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鳥肌


 ボクが、魔王討伐に行くと決めたその時から、皆が素早く動いてくれる事になった。

 メイヤさんは、ギルドとして全面的にサポートする事を約束してくれて、馬車やその他旅の荷物などを用意してくれると、言ってくれた。ギルドメンバーであるボクが、魔王討伐を果たせば、ギルドの地位も名声も、跳ね上がるから、というのが理由らしいけど、ボクはメイヤさんはそんな人じゃないと思う。例え、そういうのを抜きにしても、たぶん協力してくれたと思います。

 聖女様も、協力を約束してくれた。でも、ボクを勇者として認定する事は、聖女様の一存ではできないらしいので、勇者として認定はできないみたい。コレにより、各地で勇者が受けられるはずだった恩恵とかは受けられないけど、でも、ボクとしてはこの世界の勇者になるつもりはない。あ、だけど、聖女様のポケットマネーで、300万Gくれると、言っていた。ラメダさんへの借金返済やらで、資金難だったボク達にとって、それはとても助かる事です。

 その、ラメダさんへの借金の事だけど、とりあえずは、メイヤさんがボク達の今のお家を買い取って、そのお金でラメダさんへの借金を、返済する事になった。おかげで、ボク達のラメダさんへの借金は、チャラに。更に、無事に帰ってきたら、またそのまま住めるようにしてくれると言ってくれたので、帰る家も確保したままです。ただし、無事に帰ってきたら、その時はゆっくりでいいので、お金を返す事と、言われました。当然と言えば、当然だね。

 これらの準備は、最低でも今日1日はかかると言われてしまったので、出発は明日の朝です。すぐに出発したいであろうロガフィさんには、我慢してもらいます。

 それで、ボク達はその時間を使って、今日1日のんびりと過ごそうとした訳なんだけど、早速問題にぶつかりました。


「ならん!」

「なります!なるったら、なります!」


 ボク達は現在、レンさんのお家に訪れています。レンさんの、荷物を取りに来たのと、レンさんのお父さんに、レンさんがボクに同行する許可を貰うためです。

 レンさんのお家は、凄く広いです。広くて豪華で、執事さんやメイドさんがいっぱいいて、特にメイドさんは凄く美人の人ばかりで、良いなと思います。

 そんなお家の一室の、応接室に通されたボク達は、レンさんと、レンさんのお父さんにより、押し問答をかれこれ数十分聞かされている所です。


「ふわぁ……」


 イリスが飽きて、眠たそうにあくびをしています。部屋の隅っこのソファで、イリスはロガフィさんと一緒に座り、ロガフィさんにもたれかかっています。

 残りの4人は、レンさんが1人で、1人がけのソファに座り、ボクとユウリちゃんとディゼルトが、レンさんのお父さんと対面する、3人から4人掛けのソファに腰をおろしています。

 白髪と黒髪の混じった、初老の男の人が、レンさんのお父さんです。シワが目立つものの、威厳のある顔立ちは、怒ると、とても怖そう。ただ、前見た時のようなクマは取れていて、血色が良くなり、少し若返って見えます。

 あの時は、アスラに操られて、精神に異常をきたしていたからね……コレが、本来のレンさんのお父さんの姿だ。男目線で見ると、凄く立派で、カッコイイ姿だと思います。


「大切な一人娘を、魔王討伐などという危険な旅に、出させる訳がないだろう」

「危険かどうかなんて、私は知りません!ネモ様についていきたいから、ついていくんです!私はネモ様を愛しているんです!ネモ様がいないと、死んじゃうんです!」

「我儘をいうな!ただでさえ、傷ついたお前を想い、学校への復帰も先延ばしにして居候も許可してやっているのだ。それ以上を望む事は、許さん!」

「わ……」


 レンさんのお父さん、静かに怒鳴るように言って、凄い迫力。下手に怒鳴られるより、よっぽど怖いよ。

 そんなレンさんのお父さんに、臆さずに駄々をこねるレンさんは、さすがは親子だ。ボクなら、何も反論できずに縮こまっちゃうよ。


「む~!父上の分からずや!」

「分からずやで、けっこうだ。これは、お前を守るため、必要な事なのだ。例え分かってもらえなくとも、私はお前をそんな危険な旅には出さん!」

「むー!」

「駄々をこねる、レンさん……良いですねー」


 そんなレンさんを見て、そう呟いたのは、ユウリちゃんだ。ユウリちゃんは、ずっとニコニコ顔で、嬉しそうに、普段見る事のできない、子供モードなレンさんを眺めている。


「呑気な事を言っていないで、ユウリさんも父上に、なんとか言ってやってください!私は、父上に反対されてネモ様と別れるとか、絶対に嫌です!」

「嫌とかいう問題ではない。行かせない。ただ、それだけだ」

「まぁそれは嫌かもしれませんが、でも一つ気になった事があります。レンさんは、学校に行っていたんですか?」

「……はい。私は、魔法専門学校に通っていました」

「レンの紋章魔法は、学校随一の物だ。将来、必ずや、優秀な魔術師になるだろう。だから、ゆくゆくは学校に復帰させ、その後はどこへでも好きな所に行けばいいと思っている。ただし、危険な事は、なしだ」


 確かに、レンさんの紋章魔法を、この間初めて見せてもらったけど、魔法を遮断させる、紙媒体の魔法は見事でした。ボクは、あんなの初めてみたよ。


「例の件以来、学校には通っていないんですね」

「はい。復学の手続きは、私の精神的な状況を見て判断すると、父上が」

「……私は多くの皆さんのおかげで、正気を取り戻し、我に返る事ができた。だが、ようやく普通の親子の生活に戻れると思ったら、そうはいかなかった。レンは、精神に異常をきたしてしまったのだ。それほどまでに、辛い生活だったのだと思う。全て、私の責任だ」

「れ、レンさんが……!?」


 それは、初耳だ。ボクから見れば、レンさんはいたって普通に見えるけど、お父さんが言うなら間違いない。心配になって、レンさんを見るけど、レンさんは首を傾げている。ボクも、それを見て、首を傾げます。


「私は、瓶にいれたネモさんの髪の毛の匂いを毎日嗅ぎ、焦点の合わない目で笑うレンを見て来たのだ。君の家に、娘が厄介になるのを許可したのは、そのためだ」

「……」


 確かに、それは怖い。異常です。鳥肌がたつのを感じました。実の娘が、そんな事をしていたら、どう思うだろう。頭を抱える、レンさんのお父さんの心中を、察します。

 一方でレンさんは、実の父親にそんな事を言われているのに、恥ずかしがって顔を赤く染めています。ここは、決して照れる場面じゃないよ。


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