、頭を抱えました。それに対して、レンさんがまた何か言おうとするけど、それをユウリちゃんが遮りました。


「待ってください、レンさん。……子供だと言い捨てるのは、簡単です。でも、魔王の討伐に付いてくることは、危険だと言い捨てるのは、それこそ短絡的な考えです」

「と、言うと?」

「僭越ながら、ネモお姉さまは、この世界の何よりも強い方です。そんなお姉さまの傍にいる事が、どうして危険だと言えるのですか?お姉さまに守っていただける事こそが、レンさんを守る事に繋がるのではないでしょうかと、私は思います」


 ユウリちゃんは、すっかり子供モードなレンさんに代わり、静かに、冷静に、レンさんのお父さんに語り掛けます。

 でも、語り掛けるその様子は、なんだかちょっと怒ってるような?目つきが、怖いです。相手が、男の人だからかな。そこは、レンさんの身内だろうと、なんだろうと、関係ないんだね。


「この世界の、何よりもだと?バカも、休み休み言え。こんな小娘が、あの恐ろしい魔王よりも強いと言うのか」

「少なくとも、貴方よりは強い」

「そうだな。確かに、私は負けている。だが、それまでだ。私に勝てた事は、誇りに思って良い。君の力は、それにより、それなりに証明できた。だが、魔王はもっと強い。私を倒した事など、力の証明にはなるが、最強の証明にはならんのだ。もし君が、本当にそこまで強いと言うのなら、他の方法で、その力を私に証明する必要がある」

「では、どうしろと?竜でも倒せば、レンさんの同行を許可してくれますか?」


 ユウリちゃんの台詞に、ボクは気づきました。竜は、この世界最強の生き物と言われているようだ。それを倒すという事は、最強の証明になる。

 そんな竜を引き合いに出し、ユウリちゃんが、レンさんのお父さんに言わせたい言葉は……。


「そうだな。竜を倒せば、最強として認め、レンの同行を認める事ができる」


 鼻で笑い、できる訳がないと思って言った言葉なんだろうけど、どうやらこの人は、竜の一件の真実を、知らないみたいです。


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