パーティ
ロガフィさんに加えて、レンさんまで付いてくるとなると、更に多くの荷物が必要なってしまう。そりゃあ、皆で一緒に行った方が楽しいだろうけど、でもボク達は、遠足に出かける訳じゃないんだ。魔王討伐に行くんだよ。
「分かりました。一緒に、行きましょう」
「ユウリちゃん!?」
二つ返事でそんな事を言ったユウリちゃんに、ボクは抗議の目を向けます。
最近は、いがみ合う事の多い2人だけど、ユウリちゃんはレンさんの事も好きだと、公言している。別れるのが嫌で、連れて行こうとしているのかもしれない。
でも、別れるのが嫌だという理由で連れて行くのは、ボクは嫌だな。
「お姉さまは、レンさんと一緒にいたくはないんですか?」
ユウリちゃんがそう問いかけてきて、レンさんがボクに目を向けてきます。
レンさんは、ボクにとって、ユウリちゃんやイリスに匹敵する、かけがいのない存在だ。ボクに、知らない人に優しくする事を教えてくれたのは、レンさんだと思う。レンさんを見て、そうありたいと思い、ボクは変われたんだ。
そんなレンさんが、ボクの事を愛していると、言ってくれた。一緒に、いたくない訳がない。
「そ、それは……いたい、よ。一緒に、いたい」
「私も、同じ気持ちです。この数日間、ネモ様と別々に暮らして気づきました。ネモ様と別れるくらいなら、命を落とした方がマシです。私にとって、ネモ様は生きるために必要な存在なのです。だから、どうか一緒にいさせてもらえないでしょうか!」
「……」
確かに、ボクの家に戻って来たレンさんの様子は、おかしかった。その様子は、レンさんのお父さんが我慢できずに、ボクの家に泊まる事を、許可するくらいだ。
それが、魔王討伐にボクが町を出て行って、もっと長い期間になったらどうなるのだろう。もしかしたら、暗黒面にとらわれて、抜け出せなくなってしまうかもしれない。嫌だよ、帰ってきたら廃人になってるとか。
「連れていきましょう、ネモ。たぶん、レンは何を言っても、付いてきますよ」
ボクにそう助言してくるイリスが、ロガフィさんによって抱き上げられて、そして座ったロガフィさんの膝の上に乗せられました。元通りだね。
「……分かった。一緒に、行こう」
「ネモ様!愛しています!」
レンさんが、ボクに抱き着いてきました。ユウリちゃんは、そんなレンさんに、黙って何も言わない。今回は、キスまではしてこないから、ユウリちゃんの言う所の、抜け駆けはないから、かな。
むしろ、一緒に行けることになって、安心しているようだ。
「レンファエルさんが行くのなら、私も行くぞ」
続けて同行を志願してきたのは、ディゼルトだ。
「ディゼルトさん……確かに、私は貴女を護衛として雇いたいと言いました。ですが、魔王討伐にまでついてくる必要は、ありません。貴女には、代わりに父に、護衛として雇ってもらえるよう、進言します」
「私は、貴女達に恩を返す必要がある。魔王討伐を決意した恩人を、ここで黙って見過ごす訳にはいかないからな。役に立つかは分からないが……役に立たないと判断すれば、捨ててもらって構わない。どうか、同行させてくれ」
ディゼルトを、捨てる……。そう聞いて、ボクは段ボール箱に入り、甘えた目で見つめてくるディゼルトを思い浮かべました。耳がぴこぴこと動き、尻尾がもふもふ……捨てられる訳がないよね。そもそも、捨てないけど。
「ははは!面白そうだ。私も、ついて行こう」
「ひっ!?」
続いての同行志願者は、メイヤさんだ。それを聞いて、イリスがあからさまに、嫌そうな顔をしました。
「では、私も」
続いて、聖女様もそんな事を言いました。
「貴女は、この町を守らないといけないでしょう!」
「そうでしたね。冗談でございます。でも、私もたまに、思うのです。聖女として、この町を守る事を義務付けられ、離れる事を許されないこの身ですが……たまには、町の外へ出てみたい、と……」
確かに、聖女様はこの地に縛られた身だ。それは、ちょっぴりつまらなそうで、凄い重責だと思う。連れて行ってあげたいけど……。
「本当に、冗談です。私は、この町を守る。そう、自分で決めたのです。変な空気にして、申し訳ございません」
「私も、冗談だ。私は自ら、危険に入っていくつもりは、ない。ただ、イリスと別れるのは辛すぎる。イリスは置いて行ってくれ。安心しろ。檻の中にいれて、誰にも手は出させない。お前たちが帰ってくるまで、私が責任をもって、食事からトイレの管理まですると、約束をしよう」
「……」
変態である、メイヤさんが付いてこないと聞いて、イリスは安心している。ただ、その後の言動が気持ち悪くて、青ざめています。
「私は冗談ではないぞ!?付いて行かせてほしい!」
「わ、分かった。ディゼルトも、一緒に行こう」
「ボクも行くよ!」
「わぁ!?」
突然、机の中央から顔を出したのは、アンリちゃんでした。突然登場したアンリちゃんに、ボクは叫び声を上げ、驚きました。
「ディゼルトさん!?」
特に、ディゼルトは気絶してしまいました。机に突っ伏して、目を回しています。
「こんな所で姿を見せないでください!隠れて!」
「わ、分かった、分かった。だから、ボクもついて行かせてよ」
ユウリちゃんが、慌ててアンリちゃんに隠れるように指示をします。聖女様の魔法により、声は遮断されていても、視覚は遮断されていないからね。騒ぎになると、面倒だ。
「いいでしょう、ネモさん」
机から、目だけを出して、アンリちゃんが尋ねてきます。
「分かった。行こう」
ボクの返事を聞いて、アンリちゃんが目を細めて笑いました。
コレで、とりあえずのメンバーは決まった。ボクと、ユウリちゃんと、イリスと、レンさんと、ロガフィさんに、ディゼルトに、アンリちゃん。元勇者に、転生者と、元女神と、貴族の女の子と、元魔王に、元奴隷の亜人種の女の子と、幽霊。凄いメンバーだけど、楽しそう。
一人だった時とは違い、想像する未来は、明るい。パーティって、こんなに良い物なんだなと、ボクは思いました。




