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倒します


 お店の中へと戻ったボク達は、また聖女様の魔法を発動してもらい、周囲に声が聞こえないようにしています。場所は、変えるのが面倒なので、このままです。

 ちなみに壊れたギルドの扉は、聖女様が連れてきた、護衛の騎士達が、絶賛修理中だ。ボクの家もキレイに直してくれたし、彼らならきっと、このギルドもキレイに直してくれるはずです。


「……」


 メイヤさんが、席に座ったボク達……ついては、イリスを膝の上に乗せて座っている、ロガフィさんを見て、頭を抱えています。小さく、可愛いイリスを膝に抱くロガフィさんは、小さくて可愛い子が好きなメイヤさんにとって、ライバル以外の他でもない。その目は、羨望を抱きつつも、ライバル心を燃やしている。

 普通であるなら、イリスはメイヤさんに、膝に抱かせるなんて事は絶対にしないのも、メイヤさんのロガフィさんを見る目が厳しくなる原因かもしれない。でも、仕方ないんだ。変態だから。


「イリスを抱いて、随分と心が落ち着いたようだな、この魔王は」


 メイヤさんが、嫌味っぽく言いました。ロガフィさんは、それに対してイリスの頭に頬ずりをして、気持ちよさそうに目を細めて応えます。


「くっ……!なんて、羨ましい……しかし私なら、両手でイリスのその小さな胸や、お腹を撫でつつ、耳を舐めながら、愛を囁いて私から離れられなくなるまで、そうしているだろう。まだまだ、甘いな」

「……」


 何が甘いのか、分からない。でも、メイヤさんは怪しく笑いながら、勝ち誇ったように言っている。

 それを聞いて、イリスが引いています。そんな事言ってるから、イリスに避けられるんだよと、その場の全員が思いました。


「と、ところで、ラクランシュ様は、ジェノスさんからそのお話を聞いていたんですか?」

「……はい。先日の戦いが終わったすぐ後で、そのようにするとの意向は受けておりまして、その時から、ロガフィさんの身の事だけを非常に心配しておりました。私としては、ジェノスさんが犠牲になる事はないと説得は試みたのですが……意思は、固かったようです。ところで、ぎゅーちゃんは一緒ではないのですか?久々に、抱きしめてちゅーしたいのですが」

「……」


 聖女様が、大切な話の最中だというのに、落ち着かない様子でそわそわして尋ねてきました。

 こうして聞いていると、聖女様もメイヤさんみたいだね。対象がイリスじゃなくてぎゅーちゃんだというだけで、根本は同じだ。


「残念ながら、ぎゅーちゃんはお家でお留守番中です」


 ユウリちゃんが、申し訳なさそうにそう言います。


「そうでございますか……」


 聖女様は、それを聞いて、落胆の様子を隠そうともしません。

 本当に、聖女様はぎゅーちゃんの事が好きだよね。触手の魔物と、聖女様……また、変な事を想像しかけて、ボクはそんな考えを、頭を振って払いました。


「その事を、ラクランシュ様はジェノスさんから固く口止めされ、だから私たちに話すことを躊躇ったのですね……」

「その通りでございます。この事をもしロガフィさんに話せば、ロガフィさんはきっと、追いかけてきてしまうと、言っていました。その通りになりそうでしたね」


 聖女様は、そう言って優しく笑いました。ロガフィさんが優しい事を、一番理解しているジェノスさんだから、ロガフィさんがどんな行動に出るのか、予想する事は簡単だ。そんなジェノスさんだからこそ、ロガフィさんは彼を助けたいと思い、ジェノスさんはロガフィさんを守ろうとしている。


「それで、お前たちはどうするつもりだ?ジェノスという男を追いかけようとしたロガフィを引き留めたはいいが、お前たちに何が出来る。彼女を引き留めた責任は、取れるのか?」

「取れますよ」


 辛辣な言葉を言うメイヤさんに、ボクは即答しました。


「聞こう。それは一体、どういう方法だ?」

「魔王を、倒します」

「な……魔王を……!?」


 ボクの言葉に、メイヤさんは心底驚いた表情を浮かべた。

 そんなに、意外な事を言ったかな。ボクは、ジェノスさんを追いかけて、バカな事をしないように止めるより、魔王を倒しちゃった方が早い気がするんだ。全ては魔王がいなくなれば、丸く収まるはずだしね。というか、魔王がいなくならないと、ロガフィさんに平和が訪れそうもない。だったら、すべき事は1つしかないはずだ。


「簡単に言うが、魔王の力は絶大だ。魔王の下に至るまでの、道中ですらとても辛い物になるだろう。そもそも、この国のトップが選んだ、最高の実力者である勇者ですら、道半ばで散っている。その意味を理解して、言っているのか?」

「はい」


 魔王討伐へ至るまでの道中の事は、ボクが一番よく知っている。世界は違えど、今更それを、誰かに忠告されるまでもありません。


「ネモさん。メイヤさんの言う通りです。魔王討伐は、簡単に口にする物ではございません」

「ふん。事情も知らない人間が、勝手な事を言っていますね。いいですか。ネモは、既に異世界にて、勇者として魔王を打ち滅ぼした実績があります。あなた方のような人間に、勇者を説かれる必要もありません」

「そうなのか」

「そうなんですね」


 イリスは、胸を張って誇るように、そう言いました。でも、メイヤさんと聖女様の反応が、非常に薄い。イリスが言ったから、戯言にでも思われてしまったのかもしれない。


「そ、そそ、そうなのか!?ネモさんは、勇者で、異世界を救って……す、凄い!ネモさんは、凄い人だったんだな!」


 一方で、ディゼルトがはしゃいだ様子で、目を輝かせてボクを見てきます。耳と尻尾を振って、本当にはしゃいでいる。

 そんなディゼルトの様子を見て、この純粋な亜人種の女の子を奴隷にしていた男に対する怒りが、再び沸き上がってきました。


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